【メルマガ】F.M.Letter No.274 -pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.274◇
  2023年8月30日(水)[和暦 文月十五日]
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◆ F.M.豆知識  人口等の東京圏への一極集中
◆ O.カレント  家庭備蓄ポータル(農水省HP)
◆ ほんのさわり 徳冨健次郎『みみずのたはこと』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 今年は1993(大正12)年9月1日に発生した関東大震災から100年目の節目に当たります。30年以内に70%の確率で首都直下地震が起きると想定されるなか、今号では災害と食料供給について考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−人口等の東京圏への一極集中−

1923年9月1日(土)11時58分、相模湾北西部を震源としマグニチュード7.9と推定される関東大地震が発生しました。埼玉、千葉、東京、神奈川及び山梨県では震度6を観測し、昼食の時間と重なったこともあり多くの火災が起ったため、死者・行方不明者は約10万5千人(うち東京7万人、神奈川3万3千人)に及ぶなど甚大な被害がもたらされました。

被害が甚大となった要因の一つとして、東京等に人口が過度に集中していたことがあるとされています。
 添付先のグラフは、全国及び東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)の人口(棒グラフ)及び全国の人口、GDP、耕地面積に占める東京圏のシェア(折れ線グラフ)の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2023/08/274_shuchu.pdf

関東大震災の前年(1922年)の日本の総人口は約5千7百万人で、うち東京圏には約8百万人と14%が居住していました。このシェアは関東大震災、終戦の時期を除いて現在まで一貫して上昇しており、2020年には29.3%(総人口1億2,600万人、東京圏3,700万人)へと上昇しています。
 また、GDPに占める東京圏の割合は1955年の23.8%から2019年には33.7%へと上昇しています。さらに、資本金10億円以上の企業、上場企業の本社の約6割が東京圏に集中しており、経済活動も東京圏への一極集中が進んでいるのです。

これらに対して、全国の耕地面積に占める東京圏のシェアは、1965年の時点でも7.0%(東京都は0.5%)に過ぎませんでしたが、2020年には5.1%(同0.1%)へとさらに低下しています。東京圏においては、身近なところにある食料の供給基盤がますます喪われているのです。

諸外国と比べても日本は人口集中の度合いが強いというデータもあります。災害大国とも呼ばれる日本ですが、過去の震災等の教訓は生かされていないかのようです。

データの出所:総務省「人口推計の結果の概要」(長期時系列データ)
  https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html#annual
 内閣府「県民経済計算」
  https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/main_2019.html
 農林水産省「耕地及び作付面積統計」(長期累年)
  https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/#l
 国土交通省「企業等の東京一極集中に関する懇談会とりまとめ(参考資料)」(2021年1月)
  https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001384143.pdf

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−家庭備蓄ポータル(農水省HP)−
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/index.html

各地で大規模な災害が頻発するなか、食品の家庭備蓄の一層の普及を図ることを目的として様々な情報を集約したポータルサイトです。
 掲載されている「災害時に備えた食品ストックガイド」には、最低3日〜1週間分の備蓄が望ましいとしており、例えば1週間分・大人2人の場合、米は2kg×2袋、カップめん類6個、缶詰18缶等のほか、たまねぎ・じゃがいも等の日持ちする野菜類、煮干し・のり・乾燥わかめ等が例示されています。
 また、要配慮者(乳幼児、高齢者、慢性疾患・食物アレルギーの方)向け、単身者向けのガイドも公開されています。

本ガイドでは、ローリングストック(好みの食品を普段から多めに買い置きし、賞味期限の近いものから順次消費すること)等により、日常の一部として無理なく楽しみながら備蓄していくことの重要性が強調されていますが、1週間分の備蓄食料を日頃から備えることは簡単ではないことが分かります。
 しかし、東京圏への人口等の一極集中が進むなかで首都直下地震が想定される現在、少なくとも東京圏の居住者にとっては、家庭での食料備蓄は欠かせないものと思われます。

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−徳冨健次郎『みみずのたはこと』(大正二(1913)年刊)−
 [青空文庫]
 https://www.aozora.gr.jp/cards/000279/files/1704_6917.html

出典:徳冨健次郎『みみずのたはこと』(青空文庫)より。

徳冨健次郎(蘆花)は、1868年 熊本・水俣の生まれの小説家。兄は思想家・ジャーナリストの蘇峰。1889年に上京し小説家としての地位を確立しましたが、1907年には東京府北多摩郡千歳村大字粕谷(現・世田谷区粕谷)に転居し、1927年に亡くなるまでこの地で「農的生活」を送りました。
 その千歳村での出来事をスケッチした随筆集が本書です。

転居した当初の千歳村は、鉄道も開通していない純農村地帯でした。一帯は田畑と雑木林ばかりで、隣家までは100mほども離れていたそうです。
 自嘲を込めて「美的百姓」と称した健次郎にとって、農(農民)は崇敬の対象でした。
 「農は神の直参である。自然の懐に、自然の支配の下で働く彼らは、人間化した自然である」「農は、神とともに働き、神とともに楽しむことを実行できる職業である」等と記されています。

本書には、関東大震災についてもリアルタイムで記録されています。
 千歳村には大した被害はなく(八幡宮の鳥居や著者の自宅の壁は崩れたそうですが)、発災5日後の9月6日には、村の青年たちが、馬齢種、とうもろこし等の食料を牛車11台に満載して都心に支援に向かい、被災者に「生き返る」と喜ばれたとのこと。また、都心から避難してきた人たちも受け入れ、「何と言っても人は食うて生きる動物。食物をつくる人には、まさかの時にびくともしない強みがある」「こんな時こそ、都会の居住者も自然の懐の嬉し味をしみじみ思い知る」と記されています。
 なお、「隣の字で鮮人を三名殺してしまったことは、すまぬ事、はずかしいしい事」との記述もあります。
 
著者の旧家は、現在、周辺の土地と合わせて都立蘆花恒春園(芦花公園)として整備されています。
 昨日(2023年8月29日)訪ねてきましたが、周辺は住宅地ばかりで農地は見当たらず、本書に描かれている純農村地域の姿は想像することもできませんでした。
 100年前には都心への食料支援を担ったこの地も、すっかり都会に変貌しています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ ぶらり歴史散歩〜岡山路(1、2)[8/27,28]
 https://food-mileage.jp/2023/08/27/blog-453/
 https://food-mileage.jp/2023/08/28/blog-454/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ ドキュメンタリ映画『鯨のレストラン』上映
 日時:9月2日(土)〜
 場所:K’sシネマ(東京・新宿3丁目)
 主催:復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.whalerestaurant.jp/

○ 「種子をつなぐ人〜西原・中川智さんの雑穀栽培の暦〜」完成披露上映会&交流イベント
 日時:9月10日(土)14:00〜16:00、17:00〜19:00
 場所:西原ife体験宿したで(山梨・上野原市西原)
 共催: 合同会社古民家のっけ、「種子をつなぐ人」映像制作プロジェクト
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/SAIHALIFESITADAY/posts/734583665339588/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ワグネル代表の墜落死など事態は混乱しており、再開の目途は立ちません。過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.275は9月15日(金)[和暦 葉月朔日]に配信予定です。猛暑はおさまっているでしょうか。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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