【メルマガ】F.M.Letter No.312-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.312◇
  2025年3月14日(金)[和暦 如月十五日]
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◆ F.M.豆知識  最初に飢えるのは都市住民?
◆ O.カレント  米の収穫量調査の仕組み
◆ ほんのさわり 古沢広祐『今さらだけど「人新生」つて?』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 桜の開花が話題となる季節となりました。花粉症も本格化(ハックショイ)。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

-最初に飢えるのは都市住民?-

【ポイント】
 東京都を始めとする都市部の食料自給率は極めて低い水準にあり、仮に緊急事態が生じた場合の食料供給のリスクは大きなものとなっています。

3月30日(日)には所得低迷に苦しむ全国の農業者が立ち上がり、「令和の百姓一揆」のトラクター行進が行われる予定です(イベント情報欄参照)。しかし農業問題は、私自身を含む都市住民(消費者)の問題にほかなりません。

まず、食料自給率が長期的に低下傾向で推移してきた原因は、食料消費(消費者の食の選択)の激変にあります。国内で自給可能な米の消費は1960年度に比べて6割減少した一方、飼料や原料を輸入に頼る畜産物や油脂の消費量は3~4倍へと急増したこと(食の洋風化)が、食料自給率を低下させてきました。
 現在の食料自給率はカロリーベースで38%、生産額ベースで58%と、諸外国と比べて低い水準にありますが、これを都道府県別にみたものがリンク先の図312です。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/03/312_todohuken.pdf

これによると、北海道、山形県、秋田県等においてはカロリーベースの食料自給率が150~200%あり、道県外に農産物を移出する食料基地になっていることが分かります。
 一方、青森県は生産額ベースでは200%を超えているもののカロリーベースでは100%程度と低いのは、飼料を輸入に依存している養鶏等が盛んであるためです。

これらに対して、東京都、大阪府等の大都市圏にある都府県については、カロリーベース、生産額ベースとも、極めて低い水準になっています。特に東京都はカロリーベースでは0%、生産額ベースでも2%しかありません(むろん東京都の農業は野菜等が中心であるため、カロリーベースでは四捨五入すると0%となります)。

このように、万が一、大凶作や輸入途絶等の緊急事態が生じた場合には、東京都等においては食料供給に大きな支障が出るリスクが大きいと言えます。
 都市住民(消費者)には、日本の農業(生産者、産地)の現状を知り、支えていくための行動変容が求められています。さらに根本的には、人口の一極集中を是正していくことが必要です。

[データの出典]
農林水産省「都道府県別食料自給率」から作成。    
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/zikyu_10.html

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

-米の収穫量調査について-

【ポイント】
 米の収穫量調査については、主食として供給可能な米の総量を把握することを目的に実施していることから、生産者の実感とずれる場合があり得ます。

農水省HP「水稲収穫量調査と生産現場の実感について」(抜すい)

2024年産の米(水稲)の収穫量は734.5万トン(前年産に比べて18万トン増)で、作況指数は101です。これら数値について生産者からは「こんなに獲れていない」といった声が上がるなど、実態を反映していないのではといった議論があります。

 米の収穫量については、全国で無作為に約8000筆の調査ほ場を選定し、実際に刈り取りを行うなどして把握しています。ここで把握する収穫量とは、主食として供給される可能性のある玄米の総量のことです。具体的には農産物規格3等以上(炊飯した時に砕けることなく、粒のご飯として食べられる)で、かつ、ふるい目幅1.70mm以上で選別したものです。
 一方、生産現場ではブランド化戦略等から1.85mmや1.90mmのふるい目が使用されている(米粒を大きくする)場合が多く、また、カメムシ食害による斑点米等(安全性や食味には問題はないが見た目が良くない)も色彩判別機で排除していることが多いことから、統計数値が生産者の実感と異なる面が出てきているものと思われます。
 なお、1.85mmや1.90mmのふるい目から落ちた米(ふるい下米)も、1.70mmで再選別されたものは主食用として流通しているのが実態です。

[データの出典]
農林水産所HP
「令和6年産水陸稲の収穫量」
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/suiriku/r6/syukaku/index.html
「水稲収穫量調査と生産現場の実感について」
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/attach/pdf/index-87.pdf

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

-古沢広祐『今さらだけど「人新生」って?-知っておくべき地球史とヒトの大転換点』(2024.3、WAVE出版)
 https://www.wave-publishers.co.jp/books/9784866214306/

