【ほんのさわり260】松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』

−松尾康範『居酒屋おやじがタイで平和を考える』(2018年7月、コモンズ)
http://www.commonsonline.co.jp/books2018/2018/07/28/%e5%b1%85%e9%85%92%e5%b1%8b%e3%81%8a%e3%82%84%e3%81%98%e3%81%8c%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%81%a7%e5%b9%b3%e5%92%8c%e3%82%92%e8%80%83%e3%81%88%e3%82%8b/

昨年12月18日(日)に東京で開催された「山下惣一さんを偲ぶ会」の呼びかけ人のお一人で、懇親会の進行を軽妙に務められていたのが松尾康範さんでした。私はこの時に初めてお目にかかり、会場で本書を求めさせて頂きました。

1969年生まれの著者は、学生時代から(特非)日本国際ボランティアセンター(JVC)の活動に関わり、94年にはJVCボランティアとして1年間東北タイに滞在。その後、JVCのタイ現地代表、故・山下さんが共同代表を務められていたアジア農民交流センター(AFEC)の事務局長等として国際協力に尽力し、現在は神奈川・横須賀市久里浜で居酒屋「百年の杜」を営んでおられます。

著者は2017年11月、AFECのメンバーとともに改めてタイを訪ねました。「ちょっと真面目に平和って何?」ということを考えながらの旅だったそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり259】後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』

−後藤静彦『ヒヨコに賭ける熱き思い』(1996年1月、日本教文社)−
 https://www.kyobunsha.co.jp/product/9784531062799/book.html

著者は1930年岐阜市生。(株)後藤孵卵場社長、日本養鶏農業協同組合連合会(日鶏連)会長等を務められたのち、1999年に没。
 本書は、著者の父親である後藤靜一(しずいち)氏を主人公とする、日本における養鶏業の黎明期からの「半世紀にわたるドラマ」です。

静一氏は1902年、岐阜県の山間部にある旧根尾村(現本巣市)の裕福とは言えない家に生まれ、高等小学校を中退して大阪の薬問屋に奉公に出ました。その時に肺結核を病みましたが、鶏卵の食事療法で快復した経験から、郷里に戻って養鶏を始めることを決意します。… 続きを読む

【ほんのさわり258】菅野芳秀『七転八倒百姓記』

−菅野芳秀『七転八倒百姓記』(2021年10月、現代書館)−
 https://gendaishokanshop.stores.jp/items/616423afc120961806736463

著者は1949年、山形・長井市生まれの、身長191cm、体重100kgという偉丈夫です。
 三里塚、沖縄という「国家への謀反の現場を転戦」(大野和興氏の解説)したのち、26歳の時に帰郷して「逃げたいと思っていた」家業の農業を継ぎました。

就農早々に直面したのが米の生産調整の問題。… 続きを読む

【ほんのさわり】鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』

−鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本−食の安全保障をどう守るか』(2022年11月、講談社+α新書)−
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369740

かねて日本の食と農をめぐる危機を告発し続けてきた著者(東京大学大学院教授)が、ロシアによるウクライナ侵攻など最新の情勢を踏まえ改めて世界的な危機の現状を整理した上で、日本人が飢餓を回避するためのヒントを探った書です。
 帯にある「日本人の6割が餓死する」との刺激的なフレーズは、アメリカの大学の研究者らによる研究成果−核戦争が勃発した場合、食料生産の減少と物流停止によって世界全体で2.55億人が餓死し、うち7200万人が日本に集中するというもの−から引用されています。
 2020年度の日本のカロリーベースの食料自給率は37%(注:21年度は38%)ですが、種や肥料の海外依存度を考慮すると10%にも届かないとの著者の試算も紹介されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】『振り返れば未来−山下惣一聞き書き』

−『振り返れば未来−山下惣一聞き書き』(2022年12月、不知火書房)−
 https://www.nishinippon.co.jp/image/581593/

本年7月、佐賀・唐津の農民作家である山下惣一さんが逝去されました(享年86)。個人的な話で恐縮ながら、私にとって山下さんの著作は、人生の節々における羅針盤でした。
 本書は、生前、ご自身の生涯を振り返りつつ語られた内容について、西日本新聞に連載された記事を基に、約2倍の分量に加筆され、一冊の単行本としてまとめられたものです。
 聞き手は、山下さんの弟子と自称されている佐藤 … 続きを読む

【ほんのさわり】小川 糸『ライオンのおやつ』

−小川 糸『ライオンのおやつ』(2022年10月、ポプラ文庫)−
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8101455.html

デビュー作『食堂かたつむり』(2008年)でも、食べものにまつわる優しい人生の物語を紡いだ著者の新作。2020年本屋大賞では2位にランクされたそうです(テレビドラマ化もされたとのこと)。
 末期がんの33歳の主人公は、クリスマスの日、瀬戸内海の「レモン島」にあるホスピス「ライオンの家」に入居します。彼女を迎えてくれたのは「マドンナ」と名乗るオーナー兼看護士、医師などのスタッフ、個性的な入居者(ゲスト)たち、一匹の犬。それに高齢の姉妹が作ってくれるおいしい食べものでした。… 続きを読む

