【ブログ】OFF TOKYO FIELD TRIP「祭りの日に出会う、浪江の今」

先日(2026年7月22日(水))に開催した食と農の未来フォーラムにもゲストとしてオンライン登壇して下さった歌人・三原由起子さんの、
 「復興と言われてしまえば本当の心を言葉にできない空気」
 という歌が、耳と心から離れません。

その「空気」を少しでも体感できればと、7月24、25日の両日、福島県浪江町周遊ツアー「祭りで浪江町の今と、芸術文化を体感する2日間」に参加しました。事業企画は浪江町移住・定住相談窓口(ISA地域創成共同体)です。

浪江町(なみえまち)は、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故により町内全域に避難指示が発出され、一部地域で解除されたのは6年後の2017年3月でした。現在も範囲が帰還困難区域とされています。

上野8時発のひたち3号は11時30分に浪江着。生憎の雨模様。東京の連日の猛暑が嘘のようです。
 駅前では大規模開発(駅周辺整備事業)が進められていますが、現在は飲食店やコンビニもなく閑散としています。
 後で聞きましたが、町内にあるコンビニは3軒だけで営業時間も短く、ドラッグストアは1軒もないとのこと。

スタッフの方がバスに案内して下さいました。参加者は20名ほど。比較的若い世代が多く、小さな子どもを連れた男性も。
 まずは道の駅なみえへ。ツアーの資料を頂き、葛西優香さんはじめスタッフの3名の方から自己紹介を頂きました。葛西さんは、本年5月18日に東京・日本橋で開催された「 田植踊りと町内ツアー事前セッション」で浪江町の現状について説明頂き、この日のツアーの紹介もして下さった方です。。
 昼食のお弁当を頂きました。名物のシラスが贅沢に乗せられています。

隣接する「なみえの技・なりわい館」で大堀相馬焼等の展示を見学した後(小さなお皿を求めさせて頂きました)、バスに戻ります。

かつて賑わっていたと思われる市内中心部は、避難の期間が長かったため多くの商店や住宅が解体され、更地が目立ちます。残っている住宅等も無人の建物が多いようで、ツタが絡まったり障子が破れたままになっていたりしています。 

駅に近い施設で、浪江駅周辺整備事業についての説明を受けました。
 著名建築家等のデザインにより、木をふんだんに使った住宅、交流施設、商業施設等が複合的に整備される予定とのこと。

完成予想のジオラマもあり、屋上からは工事現場も見渡せます。日々、景色が変わっているそうです。

続いて移住定住窓口のある事務所へ。元は作業服等の大手専門店の店舗だったようです。ここは地域おこし協力隊(なみえプロモーション課)の事務所も兼ねており、起業の際に法人登記もできる無償のオフィスもあります。
 横浜市から出向されている職員の方もいらっしゃいました。

震災遺構・請戸(うけど)小学校へ。震災の記憶・教訓を後世に伝えるため2021年10月に一般公開された施設です(私は2度目の訪問)。

見上げると、かなり高いところに津波浸水深の表示。
 建物に入ると、惨憺たる状況の教室や調理室がほぼそのまま残されており、津波の威力を想像することができます。

2階は展示室等になっており、南向きの窓からは事故を起こした東京電力・福島第一原子力発電所の排気塔やクレーンが望めます。距離は約5.7kmとのこと。

 説明パネルによると、震災・津波の翌日の3月12日早朝から予定されていた行方不明者の捜索は、原発事故によって中止され、4月に入ってからようやく開始されたそうです。

請戸小学校では、生徒・教職員95名全員が無事に避難することができました。
 全員で徒歩で、低学年の生徒の前後を高学年の生徒が守りつつ、約2km離れた高台(大平山)に避難したのです。
 大平山は現在は霊園になっており、180名以上の犠牲者の名前を刻した慰霊碑もあります。
 2km先の請戸小学校を眺めながら、スタッフの方は、ここまで生徒たちが歩いてきたことを想像してほしい等と話されました。

翌日、例大祭に参加する予定の樋渡・牛渡地区の八坂神社(雨天のせいで櫓は組まれていません)を経由し、福島国際研究教育機構 (F-REI)の整備現場を見学した後、西部の山間部にある大堀地区へ。

 伝統工芸品である大堀相馬焼で有名な地域ですが、原発事故で避難を余儀なくされた窯元のいくつかが帰還し再開しているそうです。
 この日は陶吉郎窯というところを見学させて頂き、九代目の方からお話を伺うことができました。酒杯を求めさせて頂きました。

この日の宿泊所・いこいの村なみえに到着したのは16時30分頃。また雨が落ちてきました。

 夕食前には、「太鼓 浪音」の方たちが和太鼓の演奏を披露して下さいました。地元出身者及び移住者の方により構成されているそうで、この日は小学校2年生の子どもも熱演。

夕食にも美味しいシラス等が出されました。避難先の山形から帰還した鈴木酒造の「磐城壽」も堪能。
 食事をしながら参加者一人ひとりから自己紹介など。具体的に移住を検討されている若いカップルもおられました。山梨・道志村に移住してラーメン店を経営されている方も(いつか食べに伺います)。

翌25日(土)も雨模様です。宿の窓からは美しい緑とため池が望めます。
 気持ちのいい大浴場のお湯は水素で沸かしているそうです。浪江町が取り組む脱炭素・水素利活用の実証施設とのこと。

