【ほんのさわり】中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」

−中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」(岩波書店『世界』、2020年8月号所収)
  https://www.iwanami.co.jp/book/b521302.html

今回は書籍ではなく雑誌の記事を紹介させて頂きます。
 著者は1977年山口県生まれ。国際基督教大学社会科学研究所勤務等を経て、現在は早稲田大学地域・地域間研究機構(ORIS)次席研究員/研究院講師。
 持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究がご専門です。… 続きを読む

【ほんのさわり】日本ペンクラブ編『うなぎ』

−浅田次郎選、日本ペンクラブ編『うなぎ:人情小説集』 (2016/1、ちくま文庫)
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480433336/

内海隆一郎、岡本綺堂、井伏鱒二、林芙美子、吉村昭など9人による短編小説と、斎藤茂吉の短歌選が収められています。それにしても主題であれ脇役であれ、ウナギが登場すると、かくも濃厚に人間模様(家族のぬくもり、男女の愛憎、犯罪、戦争など)が描かれるのかと驚きます。

 亡き父の単身赴任先だった松江で常連だった料理店を訪ね、好物だった「ウナギのたたき」を頂く娘、新婚旅行の時に夫が失踪した川沿いの温泉宿に毎年逗留する女性、行きずりの男と一夜を過ごした安ホテルの路地の先にはウナギを割く人の姿が。… 続きを読む

【ほんのさわり】古沢 広祐『食・農・環境とSDGs』

−古沢 広祐『食・農・環境とSDGs−持続可能な社会のトータルビジョン』(2020.2、農山漁村文化協会)−
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54019209/

著者は1950年東京生まれ。京都大学大学院農学研究科で博士課程(農林経済)を習得、現在は國學院大學経済学部教授(本書「おわりに」によると、3月末で定年退職とのこと)。

 環境社会経済学や持続可能社会論を専門とする研究者であると同時に、NGO等で地球市民的な活動にも積極的に取り組んで来られた方で、様々な国際的な会合(1992年地球サミット、2015年COP15会合、国連総会等)にも参加されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

−前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(2017.5、光文社新書)−
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334039899

世界がコロナ禍に苦しんでいる現在、アフリカや南アジアではバッタが大量発生し農作物に大きな被害を与えています。

 1980年秋田県生まれ、小学生の頃に読んだ『ファーブル昆虫記』に感銘を受けた著者は、昆虫学者になる(バッタに食べられたい(?))という夢の実現のため、単身、アフリカに長期滞在しサバクトビバッタの研究に従事。本書は、無収入のポスドク(当時)による「バッタと大人の事情を相手に繰り広げた死闘の日々」を綴ったものです。
 なお、「ウルド」とはモーリタニアで最も名誉あるミドルネームで、現地の研究所長から授かったものとのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】山本太郎『感染症と文明−共生への道』

−山本太郎『感染症と文明−共生への道』(2011.6、岩波新書)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b226101.html

著者は1964年生まれの医師、博士(医学、国際保健学)。長崎大学熱帯医学研究所教授で、アフリカやハイチでは感染症対策の実務にも従事された方です(著名な政治家とは同姓同名の別人)。
 今回のコロナ禍の発生と対応策を予言したかのような書です。

 「豆知識」欄では第一次産業のシェアが大きい都道府県ほど感染者密度が低いというデータを紹介しましたが、本書によると、人類史における感染症は農耕の開始から始まったそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり】宇根 豊『日本人にとって自然とはなにか』

−宇根 豊『日本人にとって自然とはなにか』(2019.7、ちくまプリマー新書)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480683571/

著者は1950年長崎県生まれ。福岡県農業改良普及員を経て1989年に福岡・二丈町(現糸島市)で新規就農し、2001年にはNPO農と自然の研究所を設立されました。
 「百姓」であると同時に農学博士でもある著者は、人々の「自然へのまなざし」が減っていることに危機感を抱き、「自然とは何か」を正面から探究したのが本書です。… 続きを読む

【ほんのさわり】吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』

-吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』(2005.11、ちくま文庫)- 
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421746/

1962年東京生まれの著者による味わい深い小説。映画化もされているようです。
 舞台は東京・下町を思わせる「月舟町」の一角にある大衆向けの食堂。看板は出ていないのに、東西南北から風が吹き募る十字路にあるため、いつしか「つむじ風食堂」と呼ばれるようになりました。

そして風に吹き寄せられるように、毎夜、風変わりな常連客が集まってきます。… 続きを読む

【ほんのさわり】 鷲田清一/山極寿一『都市と野生の思考』

-鷲田清一/山極寿一『都市と野生の思考』(2017.8、集英社・インターナショナル新書)-
 http://i-shinsho.shueisha-int.co.jp/kikan/013/

