【ほんのさわり No.213】國分功一郎『原子力時代における哲学』

−國分功一郎『原子力時代における哲学』(晶文社、2019/9)−
 https://www.shobunsha.co.jp/?p=5494

東電福島第一原発の事故を受けて「原発をなくしたいと心の底から思っている」著者が、2013年に行った連続講座「原子力時代の哲学」の記録です。ともすれば難しい哲学の用語なども、一般市民向けに分かりやすく解説してくれています。

科学技術に酔っていた1950年代、核兵器ではなく原子力という技術(「核の平和利用」)自体の危険性を正面から指摘した唯一の哲学者が、ハイデッガーでした。

人類は、地上の生態系を超越した原子力技術を開発・獲得したことにより、まるで神になったかのような錯覚(全能感)に浸りました。… 続きを読む

【ほんのさわり No.212】赤松利一『藻屑蟹』

−赤松利一『藻屑蟹』(徳間文庫、2019.3)−
 https://www.tokuma.jp/book/b493527.html

著者は1956年香川県生まれ。会社も家庭も破綻して東日本大震災後の東北で土木作業員、除染作業員を経験。その後上京し「住所不定」の生活を送りつつ、漫画喫茶で書き上げた本書で第1回大藪春彦新人賞を受賞(2018)したという方(!)。 

 福島・浜通りにある某市でうだつの上がらないパチンコ店の店長をしていた主人公は、毎夜、札束の夢を見てうなされるほどのカネの亡者。高校時代の同級生に誘われて除染作業の監督者になり、そこで知り合ったベテラン原発作業員の遺書をネタに電力会社を脅そうとたくらみます。
 何でもカネで解決しようとする電力会社、日当は「中抜き」され人権さえ無視される原発作業員、補償金や義援金が生む断絶、原発事故からの避難者と地元住民との軋轢なども描かれます。著者が「自分で見てきたこと」を基にしているそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり No.211】田尾陽一『飯舘村からの挑戦』

−田尾陽一『飯舘村からの挑戦−自然との共生をめざして』(ちくま新書、2020.12)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073631/

著者は1941年神奈川県生まれ。東京大学大学院で物理学を専攻した後、ITベンチャーを起業し、大手セキュリティ会社の役員まで務めらた方。エネルギー研究者になった背景には、4歳の頃に広島市郊外に疎開した時に原爆の光を目撃した原体験があるそうです。

2011年6月、原発被災地を訪ねた著者たちは、全村避難指示が出されていた福島・飯館村の地元の農家の方たちと連携して「ふくしま再生の会」を立ち上げました(翌年にNPO化)。それから何度も現地を訪ね、村内の放射線量の測定活動を始められたのです。それから10年、住民目線で原発被害地域の再生に取り組んでこられました。
 なお、著者は2017年に避難指示が解除された直後、飯舘村に移住されています。… 続きを読む

【ほんのさわり No.210】水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

−水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014/3)−
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0732-a/

著者は1953年愛知県生まれ。証券会社のエコノミスト、内閣官房内閣審議官等を経て2017年から法政大学法学部教授。
 実業と政策にまたがる幅広い実務経験を有する著者は、「資本主義の死期が近づいている」と主張します。

その根拠として用いているのが「交易条件」です。… 続きを読む

【ほんのさわり No.209】大江正章『有機農業のチカラ』

−大江正章『有機農業のチカラ−コロナ時代を生きる知恵』(2020.10、コモンズ)−
 http://www.commonsonline.co.jp/new_books/2020/09/04/yukinogyopower/

著者は1957年神奈川県生まれ。
 学生時代から市民運動に積極的に関わり、いったん中堅出版社に就職したものの退職して自ら出版社「コモンズ」を立ち上げ、編集者として、あるいは自らライターとして、多くの良質かつ問題提起的な本を出版されてきました。
 その大江さんは、肺がんとの10か月に及ぶ闘病生活の末、昨年(2020)12月15日に逝去されました。享年63歳、早過ぎました。… 続きを読む

【ほんのさわり】2020年まとめ 

今年も食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる多くの本と出合えることができました。
 地球と人類の将来ビジョンを考えるのに参考になった本は西川 潤『2030年 未来への選択』(No.186)、宮台真司、飯田哲也『原発社会からの離脱』(No.190)、古沢広祐『食・農・環境とSDGs』(No.196)、中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」(No.198)、ハラリ『サピエンス全史』(No.200)、斎藤幸平『人新世の「資本論」』(No.207)です。

