【ブログ】千代田区の牧場跡を巡り歩く勉強会(食生活ジャーナリストの会)

2025年10月17日(金)の午後は、久しぶりに埼玉・川越へ。翌日からの川越祭りを控えて、街は何となく浮き立っています。

 駅から徒歩10分ほど、閑静な住宅街の中にあるCha cotton(ちゃ こっとん)は、築70年の古民家をリノベーションした小さな喫茶室。美味しいコーヒーを頂きました。1杯ずつ豆を挽いてドリップして下さいます。ご馳走様でした。

翌10月18日(土)は、食生活ジャーナリストの会が主催する「【千代田区の牧場跡を巡り歩く勉強会】日本の近代酪農は東京都心部から始まった!明治初期に発展した牧場跡を巡る」に参加。
 明治時代、東京の都心部は一大酪農地帯だったとのこと。今も八王子や練馬区には牧場がありますが、都心部にも牧場があったことに驚いて参加することとしたのです。

四ツ谷駅前には、知らないうちに高層ビルがそびえ立っています。
 14時、そのビルの足元にある芝生広場に13名ほどの参加者が集合しました。

四谷~麹町~九段~飯田橋の約3時間のコースを一緒に歩いて案内して下さるのは、金谷匡高先生(法政大学エコ地域デザイン研究センタ−・江戸東京研究センター客員研究員、昭和女子大学歴史文化学科非常勤講師)。

出発に先立ち、まずは金谷先生から全体的なガイダンス。なお、詳しいレジュメと地図は事前に送って下さっていました。
 明治期に東京の中心部が一大酪農地帯になったのは、外国人や陸軍関係者等による牛乳需要が増加するなか、維新で空き地になった旧武家(旗本等)屋敷が牧場や搾乳所に転用されたためとのこと。
 この芝生広場の一帯にも四谷軒という牧場・搾乳所があったそうで(今も大手乳業メーカーの本社の看板が見えます)、ビルのコンコースにあるパネルにも説明がありました。

JRの線路をまたぎ、新宿通り(麹町大通り)を東に向かいます。
 この道路は、太田道灌が、江戸城と日吉山王権現社(現在の日枝神社)を結ぶためにつくったそうです。両側の道路は下り坂となっており、地形的には尾根に沿っていることが分かります。

半蔵門を左折。英国大使館の敷地の一部が公園として開放されていました。
 英国大使館の敷地の北を回り込んだ辺りは、雑居ビル等が立ち並ぶ狭くて閑静な路地が続いています。ここに阪川牛乳があったそうですが、まったく想像できません。開設者の阪川当晴は旧幕臣で、陸軍初代軍医総監・松本良順は親戚だったとのこと。軍における牛乳の飲用を推進していた松本は搾乳所に出資していたようです。

さらに右折して東郷通りを北上。歩いてみると、東京には坂が多いことが実感できます。
 東郷平八郎邸跡にあるのが東郷元帥記念公園。隣接する千代田区立九段小学校の前身は関東大震災からの復興小学校で、曲線の窓がモダンです。

この一帯に、山形有朋が出資した牧場・英華舎がありました。土地の所有者は日本赤十字社を設立した櫻井忠興(旧尼崎藩主)で、実際の経営は執事の平田貞次郎が行っていたとのこと。
 ここも当時を偲ぶものは残されていませんが、偶然ながら肉屋さんがありました。

外堀公園に突き当たり、右折して北東に向かいます。金谷先生が勤めておられる法政大学の市谷キャンパスのビルが見えてきました。

現在の法政大学の敷地は、かつて猪俣牧場があった場所。猪俣要助によって経営された搾乳所で、いくつかの支店もあったそうです。
 法政大学でトイレ休憩、コンビニで飲み物を購入(日差しはないものの、蒸し暑い日でした)。広い学習室では多くの学生が自習中でした。

靖国神社の脇を通り抜けたところにある瀟洒な建築物は、九段ハウス(山口萬吉邸)。1927 年に建てられたスペイン風のコンクリート造りの邸宅とのこと。

駐日フィリピン大使公邸に沿った冬青木坂(もちのきざか)は、かなり急な下り坂です。
 この日は牧場だけではなく、様々な歴史を学ぶこともできました。

冬青木坂を途中で左折して少し進んだ辺りに、榎本武揚が出資した北辰社がありました。賑やかな商業地です。目白通り沿いには「北辰社牧場跡」の碑もあります。

最後の目的地は、飯田橋駅にほど近い長養軒。旧宇和島藩士の松尾臣善が出資した搾乳所だそうですが、その跡地は、現在は再開発の工事中でした。

17時過ぎに飯田橋駅で解散。時間のある方は引き続き、懇親会に参加されたようです。
 東京都心の牧場跡を、解説付きで実際に歩いてみるという貴重な体験をさせて頂きました。金谷先生、主催者である食生活ジャーナリストの会の皆様、有難うございました。

さて、その後の東京の牧場です。
 1900(明治33)年の牛乳営業取締規則(搾乳や乳製品の製造を規制)の制定をきっかけに都心部での牧場経営は困難になり、新宿、渋谷、世田谷等の「郊外」に移転していったそうです。そして現在まで、牧場はさらに遠隔化し、同時に飼料の多くは輸入に依存するようになり、東京の都心部ではさらなる都市化、再開発が進んでいます。「食と農の間の距離」は、かくも拡がってしまいました。

(ご参考)
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 https://food-mileage.jp/
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 https://www.mag2.com/m/0001579997
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