◇フード・マイレージ資料室 通信 No.314◇
2025年4月12日(土)[和暦 弥生十五日]
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◆ F.M.豆知識 急速にぜい弱化する日本の農業生産基盤
◆ O.カレント 政府備蓄米とは
◆ ほんのさわり 青山文平『下垣内教授の江戸』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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2025年度は、強国の一方的な関税政策による混乱で始まりました。近隣窮乏化(実は自国がもっとも窮乏化)政策が二度の大戦につながったという歴史的教訓を、かの大統領が知らないはずはないのですが。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-急速にぜい弱化する日本の農業生産基盤-
【ポイント】
担い手が高齢化・減少するとともに耕地面積も減少を続けるなど、日本の農業生産を支える基盤は急速にぜい弱化しています。

前号で述べたように、私たちの食生活(食材の選択)の大きな変化は大幅な食料自給率の低下をもたらしました。自給率の低下とは、すなわち国内農産物に対する需要の減少を示すもので、その結果、国内の農業生産者は所得の低迷にあえいでいます。
さらに、国内の農業生産を支えてきた基盤も、リンク先の図314にあるように急速なぜい弱化が進んでいます。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/04/314_kiban.pdf
左のグラフは基幹的農業従事者数の推移です。
基幹的農業従事者とは農業という仕事を主とする者のことで、いわゆる「担い手」に相当します。1960年には1,175万人いた基幹的農業従事者は、2020年には136万人へと実に88%減少しています。しかも年齢階層別にみると75歳以上が32%、60歳以上では80%を占めているなど高齢化が進んでいます。経済状況の厳しさから後継者が確保できていない状況が伺えます。
一方、右のグラフは耕地面積の推移を示したものです。
1960年には607万haあった耕地面積(田と畑)は、2020年には433万haへと29%減少しています。宅地や工場用地に転用されたものもありますが、近年は耕作されず荒廃している耕地が多くなっています。
農業の担い手や耕地は、これまで日本の食料生産を担ってきた基盤に他なりません。
現在、異常気象や戦争により世界的に食料安全保障の重要性が再認識されているなか、国内の農業生産基盤が危機的と言える状況にあることを、都市住民(消費者)を含めて認識する必要があります。
[データの出典]
農林水産省「農林業センサス」「作物統計」の累年統計から作成。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noucen/index.html
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/index.html
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-政府備蓄米とは-
【ポイント】
いざという時の最後の命綱という政府備蓄米の本来の役割を損なうことなく、米の円滑な流通を確保するための難しい運用が求められています。

1993(平成五)年は記録的な冷夏と日照不足に見舞われ(2年前のフィリピン・ピナツボ火山の大規模噴火が原因との説も)、作況指数は74という大凶作となりました。2年前も作況指数95と不作であったことから在庫水準も低く、アメリカやタイから米の緊急輸入を行う事態となりました。
この「平成の米騒動」を受けて、95年に旧食糧管理法に代わる「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」が施行され、このなかで政府備蓄米制度が創設されたのです。
これは10年に1度の不作にも耐えられるよう100万トン(2か月分)を目安に備蓄するもので、従来、大凶作や連続する不作、あるいは災害等の緊急事態しか放出できないこととされていました。
しかしながら、昨年夏以降、米の小売価格の高騰が続く中、本年1月、審議会への諮問・答申を経て、米の円滑な流通に支障が生じていると判断された場合には、1年以内に同量を買い戻すことを条件に、放出(集荷業者に販売)できるように運用が見直されました。
これを受けて、これまでに2回にわたって合計21万トンの備蓄米が市場に放出され、3月下旬から小売店頭での販売が始まっています。しかしながら全国のスーパーでの米の平均価格は3月最終週まで13週連続で値上がりしており、政府はさらに放出を続ける予定とのことです。ただし、いざという時・食料危機時の最後の命綱という政府備蓄米の本来の役割を損なうことのない運用が求められます。
いずれにしても、米の生産・流通構造に関しては、異常気象の頻発や国内生産基盤のぜい弱化など過去には想定できなかった構造変化が生じていることは間違いありません。
[データの出典]
農林水産所HP「食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(令和7年1月31日開催)」
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/250131/250131.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-青山文平『下垣内教授の江戸』(2024.12、講談社)-
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000403193
【ポイント】
幕末から明治にかけての動乱期に、豪農の当主から日本美術の大家に転じた元教授。日本が急速に近代化・資本主義化するなかでの世直し一揆の状況も描かれています。

