【ほんのさわり】筒井一伸ほか『移住者による継業』

筒井一伸、尾原浩子『移住者による継業-農山村をつなぐバトンリレー』(2018.4、筑波書房(JC総研ブックレットno.22))  http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_81190535/

著者は鳥取大・地域学部教授と同非常勤講師(日本農業新聞記者)。第34回農業ジャーナリスト賞(2018年)を受賞しています。

 農山村では、農林水産業のみならず地域のなりわいの後継者の不足が深刻化している一方で、農山村への移住を希望する「田園回帰」の動きが活発となっています。
 このようななか、これまで世襲で行われてきた地域のなりわいを移住者などの第三者が継ぐ「継業」(バトンリレー)が、各地の農山村で広まっています。… 続きを読む

【ほんのさわり】斎藤幸平(編著)『未来への大分岐』

斎藤幸平(編著)『未来への大分岐-資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(2019.8、集英社新書)-
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0988-a/ 

1987年生まれの編著者(ベルリン・フンボルト大学哲学科修了、大阪市立大学大学院・経済学研究科准教授)によると、人類は今、胸元に拳銃をつきつけられているような危機(政治・経済の悪化、社会の閉塞感、気候変動等)にあり、その根本原因は資本主義そのものにあるとのこと。
 この「大分岐の時代」にオルタナティブな未来を探るため、現在、世界で最も注目されている3人の知識人との対話を行ったのが本書です。

 マイケル・ハート(政治哲学者、デューク大教授)との対話では、「コモン」に焦点が当てられます。  … 続きを読む

【ほんのさわり】田中淳夫『森と日本人の1500年』

-田中淳夫『森と日本人の1500年』(2014.10、平凡社新書)-
 https://www.heibonsha.co.jp/book/b183467.html

 先日、皇居に大嘗宮(だいじょうきゅう)を見学してきました。悠紀殿(ゆきでん)・主基殿(すきでん)はじめ全ての殿舎は見事な木造。
 このことに触発されて、森や木と暮らしてきた日本人の伝統を知りたいと思って手に取った本書ですが、期待は(いい意味で)裏切られました。

 著者は大阪・生駒山麓に生まれ、静岡大・林学科を卒業し出版社、新聞社を経て、現在は森林ジャーナリストとして活躍中の方。… 続きを読む

【ほんのさわり】新井和宏、高橋博之『共感資本社会を生きる』

-新井和宏、高橋博之『共感資本社会を生きる-共感が「お金」になる時代の新しい生き方』 (2019.11、ダイヤモンド社)-
 https://www.diamond.co.jp/book/9784478109335.html

著者の新井氏は、外資系の資産運用会社勤務を経て、リーマンショック後に「いい会社」だけに投資する鎌倉投信(株)を創業された金融のプロ。
 一方の高橋氏は、「食べる通信」や「ポケットマルシェ」という斬新な仕組みを構築し、第一次産業の生産者と消費者をつなぐ活動を続けておられる方。… 続きを読む

【ほんのさわり】小池理雄、渡久地奈々子『お米の世界へようこそ!』

-小池理雄、渡久地奈々子『お米の世界へようこそ!-今日からあなたも「ごはん党」』 (2018/10、経法ビジネス新書)-
 https://www.khk.co.jp/book/book_detail.php?pid=52968

 著者は、東京・原宿にある精米店の3代目店主と、沖縄在住の食育指導士。お2人とも「五ツ星お米マイスター」の資格をお持ちです。
 本書を著した目的は、「世間のお米に対する関心度合いの薄さ」に危機感を抱き、消費者にお米に … 続きを読む

【ほんのさわり】映画『そらのレストラン』 

今回は「ほん」ではなく、2019年1月に公開された日本映画『そらのレストラン』(監督・脚本:深川栄洋)を紹介します。
 https://sorares-movie.jp/

 舞台は北海道南部にあるせたな町。
 主人公の設楽亘理(大泉洋)は、海のみえる牧場で酪農を営みながら、チーズ職人の大谷(小日向文世)に弟子入りしてチーズ作りに取り組んでいます。
 妻(本上まなみ)と娘との三人家族の1日は、声を揃えての2度の「いただきます」からスタート。1度目は窓の外(食を恵んでくれる空、大地、海)に向かって、2度目は食卓の上の朝食のお皿に手を合わせて。… 続きを読む

【ほんのさわり】寺本英仁『ビレッジプライド』

寺本英仁『ビレッジプライド-「0円起業」の町を作った公務員の物語』(2018.11、プックマン社)
 https://bookman.co.jp/book/b427817.html

 1971年生まれの著者は、東京農業大学を卒業後にUターンして石見町(現 邑南町(おおなんちょう))役場の職員となりました。
 公務員になったのは、幼い頃からおばあちゃんに「公務員になりなさい、安泰だよ」と言われていたためで、最初の頃はあまり仕事に熱心ではなかったと告白しています。… 続きを読む

