2025年7月22日(火)の夕刻は、東京・中央区立環境情報センターで開催された「今夜はご機嫌 銀座で農業・7月」に参加。
蔦谷栄一先生(農的デザイン研究所)のお話のテーマは「今こそ、首都圏からの流域自給圏づくりを」。自給率が極端に低い首都圏から上流との関係性を強め、流域自給圏のネットワーク化を図っていくことの重要性等を強調されました。
なお、次回(8月18日)は石井一也先生(香川大)から、ガンディーの文明観等についてお話しを伺う予定です。

翌23日(水)は、第2回 食と農の未来フォーラムの開催日(オンライン)。前回は中田から問題提起をさせて頂きましたが、いよいよ今回からゲストをお迎えしての開催です。
この日、最初のゲストとしてお迎えしたのは大友 治さん(本木・早稲谷 堰と里山を守る会、福島・喜多方市山都)。江戸時代から山間部の棚田を潤す本木上堰(もときうわぜき)についてお話を頂きます。
リアルタイムで24名の方が参加して下さいました(申し込んで下さった方全員には、翌日にアーカイブを配信)。
冒頭、大友さんのお話を伺う予備知識として、中田から中山間地域の概要について説明しました(説明資料の全体はこちら)。
法律上または統計上の定義、農業生産額の4割を占めていること、高齢化の進行状況、消滅した集落跡地では農林地の多くが「放置」されている現状など。一方で出生率は他方の方が高い傾向にあることも紹介。

続いて、いよいよ大友さんのお話です。
準備して下さったスライドの表題は『米は田んぼだけでつくられるのではない 稲作が生産するのは米だけではない』。画面共有して頂き、説明が始まりました(以下、文責中田。資料の全体はこちら)。
「1995年に山都町(現 喜多方市)に移住し、新規就農。ある方に『田んぼをやるなら水利組合に入らなければならない』と言われ、初めて水路の土砂や落ち葉を浚う(さらう)作業に参加した。これが衝撃だった。米作りのイメージが一変した。米作りには年間を通して過酷な作業を伴うことを初めて知った。
また、稲作は地域の自然全体とかかわっていることにも気づかされた」

続いて、本木上堰の概要について説明して下さいました。
「本木上堰は全長約6kmの山腹水路で、標高差は16mしかない。江戸時代の中期、足掛け12年の難工事を経て完成し、約14haの水田が開発された。
2011年には「特に後世に伝えたいふくしまの水文化」に選定されている」
美しい動画も流して下さいました。

「水の豊かな日本だが、河川は急流で、中山間地域に水田を作るのは困難。そこで先人たちが高度な技術を駆使して「堰」(山腹水路)を開削し、隅々まで水を運ぶことで棚田ができた」
「稲作ができるようになると人々は定住し、『里山』と呼ばれる画期的な環境システムを作り上げた。里山は、人間と多様な動植物が穏やかに共生する稀有な空間。気候の緩和、土砂崩れ防止等の機能もある。
また、里山は民衆自身が暮らしのために自らの手で作り守り続けてきたもので、それゆえにそこに暮らし続けていかなければ守れない」
「農家の激減、高齢化、後継者不足により本木上堰も存亡の危機に。2000年から堰浚いボランティアの取組みを実施している。そのボランティアの一人は『本木上堰の存続いかんを自分事と捉え、日々の自分の暮らしを問い続けなければいけないと思う』と語ってくれている」

「現在の農業政策は小規模農家、兼業農家には逆風。小規模農家等がいなくなったら堰、棚田、里山は絶滅する。しかし、あきらめたら終わり。奇跡は起こせると信じている」
「米をめぐる議論は、いかに増産するかに偏っており、肝心なものが欠落している。米は地域の全自然とかかわることによって作られる。逆に言えば、稲作は単に米を作るだけでなく、その過程で周囲の自然(里山)を再生産している」
「同時に、二重の意味で人も作っている。感性や知性をみがき育てる。さらに共同生活を通じて人と人との関係を作る。人は生産活動を通じて環境と自分自身も再生産している」