明治初期、創立されたばかりの東京美術学校で教授を務めた「当代きっての日本美術の目利き」下垣内邦雄は、78歳の時、取材に訪れた新聞記者に「俺は人を斬ろうとしたことがあるんだよ」と告白するところから物語は始まります。
邦雄は多摩の豪農の次男。江戸で「お気楽に書画なんぞ」を習っていた18歳の時、歳の離れた兄(当主)に呼び戻されます。その前年・慶応二(1866)年には、米価の高騰等を背景に武州世直し一揆が蜂起。自衛のために組織した農兵隊の指導者でもあった兄は、戦闘で三人を斬っていたのです。
その兄は訓練中の鉄砲の暴発で事故死し、急きょ家を継ぐことになった邦雄は、生前の兄の「おまえも一度斬ってみたらどうだ。そのくらい腹を据えてかからないと、この先、豪農はやっていけんぞ」との言葉を胸に、武者修行に出かけます。
そして、ある家族と運命的な出会いをしたことをきっかけに、日本美術の道に進むこととなるのです。
心に響くストーリーです。それだけではなく、幕末から明治にかけての日本が置かれた状況についての記述にも興味を引かれました。横浜開港以来、日本は近代化(資本主義化)の波に急速に飲み込まれていきます。資本は常に増え続けようとする生き物であり、人間は資本が増えるための世話をさせられているに過ぎません。そして武州世直し一揆とは、それまでの年貢の減免やお救い米の下賜など「仁政を求める作法通りの一揆」とは全く異なり、「カネの世の中」を打ち壊すこと自体を目的としていたというのです。
その武州世直し一揆は短期間で鎮圧され、明治に入ってからも秩父事件等の抵抗運動はあったものの、日本は日清・日露戦争を経て急速に近代化・資本主義化の道を突き進み、さらに80年前の敗戦を体験し現在に至っているのです。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 令和の百姓一揆[4/1]
https://food-mileage.jp/2025/04/01/blog-569/
▼ 中田が登壇するセミナーです(会員限定)。
〇 あすか倶楽部定例会「私たちの食と農を考える」
日時:4月19日(土)13:00~17:00
場所:大日本水産会(東京・千代田区内幸町1)
主催: あすか倶楽部
(詳細↓)
http://ascaclub.jp/activity/2025/0419info.htm
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇「Present Tree in くまもと山都2025」植樹ツアー
日時:4月12日(土)~13日(日)
場所:熊本・山都町
主催: NPO環境リレーションズ研究所
(詳細、問合せ等↓)
https://blog.presenttree.jp/2025/01/16/15309/
〇 市民公開講座(「令和の百姓一揆」連動企画)
「もうすぐ農家がいなくなる!…あなたはどうする?」
日時:4月20日(日)13:00~17:00
場所:福岡大学2号館(福岡市城南区七隈)
主催:小農学会
(詳細、問合せ等↓)
https://shounou-gakkai.com/Event_PublicLectures.php
〇 『村で生きる』オンライン上映会
(阿蘇のあか牛と草原を守る畜産農家のドキュメンタリ映画)
日時:4月16日、23日(いずれも水)、19:30~(100分)
場所:オンライン
主催:小農学会
(参加を希望される方がおられれば中田まで連絡(本メールに返信)下さい。)
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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「みんな元気いっぱいだったね」
「意気(一揆)軒昂でしたね」
3月30日の「令和の百姓一揆」では、楽しく行進に参加させて頂きました。
コツコツの過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.315は4月28日(月)[和暦 卯月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/
本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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