2026年6月30日(火)19時から、第11回 食と農の未来フォーラムをオンライン開催しました。
この日のゲストは朝日新聞記者の大村美香さん。テーマは「私たちの『食』の現在地~簡便化、フードテック、食料安全保障」です(詳細、過去の開催実績等はこちら)。
約40名が申し込んで下さり、うち半数ほどがリアルタイムで参加して下さっています(今回も多くの方が、時間の都合はつかないもののアーカイブで視聴したいと申し込んで下さいました)。
大村さんのお話に先立ち、中田から食生活の現状等について簡単な説明(中田の説明資料の全体はこちら)。
冒頭で、サッカー日本代表・長友佑都選手(39)専属シェフの方の「私は“食事はその人の可能性を広げてくれる”と信じています」との言葉を紹介させて頂きました。
ちなみにこの日の未明、FIFAワールドカップ決勝トーナメントの初戦で日本代表はブラジル相手に惜敗。健闘を讃えたいと思います。
続いて、食生活における調理食品や外食の割合が長期的に増加していること。特に調理食品については、収入階級や年齢にかかわらず高い水準にあること。
一方で近年、エンゲル係数が上昇している状況等を説明。

「食の外部化」が進んでおり、うち外食についてはコロナ禍の時代には落ち込んだものの、中食については一貫して増加を続けていること。
農業・農村の現場が疲弊している中で「消費者に期待できるか」と題して消費者の4分類(徳野貞雄教授の分析)、イギリスにおけるエシカル消費の現状等について紹介させて頂きました。

続いて、大村さんから「私たちの『食』の現在地」と題してお話を頂きました(大村さんの説明資料の全体はこちら。なお、以下の文責は中田にあります)。
暮らしにかかわる記事を書きたいと志して1991年に朝日新聞社に入社された大村さん、配属された盛岡支局で「平成の大冷害」(93年)を取材されました。
米が全く稔っていない水田を見て、東京生まれ・東京育ちの自分がこれまで食べてきたものは、いったいどこから来ているのだろう、誰が作っているんだろうということを意識するようになったそうです。
また、2011年の東電・原発事故や焼き肉チェーン店での食中毒事件等から、食の安全にも強い関心を持つようになったとのこと。
最近1年間でご自身が書かれた記事等を紹介されつつ、新聞の食報道が関わる分野は、本当に幅広いことを説明されました。例えば米の品種改良、植物由来食品、世界の家庭料理、世界的な抹茶ブームなど。

昨年は「令和の米騒動」のなかで価格ばかりに消費者の関心が集まるなか、そもそも米はどのように作られているのかをリアルに伝えたいと思い、仲間と3人で手分けして全国の米産地を取材(定点観測)されたそうです。
高温により生育に障害が出ていること、省力化のために乾田直播やドローン等の新しい技術を活用していること。ほ場の中にごみが捨てられているという話を聞いた時は、腹立たしく感じられたそうです。
消費者に対するアンケートによると、今、将来を見据えて食に関して一番気になるものは食品ロス。食の安全性に対しての関心は若い世代を中心に薄れてきている。
また、食については、買ってからの「家の中」で起きていることが気になっておられるそうです。ある食品メーカーの調査を引用しつつ、若年層を中心にコンロ離れが加速しており(電子レンジがあれば十分)、包丁やまな板を使わない人(包丁キャンセル)が増えているとのこと。調理に手間をかけなくなっており、生活の中での食の位置づけ自体が縮小しているのでは、と解説されました。

一方で「調理満足度」はそれほど高くないものの「食生活満足度」は上がってきていること。日本人は料理は楽しくないと思っているという調査結果も。料理は家事労働の中でもっともモヤモヤするものとと捉えられているそうです。
企画されたオンラインイベントの参加者からは、時間がない中での料理はとても苦痛、理想とするような料理が作れないことがストレスになっている、女性だけが料理を作るという規制概念を止めてほしい等の意見が出されたとのこと。
これに対して有識者からは、日々の料理はずっと続くマラソンのようなもので自分の給水ポイントを設定するのが大事、SNSが及ぼしている悪影響、罪悪感やプレッシャーはちゃんとした食事を家族に食べさせたいという尊い思いから来ている、等のコメントがあったそうです。
そもそも食事作りとは、調理そのものだけではなく、献立を決めて買い物するなど考慮しなければならない要素が多く、シェアがしにくい(誰かが主導権を持っていないと回らない)家事ではないかと、ご自身の実体験を踏まえて話されました。
2020年には、SNSに「母親ならポテサラぐらい作ったらどうだと言われた」という投稿が大きな反響を呼んだことも紹介。
また、今後、調理定年(いつまで料理ができるか)という問題が大きくなってくるのでは、とも。

小魚を使った郷土料理についての取材の経験からは、郷土料理が衰退している(生きた知恵が継承困難になっている)と同時に、地域創生の資源等として改めて注目されているという現象があることを感じられたそうです。
次のテーマは、新規開発されるフードテックの実用化がどこまで進んでいるかについて。
例えば培養肉(細胞培養食品)については世界では実用化が進みつつあり、日本では消費者庁がガイドラインを検討中であることを紹介。

