【ほんのさわり338】三原由起子『歌集・土地に呼ばれる』

-三原由起子『歌集・土地に呼ばれる』(2022.3、本阿弥書店)-
https://www.honamisyoten.com/item/tochiniyobareru/

【ポイント】
 著者がふるさと浪江の「復興」の現実と向き合い、問いかける第2歌集です。

著者は1979年福島・双葉郡浪江町(なみえまち)生まれ。実家はおもちゃと自転車を扱う商店だったそうです。1997年、高校生の時に第1回全国高校詩歌コンクール短歌部門優秀賞を受賞。進学のために上京した後も歌を詠み続け、多くの賞の候補となってきました。現在は日本歌人クラブ参与、現代歌人協会会員。東京・下北沢でご主人と出版社を営んでいるそうです。

この歌集は、第一歌集『ふるさとの赤』(2013年5月出版)から9年後、ふるさと浪江町に改めて向き合うことを決心して出版されたものだそうです。
 浪江町は避難地域12市町村のなかでも避難指示の解除が遅く(2017年に一部解除)、現在も町内には広大な帰還困難区域が残り、住民基本台帳に登録されている人数に対する実際に居住している人数の割合は17%にとどまっています。一方、巨額の復興予算をつぎ込んで様々なプロジェクトが進行中です。
 この歌集の中でとりわけ有名な歌の一つが、次の一首です。

 「復興と言われてしまえば本当の心を言葉にできない空気」

著者は別のエッセイで、「「復興」と言えば何でもアリの風潮に、福島では本当の心を言葉にできない空気になっていると感じている」「そのような空気感を打ち破りたい」との気持ちからこの歌を詠んだと書いています。
 著者の実家の商店も取り壊されて更地になり、入り口がどこだったかも分からなくなってしまっているとのこと。しかし、

 「壊されし店の二階のわれの部屋空気となって留まっている」

街と、人々の暮らしの記憶は、魂となって留まっているというのです。
 それにしても東京電力・福島第一原発事故から16年目に入った現在もなお、被災者は何という理不尽な境遇に置かれていることでしょうか。そして、東京都民を含め多くの国民が原発事故など過去のものとして忘れつつあることも、理不尽極まりないことではないでしょうか。

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.338、2026年4月2日(木)[和暦 如月十五日]
 https://food-mileage.jp/2026/04/16/letter-338/
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