【メルマガ】F.M.Letter No.319-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.319◇
  2025年6月25日(水)[和暦 水無月朔日]
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◆ F.M.豆知識  米の価格と生産コスト
◆ O.カレント  米の小売価格と生産者価格
◆ ほんのさわり 安田菜津紀『遺骨と祈り』
◆ 情報ひろば
  6月30日(月)に第1回「食と農の未来フォーラム」を開催
         ブログ更新、イベント情報等
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 沖縄が80回目の「慰霊の日」迎えるなか、中東では核開発をめぐって新たな戦争が勃発。沖縄、広島、長崎を経験した日本人として、恒久平和や核廃絶に向けて果たしうる役割があるのではないでしょうか。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/

-米の価格と生産コスト-

【ポイント】
 「高騰」していた米の店頭価格はようやく沈静化する兆しを見せていますが、生産コストを考慮する視点も必要です。

6月23日(月)の農林水産省の発表によると、6月15日までの1週間に全国のスーパーで販売された米の平均価格は3,940円(5kg当たり税込み)と、約3か月ぶりに3,000円台に値下がりしました。また、小泉進次郎農相は6月10日(火)の記者会見で、追加放出する2020年産米の店頭価格は1,700円程度になると言及しました。
 なお、2024年産米の25年5月時点における相対取引価格(出荷業者と卸売業者等間で取引を行う場合の価格。2024年産米、全銘柄平均価格)は5kg当たりに換算すると2,304円となります。

 リンク先の図319は、これら価格と米の生産コストを比較して示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/06/319_cost.pdf

折れ線グラフが先ほど紹介した米の価格です。
 一方、棒グラフが米の生産コストで、全国平均で1.329円(5kg当たりに換算)となっており、作付規模が拡大するにつれて低下していることが分かります。現在のスーパーの店頭価格は生産コストの3倍近い水準に当たり、流通マージンを考慮しても生産者にとっては一定の所得が得られているものと考えられます。
 しかしながら、小泉農相が言及した20年産米の価格では、大規模階層であってもほとんど所得は確保できないことが分かります。特に小規模層では、出荷業者のマージンを含んだ相対取引価格と比較しても赤字となっています。
 テレビのワイドショー等では、相も変わらず店頭価格がどこまで下がるかばかりが取り上げられていますが、米の価格を考える際には、生産者の生産コストのことにも留意する必要があります。

[データの出典]
農林水産省「令和5年産米生産費(個別経営体)」等から作成。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/seisanhi_nousan/index.html

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/

-米の小売価格と生産者価格-

【ポイント】
 米の価格については、小売段階(スーパーの店頭等)と生産者段階との間に大きな格差があります。

農林水産省HP(販売(1))より。

米の小売価格を示すのに最も頻繁に引用されるのが、「豆知識」欄でも紹介したスーパーの店頭価格です。これは(株)KSP-SPが提供する全国約1,000店のPOSデータをもとに、産地品種銘柄が判別できるうるち精米について農林水産省が集計した平均価格(税込)で、1週間ごとに公表されています【直近の数値(以下、同じ):2025年6月9日~15日、3,920円】。

また、総務省の小売物価統計でも都市別の小売価格が公表されています。調査員が店頭での販売価格を聞き取っているもので、各品目の代表的な価格を調査するという観点から特売価格等は反映されていません【2025年5月、東京都区部、コシヒカリ4,970円、コシヒカリ以外4,769円】。

一方、生産者段階の価格を示す統計としては、農林水産省「農業物価物価統計」があります。これは農業物価指数を算出するためにJA等の農産物出荷団体等を対象として生産者段階の販売価格(「庭先価格」とも呼ばれます)を調査しているもので、全国平均価格(消費税を含む。)が公表されています【2025年4月、うるち玄米1,734円】。

これらの数値を見ても、米の価格については生産者段階と小売段階の価格の間大きな格差があることが分かります。

[参考]
農林水産省ホームページ「米の流通状況等について」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/r6_kome_ryutu.html
農林水産省「農業物価統計調査」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noubukka/index.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/

-安田菜津紀『遺骨と祈り』(2025年5月、産業編集センター)-
https://d4p.world/store/31342/

【ポイント】
 福島、沖縄、パレスチナに共通しているのは、命の尊厳を踏みつける不条理の構造。著者は「踏んでいる側」が無自覚でいること自体が暴力であるとします。

著者は1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialog for People副代表。フォトジャーナリストとして国内外の災害、戦争、貧困等の現場を取材されています。
 本書に登場するのは、福島、沖縄、そしてガザを含むパレスチナという、歴史も、置かれた現状も全く異なる3地域です。

福島・大熊町で、東日本大震災による津波と東電福島第一原発の事故により、ただ一人行方不明のままだった娘(当時小学校1年生)の遺骨を探し続ける木村紀夫さん。木村さんは「娘は見つからないことで、自然に対する畏怖が足らず、原発の稼働を許し続けてきた無自覚な自分にメッセージを送っていたのかも知れない」と語ります。
 沖縄で戦没者の遺骨収集を続けながら、激戦地だった本島南部の土砂を辺野古基地建設の埋め立てに使おうとする国・県にハンスト等で抗議する具志堅隆松さん。