 1949年京都生まれの哲学者(元大阪大学総長)と、1952年東京生まれの霊長類学者(京都大学総長)による対談で、大学の本来の使命(多様な価値観の確保)、リーダーのあり方(愛嬌、強運、後姿)、リアルなコミュニケーションの重要性など、多岐にわたるテーマについて語り合っています。

 それぞれのテーマに関連して、食についても多くの言及があります。
 例えば、… 続きを読む

【ほんのさわり】宮台真司、飯田哲也『原発社会からの離脱』

-宮台真司、飯田哲也『原発社会からの離脱-自然エネルギーと共同体自治に向けて』(2011.6、講談社現代新書)-
 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210598 

 ともに1959年生まれの気鋭の社会学者と、自然エネルギーの第一人者による対談。東日本大震災と原発事故の直後に「緊急出版」されただけに、メインテーマはエネルギー政策です。

 宮台先生は、原発依存からの脱却のためには「原発をやめられない日本社会」そのもの(空気に抗えない悪い共同体)の変革が必要であるとします。特にグローバル化した高度技術社会においては、<市場や国家などのシステム>に盲目的に依存することは、ますます危険であるというのです。… 続きを読む

【ほんのさわり】朱川湊人『花まんま』

-朱川湊人『花まんま』(2005.4、文芸春秋)-  https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163238401

 著者(しゅかわ・みなと)は1963年大阪府生まれ。出版社勤務を経て作家デビュー、本書で第35回直木賞を受賞されています。

 主人公は大阪の下町に住む小学生中学年の男児。
 4歳違いの妹が生まれた時は、お父さんと一緒に病院の前で万歳を叫びました(お父さんはその後、交通事故で死去)。… 続きを読む

【ほんのさわり】駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする』

-駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする-社会起業家という生き方』(2011.11、ちくま文庫)-
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480428882/  

 著者は1979年東京・江東区生まれ。
 大学在学中にITベンチャーの社長になるものの事業拡大路線に疑問を感じ、卒業と同時に仲間と袂を分かって退職。

 「社会の役に立ちたい!」と強く思うもののの具体像は見つけられず、実家から勘当される等の苦しい状況のなかで留学したアメリカで見たものは、ホームステイ先の同年代のホストブラザーが、2軒先の一人暮らしのお婆ちゃんの家の前の雪かきを当たり前のようにする姿でした。… 続きを読む

【ほんのさわり】西川 潤『2030年 未来への選択』

-西川 潤『2030年 未来への選択』(2018.1、日本経済新聞出版社)-
 https://www.nikkeibook.com/item-detail/26364

 著者は1936年台湾・台北市生まれ。長く早稲田大学等で開発経済学や南北問題を担当され、国際開発学会、日本平和学会等の理事・会長も歴任された方です(個人的な話で恐縮ながら、学生時代に読んだ『飢えの構造』(1984)が、食料や農業問題に携わるという私の進路を決定付けました)。… 続きを読む

【ほんのさわり】筒井一伸ほか『移住者による継業』

筒井一伸、尾原浩子『移住者による継業-農山村をつなぐバトンリレー』(2018.4、筑波書房(JC総研ブックレットno.22))  http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190535/

著者は鳥取大・地域学部教授と同非常勤講師(日本農業新聞記者)。第34回農業ジャーナリスト賞(2018年)を受賞しています。

 農山村では、農林水産業のみならず地域のなりわいの後継者の不足が深刻化している一方で、農山村への移住を希望する「田園回帰」の動きが活発となっています。
 このようななか、これまで世襲で行われてきた地域のなりわいを移住者などの第三者が継ぐ「継業」(バトンリレー)が、各地の農山村で広まっています。… 続きを読む

【ほんのさわり】斎藤幸平(編著)『未来への大分岐』

斎藤幸平(編著)『未来への大分岐-資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(2019.8、集英社新書)-
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0988-a/ 

1987年生まれの編著者(ベルリン・フンボルト大学哲学科修了、大阪市立大学大学院・経済学研究科准教授)によると、人類は今、胸元に拳銃をつきつけられているような危機(政治・経済の悪化、社会の閉塞感、気候変動等)にあり、その根本原因は資本主義そのものにあるとのこと。
 この「大分岐の時代」にオルタナティブな未来を探るため、現在、世界で最も注目されている3人の知識人との対話を行ったのが本書です。

 マイケル・ハート(政治哲学者、デューク大教授)との対話では、「コモン」に焦点が当てられます。  … 続きを読む