【メルマガ】F.M.Letter No.318-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.318◇
  2025年6月10日(火)[和暦 皐月十五日]
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◆ F.M.豆知識  家計における米への支出額等の推移
◆ O.カレント  お茶碗一杯分の米の値段(再掲)-
◆ ほんのさわり 井上ひさし『コメの話』
◆ 情報ひろば  「市民塾」(仮称)の開講について
         ブログ更新、イベント情報等
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 いよいよ蒸し暑くなってきました。テレビのワイドショー等では相も変わらず米の店頭価格(値下げ)の話ばかり。「小泉米」は早くも今年の新語・流行語大賞との噂も(?)。今号も引き続き、米について考えます。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/

-家計における米への支出額等の推移-

【ポイント】
 米が「高騰」している現在も、米に対する支出額の約2.6倍の金額を携帯電話通信料に支出しています。

連日、テレビのワイドショー等では政府備蓄米に行列する消費者の姿が映し出され、にわか米評論家のいい加減な解説が溢れていますが、米価格の「高騰」は、それほど消費者の家計にとって死活問題となるほどの大きな影響を及ぼしているのでしょうか。
 リンク先の図318は、昨年から今年にかけての米に対する支出額等の推移を示したものです(全国、月平均)。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/06/318_kakei.pdf

緑色の折れ線グラフが、米の平均購入価格です。
 昨(2024)年1~3月期には5kg当たり1,950円だったのが、本(2025)年4月には3,937円へと2倍以上に値上がりしており、確かに米は「高騰」しています。
 緑色の棒グラフが米に対する支出額です。米に対する支出額は昨年1~3月期の1,550円(月平均)から、本年4月には3,546円へと、購入価格を上回る2.3倍の水準へと増加しています。この数字だけみると、確かに米価格の高騰が家計を圧迫しているように見えます。

一方、濃いオレンジ色が携帯電話通信料で、一貫して毎月9,000円以上を支出しています。米が「高騰」している本年4月においても、米に対する支出額の約2.6倍の金額を携帯電話に支出していることが分かります。また、インターネット接続料や化粧品にも、最近でも米に近い金額が支出されています。
 携帯電話も、今や生活にとっての必需品ですしょう。しかし、絶対的必需品(生命を維持するための主食)である米の3倍近くを支出しているにもかかわらず、米の「高騰」ばかりが騒がれていることに違和感を覚えるのは、私だけでしょうか。
 ちなみにハンセン医師の世界的ベストセラー『スマホ脳』には、スマホ使用が様々な悪影響を及ぼしているとする多くのデータが紹介されています。

なお、消費支出額全体に対する食料の割合(エンゲル係数)は27.5%、米は1.1%となっています(25年4月。外食等での米への支出額は含みません)。

[データの出典]
総務省「家計調査」から作成。
https://www.stat.go.jp/data/kakei/

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/

-お茶碗一杯分の米の値段(再掲)-

【ポイント】
 米価格は「高騰」していますが、依然としてパンなど他の食品に比べれば安いものとなっています。

左は、えすぺり(福島・三春町、2023.11/11)にて、右は木村屋總本店HPより。

米の価格が相対的に安いことを示すために、しばしばお茶碗1杯分の米の値段を他の食品と比較することが行われます。昨(2024)年7月の本メルマガでは、お茶碗1杯分の米の値段は約30円で、缶コーヒー1/3本、チョコボール4個、カップ麺5分の1杯とほぼ等しいことを紹介しました(データの出典は小農学会)。
 米の「高騰」が社会問題となっている現在、改めてお茶碗1杯分の米の値段を試算してみました。お米5kgで4,000円として1kgで800円。1kgは約7合なので1合(180 ml)で140円。1合は茶碗2杯分として、茶わん一杯分のお米の値段は約70円となります。これには炊飯のための燃料代等は入っていませんが、上記の各種食品と比較しても依然として割安であることに変わりはありません。

ところで、本年4月15日(火)付けの日本経済新聞に「『1食』のコメ価格、パンの2倍」という記事が掲載されました。これは食パン6枚切り1枚(60g)32円と茶わん1杯分の精米(65g)57円とを比較したものですが、原料(米)と製品(パン)を比較しているという点で誤った試算と言えます。65gの精米は炊飯すれば150g程度のご飯になるので、仮に同じ重量で比べるなら食パン2.5枚と比較するのが適切です。
 ちなみにNHK朝ドラで話題となっているアンパン1個の値段は、木村屋総本店のネット販売では242円となっています(正岡子規も好物だったそうです)。

[参考]
「ご飯一杯の値段」(拙メルマガNo.296、2024年7月20日(土)配信)
https://food-mileage.jp/2024/07/27/oc-296/
日本経済新聞記事「『1食』のコメ価格、パンの2倍」(2025年4月15日付け)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB091LG0Z00C25A4000000/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/