プラントペーストフードとは植物由来の原材料だけで作った食品であり、欧米を中心に環境や動物福祉、アレルギー等の問題を背景に注目されているが、もともと日本には大豆加工食品が普及していることに言及。
陸上養殖や植物工場については、環境が激変するなかで人工的に管理して食品を生産しようとする取組みとして注目されているが、果たして投入するエネルギーに見合うのか等の疑問を呈されました。
ブラジルの研究者が提唱した「超加工食品」という概念についても説明して下さいました。
複数の食材を工業的に配合して製造された加工度の度合いが非常に高い食品のことで、諸外国では大量摂取することで健康上のリスクを高めるとした研究結果がいくつか発表されているが、早食いや食べすぎ等の食行動の視点から考える必要があるのでは、と発言。
また、健康に悪影響を与えるからといって、即、禁止というのも危うい議論になってしまう。例えば、酒はたとえ少量でも健康に悪影響があると明らかになってきているが、全面禁止にはなっていないし、食文化の面での価値を考えると禁止すべきだとも私は考えない。バランスのとれた議論が必要、とも。

最近、大人の食育に焦点が当たってきていることについても紹介して下さいました。
朝食の欠食、バランスを欠いた食生活や食習慣の乱れ、食卓と生産現場との距離の広がりが課題とされ、昨年6月に設立された官民連携食育プラットフォームについても説明。
最後に、食料安全保障について説明して下さいました。
食料・農業・農村基本法でも、単に国として全体の量を確保するだけではなく、国民一人ひとりが入手できることが必要と規定されていること。この関係で、日本栄養大学の中嶋康博先生(前・東京大学)が、平常時のアクセス面も含めて懸念される4つの事態について整理されていること。大村さんは、これら懸念される事態がひたひたと迫りつつあるのではと警鐘を鳴らされました。

後半は、参加者との間での意見交換です。
生協の職員の方は「取扱い商品に対する組合員の要望の中心は、30年位前は『美味しいもの』だったが、最近は『簡単便利なもの』に移ってきている」ことを紹介して下さいました。
愛媛の農家の方は「直売所の来店者数が減り野菜が売れない時代になっているが、食生活や家庭環境の変化が影響しているのかもしれないと思った」との発言。
大村さんからは「取材に行くと、農家が実際に食べている食べ方を教えてもらう。新タマネギを半分に割ってレンジで加熱するだけなど、ハードルが低くて、かつ美味しい食べ方をたくさん教えてもらえる。
「実際に農家の方がどのように食べているかについて、レシピやポップで紹介してはどうか」とのアドバイス。教えてもらった新タマネギの食べ方(半分に切ってレンジで加熱して、おかかやしょうゆをかけるだけ)は、やってみると本当に美味しいとも。
農家出身で鍼灸師の女性からは「加工食品は柔らかいため食べ過ぎることが多い」「現代人は調理にかける時間が本当に少なくなってしまっている」としつつ、「今度実家に帰った時は、料理を作ってくれる母に感謝の気持ちを伝えたい」等の感想を頂きました。

品川区議の方からは、全児童対策として実施している弁当給食に『昼ご飯くらい母親が作るべきだ』という声もあること、品川区には農地がなく農業に対する知識もない等の発言。
大手食品メーカーの方からは「簡便化等の消費者のニーズにに寄り添うのが、ある意味、メーカーの使命でもあるが、どのようなものを大切にしていけばいいのかと考えさせられた」等の発言。
最後に大村さんからは、
「多様な選択肢があることは生活を豊かにすることにつながる。しかし、誰かに判断を預けてしまうのではなく主体性が大切であり、自分なりの経験を積み重ねていくことが自分自身のための食育になるのでは」等の発言がありました。
21時を15分ほど回って本編は終了(レコーディングも終了)。
大村さんを含めてお時間のある方には30分ほど残って頂き延長戦。米の需給問題等について自由な意見交換が行われました。
改めて、「食」をめぐる課題は多様であること、一人ひとりが主体性をもって自らの「食」を選んでいくこと等の大切さが痛感できたフォーラムでした。
なお、終了後にアーカイブをご覧になった方からも感想や意見が寄せられました。
地域における食育に取り組んでおられた方からは、
「食に興味のない人がたくさんいる。そのような人たちをどのように巻き込んでいくかが重要と感じた。品川区でもほ場見学に取り組んではどうか」等の意見。
小学校(畑があるそうです)にお勤めの方からは、
「最近の児童向け料理本でも、1人でも安全に作れる、包丁や火を使わない献立が多くなっている。しかし、家族とともに食事を作る体験を積み上げていくことの大切さを感じた」との感想を頂きました。
ゲストの大村美香さん、参加して下さった皆様、ご感想・意見を寄せて下さった皆様、有難うございました。
(追記)
次回(第12回) 食と農の未来フォーラムは以下により開催します。多くの方の参加申込をお待ちしています。
テーマ:「原発事故被災地の今~ふるさと・浪江町に寄せる歌人の想い」(仮題)
ゲスト:三原由起子さん(歌人、福島・浪江町(なみえまち)出身)
日時等:2026年7月22日(水)19時~21時
オンライン(zoomを利用)、参加費1000円
申込み先:https://peatix.com/event/5074739
(参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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