【ポイント】
 著者は、人間自らが引き起こした自滅の危機を免れるためには、世界全体の地球市民的な連帯と、グローバル資本主義の変革が不可欠としています。

著者は1950年東京生まれの國學院大學客員教授、農学博士。
 人新世(じんしんせい・ひとしんせい)とは、驚異的なスピードで発展してきた人間の科学・技術・文化、そしてグローバルな経済活動が世界に大きな脅威を与えている現代を表す地質学上の用語です。
 特に1950年頃を境に、大気中のCO2濃度の増大、熱帯雨林の消失、エネルギー使用量が「大加速化」し、微妙なバランスの上に成立している地球環境に甚大な脅威を与えているのです(いくつもの急角度のグラフが印象的です)。
 また、スケールの大きい地球史の観点から、生物は危機を迎えるたびに飛躍的に進化してきたこと(例えば「カンブリア爆発」)、ひ弱なホモ・サピエンスだけが道具の使用や他者との協調(コミュニケーション能力)により環境適応能力を高めて生き残ってきたことなども紹介されています。
 現代で急速に進みつつあるAIに象徴されるトランスヒューマニズム(超人間主義)については、新たな道具による飛躍的な進化の可能性を認めつつも、「自己や人間存在への洞察を欠いた幼児的自己拡張の現れ」ではないかと否定的です。

 最後に著者は、人間自らが引き起こした自滅の危機を免れるためには、世界全体の地球市民的な連帯と、グローバル資本主義の変革(「資本」の制御と適正利用)が不可欠と結論づけます。そして宮沢賢治の『農民芸術概論』を引用しつつ、「かつて賢治が想い、願い、祈った世界を、私たちもまた共鳴しながら可能な限り実現していけたら」と願っています。

[参考]
拙ブログ「渋谷発! 食・農・SDGsが地域を変える!!(古沢先生の講演会の模様)
 https://food-mileage.jp/2025/03/02/blog-562/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 渋谷発! 食・農・SDGsが地域を変える!![3/2]
 https://food-mileage.jp/2025/03/02/blog-562/

〇 都市住民は“食べ手”にも”作り手“にもなれる![3/3]
 https://food-mileage.jp/2025/03/03/blog-563/

〇 ヨーロッパの「脱成長」と「百姓一揆」[3/9]
 https://food-mileage.jp/2025/03/09/blog-564/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します(敬称略)。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 「複合災害の被災地から、希望の芽を育む女性たち-鈴木純子さんトークイベント」
 日時:3月17日(月)19:00~
 場所:COREDO室町テラス(東京・中央区日本橋)、オンライン
 主催:誠品生活日本橋
 (詳細、問合せ等↓)
(会場参加)
 https://seihin0317kibounome1.peatix.com/seihin0317kibounome1.peatix.com
(オンライン参加)
 https://seihin0317kibounome2.peatix.com/seihin0317kibounome2.peatix.com

〇 ランチミーティング@渋谷
 日時:3月24日(月)12:00~13:30
 場所:SLOTH JINNAN TERRACE(東京・渋谷区神南1)
 主催:Team Farmer’s Village NOTO
 (詳細、問合せ等↓)
 https://farmers-village-noto.com/%ef%bc%93%e6%9c%88%ef%bc%92%ef%bc%94%e6%97%a5%ef%bc%88%e6%9c%88%ef%bc%89%e3%80%90%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%81%e3%83%9f%e3%83%bc%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%b3%e3%82%b0%e6%b8%8b%e8%b0%b7%e3%80%91-%e3%82%92/

〇「令和の百姓一揆」トラクター行進
 日時:3月30日(日)14:00~
 場所:青山公園~明治神宮会館
 主催:令和の百姓一揆実行委員会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/profile.php?id=61571764336699
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「ねえお母さん、うちにもお風呂つくろうよ」
「お風呂屋さんに行けばいいでしょ」
「もう銭湯(戦闘)、飽きた」

 映画『この世界の片隅に』での晴美ちゃん(5歳)の台詞「もう空襲飽きた」。
 とにかく一日も早く、ウクライナやガザでの戦闘行為の停止を。

 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.313は3月29日(土)[和暦 弥生朔日]に配信予定です。今号は予定より一日遅れとなりました。昨夜の満月は美しかったですね(汗)。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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