福島県の浜通りにある浪江町(なみえまち)は、2011年3月の東京電力・福島第一原子力発電所の事故により全町民が避難を強いられたました。その後、2017年に一部避難指示が解除されて徐々に居住者も増え、巨額の予算を投入しての先端技術に関わる研究機構の誘致や巨大インフラの整備等が行われています。順調に「復興」は進んでおり、あたかも原発事故は過去の出来事であるかのようです。
一方で私の胸には、歌人・三原由起子さんの「復興と言われてしまえば本当の心を言葉にできない空気」という歌が心に刺さっています。
歌集『土地に呼ばれる』には、浪江駅前で自転車屋兼玩具店を営んでいた実家が取り壊されて更地となり、上書きするように再開発が進められている現状等についての無念の思いが溢れています。
浪江町の現状の一端でも知りたいと思っていたところ、格好のイベントが開催されることを知り、2026年5月18日(月)の夕刻、東京・日本橋に足を運びました。
メトロ馬喰横山駅で下車。この辺りは「浮世絵の街」とのことで、蔦屋重三郎「耕書堂」跡の説明板もあります(『鎌倉殿』の後は大河ドラマはあまり観てないな~)。

OFF TOKYOは、東京から地域とつながる機会を提供するためのローカルハブ・スペースで、様々な地域発のイベントが開催されているようです。
この日19時から開催されたのは「浪江町の“今”に触れる夜- 田植踊りと町内ツアー事前セッション」。会場には30名ほどが参加(途中でゆるキャラ「うけどん」も登場)、オンラインでの参加者もおられるようです。
19時に開会。
この日の進行役でもある葛西優香さん(町の移住定住相談窓口を受託している(株)いのちと文化社(浪江町) 取締役)から、「今の浪江町」についての説明がありました。
葛西さんは大阪府出身、阪神淡路大震災を体験されて防災とまちづくりに携わっておられるとのこと。その後、浪江町に移住し、東日本大震災原子力災害伝承館や福島国際研究教育機構(F-REI)の研究員を経験されているそうです。
葛西さんが初めて浪江町を訪ねた2017年には「何の音も聞こえなかった」ことに衝撃を受けたそうです。その浪江町で、現在、様々な活動が生み出されているとのこと。
隈研吾デザインによる浪江駅周辺整備計画等も紹介されました。
しかしこの日、メインテーマとして紹介されたのは、先端技術や巨大インフレとは無縁の、樋渡・牛渡(ひわたし・うしわた)地区の八坂神社の再建と、田植え踊りの伝承の取組みでした。

続いて本日のゲスト・伊藤まりさん(樋渡・牛渡田植踊り保存会 副会長)から、田植え踊りについての説明がありました。
伊藤さんは東京出身、結婚を機に浪江町に移住されましたが、現在は浪江町と横浜市での二地域居住をされているそうです。
概要を説明した資料を配り、説明して下さいました。
樋渡・牛渡田植踊りは江戸時代から伝わる民俗芸能で、田植えの労働を楽しいものとするために歌い踊ったことが起源で、地域の絆を深める役割も果たしてきたとのこと。
震災により社殿は倒壊し、全住民の避難もあって、一時は田植え踊りも途絶えてしまうことが懸念されていました。しかし避難指示解除以前の2015年に神社の再建委員会が設置され、保存会や地域住民の方たちの努力によって神社は再建され、田植え踊りも将来に向けて伝承していく取組みが続けられているそうです。
なお、現在は踊り手の半数以上が移住者とのこと。
動画を映写しながら、具体的な流れ(代掻きや田植えの所作)について説明がありました。その後、全員で立ち上がって冒頭部分の踊りを体験・練習。
伊藤さんによると「簡単な所作で、2回も練習すれば小学生でも踊れるようになりますよ」とのことでしたが・・・。

会場が盛り上がったところで、進行役の葛西さんが、やや強い口調で言葉を挟まれました。
「今の伊藤さんの話を決して聞き流さないでほしい。誰も住めなくなり、現在も戻れない人がたくさんいるなかで、故郷を残すために懸命に努力している方たちがおられることを、どうか理解してもらいたい」。
伊藤さんも「伝承文化は文書化できるものではない。ぜひ年1回だけでも多くの方に田植え踊りに参加して頂きたい。私たちに『よそ者』という言葉はない。リレーランナーの一人として将来にバトンを引き継いでいくために、ぜひ力を貸して頂きたい」と訴えられました。
さらに、移住を検討している人に対する宿泊費の支援措置等についても説明がありました。浪江での暮らし体験を希望する人向けには、「お試し宿泊(長期滞在)」として公共施設で30泊2万円(定額)という制度もあるそうです。
会場の参加者との質疑応答。
伝承のあり方等についての質問が続いたのち、私からは、やや場違いと感じつつ、浪江町における居住者数と、「移住者への手厚い支援に比べて、帰還しようとする元住民への支援は少ないという声を聞くが」と質問させて頂きました。
浪江町役場の方によると、2026年4月末時点の居住者は2,471人(住民票記載人口は13,981人)で、うち移住者は約900人とのこと。
また、「支援額について移住者と帰還者との比較した数字についてはこの場で即答できないが、帰還者に対しても住宅助成等の措置はある」等の説明がありました。

最後に、7月24日(金)~25日(土)に予定している「浪江町周遊ツアー~祭りで浪江町の今と、芸術文化を体感する2日間」の紹介がありました。
F-REIや震災遺構・請戸小学校の見学、八坂神社例大祭(田植え踊り)への参加等を内容としているようです。
浪江町までの往復の交通費は自己負担ですが、町内での宿泊費と移動費用は無料とのこと(お問合せはチラシ記載の窓口まで)。

その後の交流セッション(懇親会)では、なみえ焼きそば、鈴木酒造の日本酒「磐城壽」などを出して下さいました。
登壇された方たちともお話させて頂きました。皆さん、「復興については色々な考えの人がいる」と認めつつ、それぞれ深い思いをもって前を向いて取り組んでおられることが実感されました。
私自身、原発被災地の「復興」の現状(明と暗)について、とても実感できているとは言えません。現地を一度くらい訪ねても、理解することはできないとも思います。
それでも、現地を訪ねて空気を体感することの大切さを改めて感じました。紹介頂いたツアーに参加を申し込むか否かは未定ですが、機会を見て浜通りを訪ねたいと強く思っています。
(追記:本ブログについてご感想、ご意見などお寄せ頂ければ幸いです。)
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(ご案内)
第10回 食と農の未来フォーラム「全村避難から16年目の飯舘村~原発事故からの『復興』のリアル」(仮題)の開催について
5月28日(木)19:00~21:00、オンライン
ゲスト 行友弥さん(元 毎日新聞記者、飯舘村地域おこし協力隊)
詳細は以下から。多くの方の申し込みをお待ちしています。
https://food-mileage.jp/2026/05/05/260528_10/
(参考)
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