2025年はまだ4月半ばに関わらず、東京地方でも「夏日」(最高気温25℃以上)を記録する日も。今年の頃の作柄が心配です。
4月18日(金)の夕刻の東京・表参道(先月末に「一揆」で行進した懐かしい?道です)は、外国人観光客等で大賑わいです。その間を縫うようにして、国連大学内にあるGEOC(地球環境パートナーシッププラザ)へ。
日本環境ジャーナリストの会が主催する連続講座「人と地球をつなぎ直す-「食」から探るポスト気候変動の課題」の一回目は、藤原辰史先生(京都大学人文科学研究所・准教授)による「飢餓と環境破壊-食権力論のアプローチ」と題する講座。
会場には30名ほど、オンラインの参加者もおられたようです。
藤原先生からは、第二次大戦時のナチスによるユダヤ人迫害の背景には穀物をめぐる権力闘争があったこと、そのユダヤ人がパレスチナ人を追放して国家を建設したこと、いずれの場合も「飢餓」が戦争の手段として用いられた(ている)こと等についての、分かりやすい解説がありました。
いつもながら、今回も歴史的にスケールの大きなお話でした。8月頃にはこれら考察をまとめた新著が出版される予定とのこと、今から楽しみです。

翌4月19日(土)の午後は、東京・虎ノ門へ。
あすか倶楽部の第251回定例会に招いて頂いたのです。実は2013年にも呼んで下さっています。
勝手知ったる虎ノ門界隈、金刀比羅宮に参拝してから余裕をもって会場の日土地ビルに到着して担当の方に電話をしたのですが、どうもかみ合いません。
実は会場は、同じ日土地ビルでも内幸町の方だったのです。日土地ビルは虎ノ門と思い込んでいました。馴れとは恐ろしいもの、きちんと確認しなかった私のミスです。担当のIさん、探し回って下さり申し訳ありませんでした。

何とか開始予定の10分前に到着。会場の参加者は12名、パソコン・プロジェクタ・スクリーンは設置済み、資料もカラー印刷して配布して下さっています(当日の説明資料はこちら)。
消費生活アドバイザーの方たちの交流会ということもあって、冒頭、自己紹介に続いて中野孝次『清貧の思想』にある「われわれはただの人間ではなく『消費者』という名で呼ばれるようになった。人間侮蔑的な言葉。何が必要であって何が必要でないかを検討し、それに応じて社会の仕組み全体を変えねばならぬ時にきているように思う」との言葉を紹介。
さらに、食料や農業の分野において消費者の役割がますます重要になっていることを説明しました。

前半はフード・マイレージについて。
日本の輸入食料のフード・マイレージ(食料の輸送量×輸送距離)は他の先進国に比べて突出しており、地球環境に相当の環境負荷を与えていることについて、「家庭でできる省エネの取組み」による二酸化炭素削減量と比較しつつ説明。

地産地消は輸送に伴う二酸化炭素排出量の削減に有効であることについて、たまねぎ(練馬区産、北海道産、中国産)のケーススタディにより説明。地産地消は輸入品に比べて、輸送により排出される二酸化炭素の量は約16分の1になります。

後半は最近のトピックスについて。
昨年改定された食料・農業・農村基本法においては、消費者の役割に関する記述が充実(「食料の持続的な供給に寄与)されたこと。また、つい先日(4月11日)閣議決定された基本計画においても食育や消費者の行動変容の重要性が強調されていることを説明。
消費生活アドバイザーの皆様には、ぜひ知って頂きたいことです。

現在、消費者の関心が非常に高い米価格に関連して、米の収穫量調査や作況指数の仕組み(実際に刈り取って調査していること等)を説明。
また、政府備蓄米については、いざという時・食料危機時の「最後の命綱」という本来の役割を損なうことのない運用が必要ではないかと私見を述べつつ、いずれにせよ米の生産・流通については異常気象の頻発など過去には想定できなかった構造変化が生じていることは間違いないと説明。

最後に「令和の百姓一揆」についても紹介させて頂きました。
「農業問題は都市住民の問題」と染め抜いた自作の幟と牛さんの帽子を持参し、見て頂きながら、配布して下さっていた「なぜ農業問題は都市住民(消費者)の問題なのか」のフライヤーの内容を説明させて頂きました。

冒頭、「消費の現場」に携わっておられるアドバイザーの皆さまとの意見交換を中心にしたいと言っておきながら、結局、90分間も一方的に話してしまいました。
それでも多くの方から、以下のような率直な質問やコメントを頂きました。
まず「消費者の役割の重要さは理解したし、自分もスーパーでは国産野菜を選んで買っているが、消費者のできることは限られているのではないか。国がやるべきでは」といった男性の発言。よく受けることの多い質問、意見です。
私からは、3月末で農水省職員でなくなった気安さがあった訳ではないのですが、「私から言うのもなんですが、政治や行政に期待するのは間違っている」と発言すると、図らずも、この日一番ウケました。
「例えば食料自給率を上げるための直接的な政策手段としては、輸入の制限や国産品消費への助成が考えられるが、前者は自由貿易体制の下では(某大統領ではないのだから)不可能。後者は財源が必要になる。消費者の主体的な対応こそが重要。消費者(有権者、納税者)が意思表示すれば政治も変わる。現に学校給食の無償化も実現した」等と説明。
「主食とである米の生産農家には、これまで手厚い補助金を交付してきたのでは」との質問には、
「米については、飼料米や畑作物への転換のために補助金を使う(生産調整)ことによって高米価を維持しようというのが、これまでの政策の基本だった。しかし現在、米農家の所得は低迷し、担い手も減っていることから、所得補償をという声が高まっている」等と回答。
日本農業は規模拡大が必要ではないかとの意見も。
私からは、1961年の農業基本法の制定以降、規模拡大による生産性の向上が農政の主流だったこと、しかしながらその限界が明らかになってきたため、新たな基本法の条文には担い手以外の「多様な農業者」が新たに規定された旨を説明。
国際情勢に詳しい男性からは、ミャンマーで日本人スーパー経営者が公定価格に従わない価格で米を販売して逮捕された事件を引き合い出しつつ、「主食については価格統制が必要では」といった意見。
「一言で消費者と言っても様々な人々がおり、ひとくくりにできないのでは。非正規など経済的に苦しい人は、いくら国産や有機の方が品質がいいと分かっていてもしても買えないのでは」との女性からの発言。これもよく聞かれるまっとうな質問で、かつ回答に苦しむ質問です。
「資料にもあったように、エシカル消費の先進国・イギリスでも『時々エシカル』の人が大多数を占めている。経済的に困難な人にエシカルを勧める訳にはいかないが、例えば日本では携帯電話通信料に米の購入額の6~7倍を支出している。これも平均値だが、この辺りにヒントがあるかも知れない」等と回答。
他にも、国民理解の醸成のためには食育が重要では(私からは基本計画の記述等を紹介)、気候変動が進むなか植物工場や陸上養殖の取組みが重要になるのではないか等の、様々な率直な意見を頂きました。
定例会は16時過ぎに終了。消費生活アドバイザーの方たちと率直な意見交換ができました。私の方も学ぶこのの多かった会でした。主催者・事務局、参加者の皆様、有難うございました。
外に出ると熱気が残っています。ちなみにこの日は、4月中旬ながら都心の最高気温は27.8℃を記録したそうです。
いよいよ、今年の米の作柄が気にかかります。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
https://www.mag2.com/m/0001579997