【ほんのさわり】横山祐典『地球46億年 気候大変動』

「懐疑派」の人たちの主張の一つが、地球は過去にはもっと温暖な期間もあったし、産業革命以降たかだか数百年の気候変動など、長い地球の歴史においては取るに足らない、というものです。

 本書の著者は熊本市出身の古気候学者。
 南極の氷床コアから得られたデータによると、地球は約10万年周期で氷期(全球氷結という時期もあったとのこと)と間氷期(温暖期)を5回以上繰り返したことが分かるそうです。
 現在は間氷期にあるそうですが、恐竜がいた中世期白亜紀の平均気温は現在より10℃以上高かったとのこと(これは「懐疑派」の主張の通りです)。

 地球が誕生して以来、気候は大きく変動してきました。… 続きを読む

【ほんのさわり】青木美希『地図から消される街』

-青木美希『地図から消される街-3.11後の「言ってはいけない真実」』 (2018.3、講談社現代新書)-
 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000190725

著者は北海道新聞等を経て朝日新聞の記者。
 携わった「手抜き除染」報道等は新聞協会賞を受賞し、さらに本書は貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞を受賞しています。… 続きを読む

【ほんのさわり】金子美登ほか『有機農業の技術と考え方』

-中島紀一、金子美登、西村和雄 (編集)『有機農業の技術と考え方』(2010.7、コモンズ)-
 http://www.commonsonline.co.jp/books2010/2010/07/08/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%AE%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B93%E5%88%B7/ 

本書は、有機農業推進法の制定(2006)後の有機農業の全体像を整理するとともに、将来の方向性について考察したものです。

 編著者の一人・中島紀一先生(茨城大農学部教授(当時))によると、農薬や化学肥料を使用しないというのは「有機農業の入り口についての部分的な認識」に過ぎないとのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】吉田 裕『日本軍兵士』

本書は、日本だけでも310万人(軍人・軍属230万人、民間人80万人)が戦没したアジア・太平洋戦争について、「兵士の目線」で「兵士の立ち位置」から、凄惨な戦場の現実(死の現場)を直視することを試みたものです。

 まず、戦病死者が非常に多いことが指摘されています。  戦場における死の最大の原因は、戦闘による死(戦死)ではなく、餓死を中心とした戦病死でした。戦況の悪化(制海・制空権の喪失)に伴い補給路は寸断され、戦争末期には輸送された食糧の半分近くが前線に到達せずに失われたそうです。
 これら食糧不足や心身の疲労に加え、ストレスや恐怖等によって体内の調節機能が変調を来し、身体が生きることを拒否する「戦争栄養失調症」が蔓延していました。
 さらに飢餓が深刻になると、食糧強奪のために友軍を襲撃・殺害するような事件があったことも紹介されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】鈴木善次(監修)『食農で教育再生』)

(監修)鈴木善次、(編著)朝岡幸彦、菊池陽子、野村卓
 『食農で教育再生-保育園・学校から社会教育まで』
 (農山漁村文化協会、2007.2)
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540063049/ 

本書は、食育基本法が成立(2005年)し「食育」という言葉が流行になっていた当時、それ以前から地道に「食農教育」に取り組んできた研究者や実践者により、将来の日本の「食」のあり方、教育のあり方について検討されたものです。… 続きを読む

【ほんのさわり】枝廣淳子『地元経済を創りなおす』

-枝廣淳子『地元経済を創りなおす』(2018.2、岩波新書)-
 https://www.iwanami.co.jp/book/b345708.html 

 著者は東京都市大学教授で、幸せ経済社会研究所所長。
 アル・ゴア『不都合な真実』を翻訳・紹介するなど地球環境・エネルギー問題の分野を中心に活躍されてきた著者ですが、近年は地域経済に強い関心を持っておられるようです。
 著者によると「未来は地域にしかない」とのこと。… 続きを読む

【ほんのさわり】山下祐介『限界集落の真実』

山下祐介『限界集落の真実-過疎の村は消えるか?』(2012.1、ちくま新書)
 http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066480/

 本書は、2007年頃から「限界集落」に関する議論が高まり、さらに2011年の東日本大震災よって問題が先鋭化する中、あえて「常識」に抵抗するために発表されたそうです。
 その「常識」とは、「少子高齢化の進行により多くの集落が消えつつある」、「限界集落のように効率性の悪い地域には、この際、消滅してもらった方がいい」というもの。

 これに対して著者は、自身のフィールドワーク(青森、新潟、高知、鹿児島等)を基に、ダム建設や災害による移転は別にして、「少子高齢化が原因で消えた集落など、探し出すのが難しいくらい」としています。… 続きを読む

【ほんのさわり】富山和子『水と緑と土』

富山和子『水と緑と土-伝統を捨てた社会の行方(改版)』(2010.7、中公新書)
  http://www.chuko.co.jp/shinsho/2010/07/190348.html

 本書の主題は、日本人と川(水)との関わりです。
 歴史的に日本人にとっての最大の課題とは川とどうつきあうかということであり、同時に、日本人にとって自然の恵みとは川が運んでくれる水と土壌の惠みに他なりませんでした。… 続きを読む