農村や自然との関わりでは、鷲田清一/山極寿一『都市と野生の思考』(No.191)、宇根 … 続きを読む

【ほんのさわり】斎藤幸平『人新世の「資本論」』

−斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020/9)−
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1035-a/

改めて小稿で紹介する必要もないベストセラー。
 著者は1987年生まれの大阪市立大学大学院経済学研究科准教授で、ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程を修了された「マルキスト」です。

今さらマルクス主義? … 続きを読む

【ほんのさわり】宮内泰介、上田昌文『実践 自分で調べる技術』

−宮内泰介、上田昌文『実践 自分で調べる技術』(岩波新書、2020.10)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b530022.html

ベストセラーの前著『自分で調べる技術』(2004)が、全体に新たに書き下ろされました。
 宮内さんは北海道大学大学院文学研究院教授。専門は環境社会学で、環境保全やコミュニティの分野を中心に実践的な調査研究を続けておられる方。… 続きを読む

【ほんのさわり】とびやあい『田んぼ、はじめました。』

−とびやあい『田んぼ、はじめました。』(イースト・プレス、2017.3)−
 https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781614991

 著者は福島出身の栄養士で、本書で漫画家デピューされたという女性。初めての米作りの1年間の奮闘記です。
 「自分で作ったものを食べ、自然の中で生きる」暮らしに漠然とあこがれていた著者は、今はなき危険な池袋のバーのマスター(余談ですが、ご本人はハンサムに描いてくれたと喜んでおられました。)との出会いをきっかけに、米作りを始めることに。仕事をしながらの「半農半X」です。

 全くの素人だった著者が、最初からうまくいくわけはありません。都会の生活で忘れていた肉体労働や自然の厳しさも実感します。それでも地域の人たちや米作り仲間と出会い、助けられ、家族(両親)との関係も見つめ直されます。… 続きを読む

【ほんのさわり】滝沢秀一『やっぱり、このゴミは収集できません 』

−マシンガンズ滝沢秀一『やっぱり、このゴミは収集できません 〜ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと〜』(白夜書房、2020.9)−
 http://www.byakuya-shobo.co.jp/page.php?id=6413

著者は1976年東京生まれ。お笑い芸人として活躍しつつ、定収入を得るためにゴミ収集会社に就職したという「半ゴミ収集人・半芸人」。本書は2018年の前著の続編です。

 芸人らしく軽妙でぶっ飛んだ文体とイラストで著されているのは、ゴミ収集現場の過酷な現実です。時には得体の知れないゴミに身の危険さえ感じ、住民には「ゴミ屋」と差別されながらも、淡々とゴミを収集して回る日々が描かれています。… 続きを読む

【ほんのさわり】末吉里花『はじめてのエシカル』

−末吉里花『はじめてのエシカル』(山川出版社、2016.11)−
 https://www.yamakawa.co.jp/product/15107

著者は1976年ニューヨーク生まれ。
 TBS系テレビ『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅するうち、地球環境が危機的状況にあることを痛感し、2015年に(一社)エシカル協会設立されたという方。

 本書では、ともすれば「堅く」捉えられがちなエシカル消費を、分かりやすく、身近で、誰でも取り組むことができるものとして紹介されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】コロンバニ『三つ編み』

−レティシア・コロンバニ『三つ編み』(早川書房、2019/4/18)−
 https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014188/

作者はフランス・ボルドー生まれ。映画監督、女優、脚本家でもあるという多才な女性だそうです。

主人公は3人の女性。1人目はインドの不可触民であるスミタ。女性(妻)は男性(夫)の所有物とされ、人権どころか生命までも脅かされる状況のなか、夫と家を捨てて、幼い娘の手を引いて困難で長い旅に出ます。
 2人目はイタリアのジュリア。毛髪加工工場を営んでいた父が事故で急逝、工場が多額の負債を抱えていたことも判明し、工場と従業員、自宅を守るために立ち上がります。… 続きを読む

【ほんのさわり】ハラリ『サピエンス全史』

−ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史−文明の構造と人類の幸福−』(上下、河出書房新社、2016.9) −
 http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309226712/

農業革命は、人類史上最大の詐欺であった。
 それ以前の狩猟採集民は、より刺激的で多様な時間を送り、バランスの取れた食生活を謳歌し、飢えや感染症のリスクも小さかった。ところが人類(ホモ・サピエンス)は農耕を始めたこと(農業革命)で、確かに食糧の生産量は増加したものの、人口爆発とエリート層の形成(身分格差の生成)につながったたけで、平均的な農耕民は、それまでの平均的な狩猟採集民よりも苦労して長時間働くようになったにもかかわらず、見返りに得られる食べ物は劣ってしまったのだ。… 続きを読む