-井上ひさし『コメの話』(1992.2、新潮文庫)-
https://www.shinchosha.co.jp/book/865202/

【ポイント】
 30年以上前の論調がまったく古びていないことに驚きます。むしろ状況はさらに深刻化しているのかも知れません。

著者は1934年山形・川西町生まれの劇作家(2010年没)。1987年に故郷に蔵書を寄贈して「遅筆堂文庫」(図書館)を開設し、翌年、「自らの暮らしを生活者の視点で見つめ直す」ことを目的として、自ら校長となって「生活者大学校」をスタートさせました。
 その第一回のテーマは農業で、講師として呼ばれていた故・山下惣一さん(佐賀・唐津市、農民作家、1936~2022)が、後に井上校長から要請されて教頭に就任した経緯は山下さんの著書『振り返れば未来』(2022年、不知火書房)でも触れられています。

本書に収められた講演録や紀行文は、ガット・ウルグアイラウンド交渉が大詰めを迎えつつあった頃のものです。当時は、精米業者団体の要請等を受けたアメリカからの外圧のみならず、日本国内でも、財界や一部の学者等が米の輸入を自由化すべきと声高に主張していました。著者はこれらに真っ向から反論したのです。
 「そもそも食料は国際取引できるものなのか。世の中には土地や景色など輸出入できないものがある」
 「警察も消防も自衛隊も保健所も国会議事堂も、国民の基本的生活に欠かせないものはすべて赤字」
 「食べものは基本的に近場のものがいい。素性のよい食べものをきちっと食べるためにも、日本の農業を潰してはいけない」
 「値段を比較するのはそろそろやめて、地球そのものを大事にしていくことが必要。宇宙や地球と地域の生活や田んぼ、いわば極大のものと極小のものとをつなげるのが、自然と共生している農業」
 「水田が何百年もかけて貯めてきた地下水を目当てに、精密工業の工場が農村にどんどんやってきている」

さらに、「私たちはうんと勉強しなければならない。仲間うちでぶつぶつ言っているだけではなく、もう少し強く高く口をそろえて言うべき。いま口を閉ざすのは無責任。自由化が皆が本気で考えた結果なら従うが、うっかりしたままで、世の中がのっぴきならない所へ行くのはとても怖い」とも記しています。
 ちなみにベストセラー小説『吉里吉里人』(1981年)は、現代版の農業一揆を書いたものとのこと。

なお、本書では1985年時点の米への支出額の統計データも紹介されています。それによると支出額は1日当たり204円、1人当たりでは55円。これに対して米の「高騰」が社会問題となっている現在(2025年4月)の支出額は、それぞれ118円、48円です。

30年以上前の著者の論調がまったく古びていないことに驚きます。むしろ、日本の食料や農業の状況はさらに深刻化しているのかも知れません。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼「食と農の市民塾」(仮称)の開講について
 食と農を取り巻く深刻な問題の多くは「食と農の間の距離」が離れてしまっていることに起因しています。本塾では、特に都会の一般市民(消費者)の皆さんを対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂くことを期待して、現在、開講を準備しています。
 第1回は「なぜ農業問題は都市住民(消費者)の問題なのか」(仮題)をテーマに、6月23日の週に開催を予定しています(Zoomによるオンライン)。今後の塾の取り進め方等についても皆様と意見交換できればと考えています。
 その後、月1回程度の頻度で、食や農の「現場」に精通しているゲストをお招きして開催していく予定です(時には現地見学会や料理教室をリアル開催)。
 詳細は決まり次第、拙ウェブサイト、フェイスブックページ「フード・マイレージ資料室分室」等において告知します。食や農について関心と問題意識のある多くの方の参加をお待ちしています。
https://food-mileage.jp/
https://www.facebook.com/foodmileage

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 2025年 大賀の田植え(新潟・上越市)[5/29]
https://food-mileage.jp/2025/05/29/blog-580/

〇 国際協同組合年と二宮尊徳[5/30]
https://food-mileage.jp/2025/05/30/blog-581/

〇 スタディツアー in 多磨全生園[5/20]
https://food-mileage.jp/2025/06/02/blog-582/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 鳩山あんずフェス
 日時:6月15日(日)12:00~16:00
 場所:鳩山町コミュニティ・マルシェ(埼玉)
 主催:鳩山あんず栽培加工組合
 (詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid0LaogmNyJgfxa5TmAEhcKvhNwDPdsTgUSPnGp55cKkWMVRKbSqdkH4fr4nrdrz9aEl&id=100006303157307

〇 日本フードシステム学会 2025年度学会大会
 日時:6月21日(土)~22日(日)
 場所:東京海洋大学 品川キャンパス
 主催:日本フードシステム学会
(詳細、問合せ等↓)
https://sites.google.com/fsraj.org/2025/

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「あなたの仕事ぶりって、まるで煙突みたいね」
「えっ、どういうこと?」
「もくもく」

 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.319は6月25日(水)[和暦 水無月朔日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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