そして最後に、
「現状では中山間地域においては、規模拡大して専業農家として生計を立てるのは非常に困難。兼業しながらでも、少しでも農耕生産活動にかかわってほしい。人として暮らし生きていくために必要な感覚、感性を養うためにも」
「そして、今まさに失われようとしている日本の里山、棚田、そしてそれらの命の源泉である堰のかけがえのない価値に気づく人が一人でも多くなることを願います」と訴えられました。
ここまでで約70分。残りの時間は参加者の皆さんとの間で質疑応答・意見交換です。
農業ジャーナリストの方からは「農水省はスマート農業等で構造転換を進めようとしているが、地域を壊してしまう結果になるのではと危惧している。中山間地域樹直接支払制度も、現場にそぐわない形で見直しが行われてしまった。食べ手(消費者)もやれることはないかと考えている」等の意見。
怪我をされた元大学教員の方は、病院のベッドから奥様と参加して下さいました。
「感銘した。棚田は世界遺産に値するのではないか。自分も農業を始めようとして地域を回ったが、地域の農家の方からは後継ぎがいないという深刻な話を伺った。日本食の基本は米であり、美味しさや栄養だけではなく総合的にとらえていく必要がある」等のコメント。
棚田の保全活動に取り組んでおられる方からは、
「稲作が里山を作り、人間の感性や知性、人間同士の絆も生み出しているというお話にはしびれた」との感想。さらに、震災・豪雨被害を受けた能登の農家の方の「先祖伝来の棚田を次の世代に引き継いでいくことに何の疑問もない、できるところから自分の手で復興していきたい」という言葉を紹介して下さいました。
大友さんからは「地域の農家も途絶えさせる訳にはいかないと言っているが、世代が変わると考えも違い、やめてしまうケースも多い」とのコメント。さらに「地元の人はきれいな仕事にこだわる。一見、効率的ではないが、 その丁寧な仕事が生態系を保全している。移住してきて初めて知ったことの一つ」と話して下さいました。

長年、ボランティアとして堰浚いに参加されている男性からは、「毎年、地元の人の参加が少なくなっていることに危機感を感じている」としつつ、「どのような希望があると考えているか」と質問。
これに対して大友さんからは、「大きな流れでみると、昔は中山間直接支払制度などなかった。棚田については、歴史的な面も含めて価値が見直されつつある」とし、「いずれにしても取り組んでいる者があきらめない、折れないことが重要」と回答されました。
農家子弟の女性からは「ラインスタンプやガチャガチャにはお金を払っているのに、一杯数十円の米の値段が高いと言うのは、ちょっと違うのではないかと感じている」との発言。
小学校の教員をされていた方からは「米を作るための費用、大変さなどを子どもたちに伝える食育の取組みが重要では」とのコメント。
全く農業の経験がないという首都圏在住の女性からは、消費者に何を期待するかについて質問。
大友さんからは「そもそも、消費者と生産者に分けること自体に無理がある。消費者も何かの生産活動を行っている。しかし、食べ物については、作る人と食べる人が分断されているのが問題。都会の人も自分の手で作ってみる、関わってみる、触れてみることが重要と考える」との回答。
小学校の図書館の司書をされている方からは「絵本などで里山の大切さは分かっていたつもりだったが、改めてその重要性が理解できた」との感想。
やはりボランティアに通っておられる女性からは「山都に伺うたび、食べ物を通じて人とつながることの重要さを痛感する。一方で、正直いつまで続けられるかという不安もあるが、 奇跡は起こるとの大友さんの言葉に勇気づけられた」とのコメント。
「ぜひ、現地を訪ねたい」と表明された女性も。
最後に大友さんからは、
「中山間地域が厳しい状況にあることは間違いない。 人間にとって必要なものの方が値段は安いという、価値が逆転していることを自覚する必要がある。一方、今日は都会でもどう行動しようかと模索されている方がたくさんおられることを知って、心強く思った」とのメッセージを頂きました。
予定の21時を10分ほど超過して終了。その後、都合の方は21時30分頃まで残って頂き懇談の続き。大友さんからは、移住してきたときのご苦労(地域に受け入れてもらうことの難しさ等)についても話して下さいました。
次回(第3回)は、8月26日(火)、鈴木純子さん((一社)ふくしまオーガニックコットンプロジェクト、福島・いわき市)をゲストにお迎えして、原発被災地でオーガニックコットンを栽培し製品化までしている取組みについてお話を伺う予定です。
準備ができ次第、SNS、拙ウェブサイト、メルマガ等で告知させて頂きますので、引き続き、多くの方の参加・申し込みをお待ちしています。
(ご参考)
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https://www.mag2.com/m/0001579997
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