-小松理虔『新復興論』(2018.9、ゲンロン叢書)-
https://genron.co.jp/books/shinfukkou/
東日本大震災と原発事故による被災が今も継続している「福島」の復興について、心に引っかかりを感じている人にとっては必読の書です。
潮目の地・いわきの歴史と宿命、アート、障害福祉などの広範な観点から、復興(イコール地域づくり)が語られています。なお、400ページ近い大著ですが、文章は平易かつ明晰で、非常に読みやすい本です。
小松さんは食品メーカーに勤務する「当事者」だったこともあり、食についても多くのページが割かれています。
原発事故(放射能汚染)は、福島の農水産物や食品を「食べる/食べない」という大きな社会的分断を生んでしまいました。
食べることとは「生きることそのもの」であり「先人の知恵や文化、地域をまるごと体内にとり込むという行為」である以上、食を巡る分断は、生(活)を巡る分断でもあったとします。
悪質なデマや差別的な発言に対しては、かつて小松さんは怒りをこめてSNS等で「当事者づらして無知や理解不足を叩いた時期」があったそうです。
しかし、やがて「商品を選ぶ権利は誰にでもある。農薬や添加物などのように放射能を『避ける』という行為自体は差別とは言えない」と考えるようになりました。
そして、科学的に正確な情報を発信することを大前提としつつ(小松さんは「うみラボ」で独自にデータ収集を続けておられます)、「正しい情報だけでは人は動かない。自分が楽しんだり食を満喫することが、結果的に福島の正しい理解を促し、差別的な言説を減らす」ことに思い到った時、小松さんは「気持ちがだいぶ楽になった」そうです。
正しさをぶつけ合わせるのではなく、違う判断をする人とどのように対話するか。いかに多様な選択を受け止めるか。
福島の食を巡る小松さんの論点は、私たちの社会がいかに多様性を受け容れていくかという大きなテーマにもつながっているのです。
[参考]
ゲンロン『新復興論』特別イベントの模様(拙ブログ)。
http://food-mileage.jp/2018/09/06/blog-133/
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出典:メルマガ「F.M.Letter」 No.155
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