著者は木村さんを沖縄に誘って具志堅さんと引き合わせ、その後、具志堅さんは福島に来て木村さんの捜索を手伝い、ついに娘さんの遺骨の一部を発見します。具志堅さんは「出てこいよ、出てこいよ、出てくれば家族のもとに帰れるよ」と念じながら土を掘ったそうです。

そして現在、パレスチナで行われている民族浄化。
 ガザは「天井のない監獄」と形容されることがありますが、「監獄とは罪を犯した人が収容される場所。ガザの人たちが何の罪を償わされているのか」と著者は憤ります。

国あるいは国際社会が、命の尊厳を幾重にも踏みつけながら何かを推し進めていくという不条理の構造が、福島、沖縄、パレスチナに共通しているのです。
 そして著者は、常に「踏んでいる側」に立っていると自覚します。これまでの自分は痛みを感じずにいられる特権に、爪の先までどっぷりと漬かって生きてきた。社会は踏まれている側ばかりに何かを求めるが、本来必要なのは「踏んでいる側」から変わることであり、そもそも「踏んでいる側」が無自覚であること自体が暴力であると断言しています。
 私自身も「特権階級の真ん中にいる一人」であるという自覚を、心に刻みたいと思います。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼「食と農の未来フォーラム」の開催について
 食と農を取り巻く深刻な問題の多くは「食と農の間の距離」が離れてしまっていることに起因しています。本塾では、特に都会の一般市民(消費者)の皆さんを対象として、食と農の現場の課題を身近に感じ、自主的な行動変容につなげて頂くことを期待して、開催するものです。
 第1回は「食と農の未来フォーラムの開催についてーなぜ農業問題は都市住民(消費者)の問題なのか」をテーマに、以下により開催します。
(詳細)
https://food-mileage.jp/2025/06/16/shokunoumirai_01/
(1)日時
  2025年6月30日(月) 午後7時~9時
(2)テーマと内容
  主催者(中田)から説明と問題提起を行い、今後のフォーラムの取り進め方や要望等について参加者との間で意見交換
(3)開催・申し込み方法
  オンライン(zoomを利用)、参加費1000円
 参加を希望される方は、以下からお申し込みください。
https://peatix.com/event/4461950/view
(4)今後の予定
【第2回】7月下旬開催予定
ゲスト:
 大友 治さん(本木・早稲谷 堰と里山を守る会、福島・喜多方市山都)
テーマ:
 「江戸時代から中山間地域の棚田を潤す元木上堰の現状と課題」(仮題)
【第3回】8月下旬開催予定
ゲスト:
 鈴木純子さん(福島オーガニックコットンプロジェクト、いわき市)
テーマ:
 「原発被災地においてオーガニックコットンを育てること」(仮題)

引き続き拙メルマガ、フェイスブック等で告知していきますので、食や農の現状に問題意識をお持ちの方はもとより、これまであまり考えたことはなかったけれど興味・関心をお持ち方など、幅広い皆様の参加をお待ちしています。
https://food-mileage.jp/
https://www.facebook.com/foodmileage

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 和歌山へ(梅収穫ワーケーション、熊野)[6/12]
https://food-mileage.jp/2025/06/12/blog-583/

〇 日本フードシステム学会 2025年度大会(於 東京海洋大)[5/30]
https://food-mileage.jp/2025/06/24/blog-584/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 中山間地域フォーラム シンポジウム「多様な関わりによる新しい農村づくり」
 日時:6月29日(日)13:00~17:30
 場所:全国町村会館2Fホール(東京・千代田区永田町1)
 主催:中山間地域フォーラム、全国町村会
 (詳細、問合せ等↓)
https://www.chusankan-f.org/

〇 ソーラーシェアリングフェスティバル 第3回全国大会
 日時:7月5日(土) 13:00~17:00
 場所:専修大学神田キャンパス10号館(東京・神田神保町3)
 主催:(一社)ソーラーシェアリング推進連盟
(詳細、問合せ等↓)
https://solar-sharing.jp/eventseminar/6465/

〇 ふくしまオーガニックコットンボランティアツアー2025(草取り編)
 日時:7月6日(日) 07:15 東京駅集合
 場所:いわき市内オーガニックコットン畑 等
 主催:(有)リボーン
(詳細、問合せ等↓)
https://reborn-japan.com/domestic/14871

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* 米令寺忽々のコツコツ小咄
「文句ばっかり言ってたら、長続きしないよ。日本の古典にもあるでしょ」
「えっ、何て?」
「怒れる(驕れる)者は久しからず、って」

 個人のフェイスブックで週3日お披露目中。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.320は7月9日(水)[和暦 水無月十五日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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 発行者:中田哲也
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