2025年6月21日(土)は東京・品川へ。
この日から2日間、東京海洋大・品川キャンパスで日本フードシステム学会の2025年度大会が開催されました。コロナ禍もあったとはいえ、フードシステム学会に参加するのは2016年度以来と本当に久々となりました。
会場に到着したのは9時半頃。日差しは強いものの風は涼しく、いっときの猛暑も和らいだような気がしました。

講義棟1F大講義室を会場に、9時50分に大会は開会。
大会実行委員長・婁 小波先生(東京海洋大学)からの開会挨拶に続いて、清水みゆき学会会長(日本大学)から「フードチェーンからフードシステムへ」と題する講演(以下、文責はすべて中田にあります)。
1994年に前身のフードチェーン研究会が立ち上げられた後、多くの主体によって相互に規定され合う「システム」を把握することが重要との高橋正郎初代会長の思いから、現在の学会名となった経緯を説明されました。さらに、学際的であることが本学会の強みであることについても説明。。

続くシンポジウムのテーマは、「海外での農業参入、海外への農産物輸出の拡大に向けたグローバルなフードシステム構築の新たな展開」です。
まず、座長の大仲克俊先生(岡山大学)による解題。日本企業による農業分野の海外進出は1960年頃からの開発輸入に始まり、2000年代以降は東南アジア等を新たな市場として認識した事業展開にシフトしていること、域内全体のフードシステムの発展と食料安全保障の確立の観点からより重要となること等についての説明がありました。
第1報告は、齋藤文信先生(日本大学)による「日本企業・農業法人による海外での農業参入」について。
経済産業省及び(公財)日本農業法人協会のデータ、事例調査結果等を引用しつつ、日本の高品質な食品に対するニーズは高いこと、コールドチェーンなど物流がポイントの一つになること等についての説明がありました。
続いて阿久根優子(日本大学)先生から、「日本の農業・食品製造業におけるグローバル市場参入にみる企業の異質性」と題して、同一産業内であってもすべての企業が輸出や海外直接投資を行うわけではないという「異質性」があることについての発表。

後半の第3、4報告は研究者ではなく事業者の方から。アカデミズムに特化していない柔軟なところが本学会の魅力です。
まず、照井 渉さん((株)西部開発農産)からは「ベトナムへの農業事業参入・外国企業の現実と課題」について。
岩手・北上市で米、大豆など約1000haを経営する日本最大規模の農業法人がベトナムに進出した経緯、直面した課題等について説明がありました。根底にはベトナムの農業発展のためにノウハウを提供したいという思いがあったそうです。
最後の報告は「日本の食のグローバル化とは何か-アウトバウンドとインバウンドとの有機的連結性の追究に向けて」と題して、北川浩伸さん(日本食品海外プロモーションセンター、JFOODO)からの報告です。
プロダクトアウトではなく、あくまでも海外の人に受け入れられるという視点が重要であるとしつつ、食の魅力を海外に発信できる人材育成の重要性を強調されました。
その人材となる基礎的要件の第1は「食に対する強い関心」、続いて「生産現場の知識」とのこと。なぜグローバルな輸出にローカルな生産現場の知識が重要なのか疑問に思い、休憩時間に質問票を提出させて頂きました。
北川さんは、「その食材がどのようにつくられているか、実際に産地を訪ねて自分の目で見て、できれば自分で手を動かして作ってみる。食は五感とも密接に関連。その食材の魅力を伝える時の説得力が全然違ってくる」等と丁寧に回答して下さいました。

これら4報告に対して、2人のコメンテーター(千葉大・吉田行郷先生、中村学園大・株田文博先生)から、それぞれ農水省国際部やJETRO勤務の体験を踏まえてコメント。
休憩を挟み、報告者全員が壇上に並んで会場からの質問を含めて回答と討論があり、もう一人の座長・石塚哉史先生(弘前大学)からの総括。
17時過ぎから総会の報告(議題は事前にオンラインで回答)と学会賞の授賞式が行われ、18時からは大学会館(生協食堂)で懇親会が行われました。オンラインとは異なり、直接、多くの方と(ご無沙汰していた方々とも)交流できるのが、リアル開催される学会の醍醐味であることを再認識。
翌日も快晴。蒸し暑さが戻ってきました。
2日目の午前中のプログラムは、6つの会場に分散しての個別報告です。

第5会場での朝9時からの最初のコマとして、私から「フード・マイレージからみた日本の食料輸入構造の変化ー2001年から2020年にかけて」と題した報告をさせて頂きました。
日本の輸入食料のフード・マイレージの2001年以降の推移を説明したのち、特に2010年から2020年にかけて全体で 2.1%増加していることについて輸入相手国・品目別の寄与度の分析結果を説明。アメリカからの穀物が12.1%減少している一方でブラジルからの穀物が13.3%増加しており、これら2国からの穀物輸入の増減によってほぼ説明できることが明らかになりました。

このように輸入相手国がシフトした背景には、アメリカのとうもろこし輸出市場における中国に対する「買い負け」があると考えられること、さらに、より遠隔地にある国からの輸入にシフトしたため輸送に伴うCO2排出量は年間で約250万トン増加していると試算されること等に説明。
そして結論として、食料輸送に伴う環境負荷削減のためにはなるべく近隣の国から輸入することが望ましいものの、いずれにせよ世界経済情勢が不安定・不透明化するなかで国内自給力の維持・向上が不可欠と述べました。やや月並みな結論ではあります。
さらに、個別報告の内容とは直接関係ない件ながら、「食と農の未来フォーラム」のチラシも配布し紹介させて頂きました。

15分間の報告、5分間の質疑応答という短い時間でしたが、座長を務めてくださった岩本博幸先生(帯広畜産大)はじめ参加者の方からは、アメリカとブラジルは国内の産地から輸出港までの輸送手段等が大きく異なるのではないか、これら情報をウェブサイト等で確認すればより精緻な推計ができるのでは等の有意義なコメントを頂きました。
また、フード・マイレージは大学の授業でも取り上げており、学生たちの関心も高いといった有難いコメントも頂きました。
久々の学会報告は貴重は有難い経験となりました。さて、これから報告論文の執筆です。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
https://www.mag2.com/m/0001579997