この日、最初に伺ったのは、大規模畜産(酪農)施設・シャインコースト株式会社。全酪連から出向(移住)されているという専務の方が映像を交えながら説明して下さいました。

本年4月から運営開始され、飼養頭数は約2300頭を見込んでいるとのこと。浪江町が建設し運営をシャインコースト(株)が担っており、総事業費は約150億円のうち約110億は福島再生加速化交付金が充てられているそうです。
 出資者には県酪、全酪連のほか被災酪農家13名も。帰還した元酪農家の方も何名かが飼料産等に従事されているそうです。ちなみに震災前は95戸の畜産農家が1000頭以上の牛を飼養していましたが、全戸が牛を残したまま避難を強いられたとのこと。

搾乳、ふん尿回収、エサ寄せ等はロボットによる自動化が図られており、バイオガスプラントが併設されており、たい肥・液肥の供給も行っているとのこと。
 あまりに先端的な施設で、果たして全国的なモデルとなり得るかどうかは正直懐疑的です。ただ、酪農技術研究所が矢吹町から移転する予定であること、宿泊もできる研修棟も併設されていること等、今後の技術開発及び人材育成の拠点としての役割には大きな期待ができそうです。

そして、今回のツアーのメインイベント(例大祭に参加)の会場である樋渡・牛渡行政区の八坂神社に到着したのは11時ころ。雨はほとんど落ちていませんが、やはり櫓を組み上げるのは断念されたようです。

 社殿内では、すでに神事が執り行われており、獅子舞に続いて、鮮やかな衣装に身を包んだ方たちにより田植え踊りが奉納されました。5月の日本橋でのイベントにも参加されていた伊藤まりさんの姿も。伊藤さんは神奈川に避難中ながら、例大祭や田植え踊りの復活に尽力されてきた方です。

その後は、輪になっての盆踊り。東京からのツアー組も飛び入りさせて頂きました。
 歌人の三原由起子さんの姿も。ちなみに浪江町の歴史と文化を学ぶイベント「浪江を語ろう!」を主催されています(次回は9月19日(土)、オンライン配信あり)。

 境内には「八坂神社復興記念碑」も。
 震災により社殿は倒壊し、全住民が避難するなかで、神社再建が地域コミュニティ再生につながるとの氏子たちの強い思いの下で神社が再建された旨が刻されています。

ツアー参加者にも、おむすびやビールを振舞って下さいました。
 テントの中で焼きそばを焼いている人の姿。聞くと、東京電力の社員の方だそうです。原発事故以来、東京電力の社員の皆さんが地域のボランティア活動に参加している姿は、これまでも様々なところで見てきました。
 太い麺とたっぷりの豚肉ともやし。地域グルメとしても有名な浪江焼きそばは、美味でした。

ところで境内の脇には線量計(モニタリングポスト)が設置されていました。
 空間放射線量の数値は0.138μSv/時。環境省が定める基準(0.23)は下回っているものの、東京都の数値(おおむね0.03程度)に比べるとかなり大きく、この地が原発事故被災地であることを如実に示しています。

バスに戻って、初発神社に移動。
 ここで車座となり、地元の3名の方からお話を伺いました。
 いち早く帰還して地域づくりに取り組んでいる方からは、新しいまちづくりを否定せず、移住者も拒まず、成長し続けていきたいと話されました。
 先祖は江戸時代に北陸地方からの移住者だったという男性は、桜並木を整備する活動を通じてコミュニティづくりに取り組んでいるとのこと。
 神社の禰宜の方は、神社は地域の共有財産であり、コミュニティ再建のためにも一日も早く神社を再建したかったとの思いを語られました。

 さらに2グループに分かれて意見交換を継続。それぞれ地域のために活動しておられる方の思いに触れることができました。 

その後、浪江町への移住定住支援策について紹介がありました。
 移住支援金、新規就農者向けの設備投資費用や飲食店への食材調達費の助成、移住検討者の宿泊費補助などの手厚い制度があります。
 最後に全員でアンケートに回答して、ツアーの全日程は終了です。ここで一行と別れ、駅に向かうバスを見送りました。
 せっかくなのでもう1泊することにしたのです。レンタカー屋さんが迎えに来て下さいました。

大熊町の夜だけ開店している本屋さん(『ロッコク・キッチン』で知りました)を訪ねる予定でしたが、あいにく雨天のために営業していないとのこと。残念。
 ふれあいセンター前の広場で開催されている夏祭りに少し参加(障がい者支援のNPOが出しておられたコーヒー、美味しかったです)。
 続いて棚塩産業団地の展望台へ。福島水素エネルギー研究フィールド、福島高度集成材製造センター、ロボットテストフィールド等が望めます。一面の太陽光パネルも。シャインコースト(株)もこの近くです。
 その後、この日の宿泊地・南相馬に向かうことに。雨は止みません。

わずか1泊2日のツアーでは、浪江町の「復興」の現状を「垣間見る」ことさえできなかったかも知れません。それでも得難い、貴重な体験をさせて頂きました。
 ツアーのスタッフのお一人の方の「巨額の国費(復興予算)も投じられていることもあり、帰還された方、移住者を問わず、それぞれ覚悟を持って地域の再生に取り組んでいる」との言葉が深く印象に残りました。
 スタッフの皆様、現地でお世話になった皆さま、有難うございました。

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