【ほんのさわり】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』

−アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(2020年11月、新潮新書)−
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610882/

1974年生まれのスウェーデンの精神科医が、スマホなどデジタル技術に過度に依存することの危険性に警鐘を鳴らした世界的なベストセラーです。

スマホ依存がもたらしている様々な弊害について、本書では実に多くの実験結果や研究成果が引用・紹介されています。
 例えば、スマホやパソコンの前で過ごす時間が長いほど気分が落ち込む。フェイスブックに時間を使う人ほど(他人と比較する等により)自信を失い幸福感が減る。… 続きを読む

【ほんのさわり】中藤 玲『安いニッポン−』

−中藤 玲『安いニッポン−「価格」が示す停滞』(2021年3月、日経BP新書)−
 https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2021/9784532264536/

著者は1987生まれ。愛媛新聞社を経て現在は日本経済新聞社編集局企業報道部に勤務し、2019年12月に3回にわたって連載された「安いニッポン」シリーズを担当しました。本書は、大きな反響を呼んだこの連載をもとに書き下ろされたものです。

海外旅行先で高い価格に驚いた著者は、各国の様々な「価格」を取材・調査し、日本と比較してみました。… 続きを読む

【ほんのさわり】長野路代、佐藤 弘『ながのばあちゃんの食育指南』

−長野路代、佐藤 弘『ながのばあちゃんの食育指南』(2015年8月、西日本新聞社)−
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/199107/

長野路代さんは1930年、福岡・飯塚市の農家に生まれました。
 終戦後まもなく母親が急逝し、一家の料理作りを十代で担うことに。ところが当時は農家であっても供出等により一握りの米もなく、一日の重労働(農業)を終えて帰ってきた父親が、ドロドロに炊いたサツマイモ等を黙って食べる姿が、涙で見えなかったとのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】山本謙治『エシカルフード』

−山本謙治『エシカルフード』(2022年3月、角川新書)−
 https://www.kadokawa.co.jp/product/321805000137/

著者は1971年愛媛県生まれ埼玉県育ち。「やまけん」さんの愛称で、全国の「おいしいもの」情報を広く発信されています(ブログは私も長年愛読しています)。

著者は、日本では食の分野を含めてエシカル(倫理的)消費が拡がらないことを残念に思っています。
 例えばトレーサビリティや有機農業についても、日本では利己的な目的(個人の安全や健康)のためのものとして捉えられているのに対して、ヨーロッパでは利他的で普遍的な価値(環境や人権など)を守るために取り組まれているのです。… 続きを読む

【ほんのさわり】黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』

黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(2002年8月、中公新書)
 https://www.chuko.co.jp/shinsho/2002/08/101655.html

外務省で駐ウクライナ大使等を歴任した著者が2002年に発表した本書が、ロシアのウクライナ侵攻を受けて改めて注目されて版を重ねています(手元にあるのは14版(2022年4月))。

10世紀のキエフ・ルーシ公国以来の歴史がありながら、ロシア・ソ連、ドイツ、ポーランドなど周辺の強国の圧迫と思惑により、ウクライナは1991年まで実質的な独立はできませんでした。ウクライナの歴史は「国のない」民族の歴史だったのです。… 続きを読む

【ほんのさわり】中村光博『「駅の子」の闘い』

−中村光博『「駅の子」の闘い−戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史』(2020年1月、幻冬舎新書)−
 https://www.gentosha.co.jp/book/b12871.html

終戦直後の日本の都市は、戦地や空襲で父母を失うなどして行き場をなくした孤児たちで溢れていました。
 全国の戦争孤児の数は、終戦から2年半後に行った厚生省の調査でも全国で12万3千人にのぼったそうです(終戦直後はさらに多かったと思われます)。
 雨風をしのぐために焼け残った駅舎で寝起きする子どもたちは、「駅の子」とも呼ばれました。… 続きを読む

【ほんのさわり】塩見直紀ほか『半農半X』

−塩見直紀、藤山 浩、宇根 豊、榊田みどり編『半農半X−これまで・これから』(2021年11月、創森社)−
 http://soshinsha.sakura.ne.jp/bookdetail.php?id=420

「半農半X」(はんのう・はんエックス)とは、農ある小さな暮らしをベースに、その人ごとの天与の才(天職、生きがい)を世に活かすという生き方。言い換えれば、農業を営みながら、自分の好きなやりがいのある仕事に携わるというライフスタイルのことです。… 続きを読む

【ほんのさわり】下川 哲『食べる経済学』

−下川 哲『食べる経済学』(2021年12月、大和書房)−
 https://www.daiwashobo.co.jp/book/b590669.html

著者は北海道大学農学部農業経済学科卒業、アメリカ・コーネル大学で博士号を取得され、現職は早稲田大学政治経済学術院准教授。
 ごく日常的な私たちの「食べる」という行為は、実は地球全体の資源や環境に予想を超えるほどの大きな影響を及ぼしています。そのことに気づくことで、「健康的で持続的な食生活」への変革を促そうというのが、本書のテーマです。… 続きを読む