【ほんのさわり275】山下惣一『百姓の遺言』

−山下惣一『百姓の遺言』(2023.7、家の光協会)−
 https://www.ienohikari.net/book/9784259547837

何度か書いてきましたが、昨年7月に逝去された山下惣一さん(佐賀・唐津の農民作家)の一連の作品は、私にとって人生の羅針盤ともいえる存在でした。
 本書は、「生涯一百姓」を貫かれた山下さんがエッセイ等のかたちで遺された警鐘や提言をまとめたもので、1979年に地上文学賞を受賞し直木賞候補ともなった小説『減反神社』も収録されています。

山下さんは、時代の流れに翻弄されつつも、減反や自由化、規模拡大を推進する農政に強烈に異議を唱え続けてこられました。そして、少なくとも前半生においては、同時に「消費者」とも闘っていたことが分かるエピソードが収録されています。… 続きを読む

【オーシャン・カレント275】車座座談会

2023.9/14(木), 東京・京橋にて

車座座談会とは、全国の一次産業の現場を歩かれている高橋博之さん((株)雨風太陽)を囲み、参加者が車座(つまり全員が主役)になって、現代社会の様々な課題やビジョンについて語り合う会です。組織的に開催されているものではなく、高橋さんの理念に賛同するボランティアの方たちによる自主的な取組みで、これまで全国で1300回近く開催されています。
 『食べる通信』や『ポケマル』で、食の分野で生産者と消費者をつなぐ活動に尽力されてきた高橋さんの話は、消費者にとって、遠くなってしまった一次産業の現場をいかに身近に感じることができるかが柱の一つとなっています。

先日(9月7日(木))には、東京・京橋で、約20名の参加者が集い、第1280回目の車座座談会が開催されました。… 続きを読む

【豆知識275】農家人口の推移

農家数や就業者数に比べると、農家人口という指標はあまり注目されません。しかし、消費者から農(生産の現場)が遠くなってしまった要因を探る上では、重要な指標となります。
 リンク先の棒グラフは、農家人口(農家世帯員数)の推移を年齢階層別に示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/02/275_2_setaiin.pdf

 1960年の農家世帯員数は3,441万人と、総人口の36%を占めていました。つまり、人口の約4割は農家の世帯員(家族)だったのです。それが2020年には約349万人と約10分の1へと激減しました。なお、これは、農家数(29%)、農林業就業者数(16%)に比べても大きな減少率です。
 この結果、総人口に占める農家人口の割合は約3%へと大きく低下しています。… 続きを読む

【ブログ】ぶらり歴史(と自然)散歩-奄美の戦跡など[前半]

奄美は父祖の地です。
 父親を早くに亡くし、親類の多くも(先祖代々の墓とともに)埼玉に移ったこともあって、すっかり縁遠くなってしまいました。本当に久しぶりの訪問です。

 2023年9月12日(火)は好天。7時45分羽田発SKY303便は満席。鹿児島空港で乗り継いだ10時10分発SKY381便もほぼ満席です。
 眼下にエメラルドグリーンのサンゴ礁の海が近づいてきたと思うと、1時間ほどで奄美空港に到着。空港近くでレンタカー。

最初に向かったのは、龍郷町大勝村。幼い頃は、父に連れられて何度も来た地。多くの親戚が集まった広い座敷と高倉。ソテツの赤い実などが記憶の底に残っています。… 続きを読む

【オーシャン・カレント274】家庭備蓄ポータル(農水省HP)

各地で大規模な災害が頻発するなか、食品の家庭備蓄の一層の普及を図ることを目的として様々な情報を集約したポータルサイトです。
 掲載されている「災害時に備えた食品ストックガイド」には、最低3日〜1週間分の備蓄が望ましいとしており、例えば1週間分・大人2人の場合、米は2kg×2袋、カップめん類6個、缶詰18缶等のほか、たまねぎ・じゃがいも等の日持ちする野菜類、煮干し・のり・乾燥わかめ等が例示されています。
 また、要配慮者(乳幼児、高齢者、慢性疾患・食物アレルギーの方)向け、単身者向けのガイドも公開されています。

本ガイドでは、ローリングストック(好みの食品を普段から多めに買い置きし、賞味期限の近いものから順次消費すること)等により、日常の一部として無理なく楽しみながら備蓄していくことの重要性が強調されていますが、1週間分の備蓄食料を日頃から備えることは簡単ではないことが分かります。
 しかし、東京圏への人口等の一極集中が進むなかで首都直下地震が想定される現在、少なくとも東京圏の居住者にとっては、家庭での食料備蓄は欠かせないものと思われます。… 続きを読む

【ブログ】持続可能な食とは(『鯨のレストラン』)

自宅近くに一画を借りている市民農園。
 9月に入っても、ナスは元気です。というか、栽培方法もかけた手間も例年と変わらないのですが、今年は異常にと言っていいほど実を付けてくれます。気候条件が合ったのでしょうか。
 右の写真の長ナスは30cm近くあります。先日、数日開けて岡山から帰省した際には、長さ50cm、太さ5cmを超えるものも収穫しました。ほとんど月刊「ムー」にある未確認生物です。

 むろん、自然の恵みと思えば有難いことですが、まだしばらくナスざんまいの食生活が続きそうです。

2023年9月4日(月)の明け方は強い雨。… 続きを読む

【豆知識274】人口等の東京圏への一極集中

1923年9月1日(土)11時58分、相模湾北西部を震源としマグニチュード7.9と推定される関東大地震が発生しました。埼玉、千葉、東京、神奈川及び山梨県では震度6を観測し、昼食の時間と重なったこともあり多くの火災が起ったため、死者・行方不明者は約10万5千人(うち東京7万人、神奈川3万3千人)に及ぶなど甚大な被害がもたらされました。

被害が甚大となった要因の一つとして、東京等に人口が過度に集中していたことがあるとされています。
 添付先のグラフは、全国及び東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)の人口(棒グラフ)及び全国の人口、GDP、耕地面積に占める東京圏のシェア(折れ線グラフ)の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/08/274_shuchu.pdf

関東大震災の前年(1922年)の日本の総人口は約5千7百万人で、うち東京圏には約8百万人と14%が居住していました。このシェアは関東大震災、終戦の時期を除いて現在まで一貫して上昇しており、2020年には29.3%(総人口1億2,600万人、東京圏3,700万人)へと上昇しています。… 続きを読む

【ブログ】徳冨健次郎『みみずのたはこと』(都会と田舎)

関東大震災から100年目に先立つ2023年8月29日(火)、東京・世田谷の芦花公園を訪ねました。

熊本・水俣生まれの徳冨健次郎(蘆花)は、明治二二(1889)年に上京してベストセラー作家として活躍、同四十(1907)年二月、農的生活にあこがれて青山から東京府北多摩郡千歳村大字粕谷(現・世田谷区粕谷)に転居しました。
 その時の生活の様子は、随想集『みみずのたはこと』に綴られています。

 残念ながら岩波文庫版は絶版となっていますが、幸い、青空文庫続きを読む