【ほんのさわり】上間陽子『海をあげる』

−上間陽子『海をあげる』(筑摩書房、2020.10)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480815583/

著者は1972年沖縄生まれ。米海兵隊・普天間基地の近くに住みながら、幼い頃から性虐待を受けたり、若年出産をした女性等の調査を続けておられる琉球大学教授です。
 その著者が「目の前の日々」を書き記したエッセイ集は、なかなかに重たい内容を含んでいます。

前夫との離婚話が進む失意の中、友人が持たせてくれた粕汁を泣きながら食べたこと(「美味しいごはん」)。小学生の頃から父親から性暴力を受け、今は風俗で働く17歳の母親とのこと(「何も書かない」)、子どもの頃は大嫌いだった祖母との別れ(「空を駆ける」)など。… 続きを読む

【ほんのさわり】いとうせいこう『福島モノローグ』

−いとうせいこう『福島モノローグ』(2021.2、河出書房新社)-
 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029498/

 著者は1961年東京生まれ。編集者を経て、作家、映像、音楽、舞台など様々な分野で活躍している方。
 本書は、東日本大震災で被災し、その後も被災地で暮らし活動されている女性たちにインタビューしたノンフィクションです。「あとがき」によると、小説『想像ラジオ』(2013年、野間文芸新人賞)で震災の死者に成り代わって「語り過ぎた」ため、本書はインタビュワーの質問や意見などは全てカットした「モノローグ」となったとのこと。

避難先から帰ってきたお母さんたち、災害FMを立ち上げた社協職員、地域の復興に取り組む村会議員や農業者の方達から、著者は「忘れたいこと」「忘れられないこと」を聴き出していきます。… 続きを読む

【ほんのさわり】濱田武士『魚と日本人−食と職の経済学』

−濱田武士『魚と日本人−食と職の経済学』(2016/10、岩波新書)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b266373.html

著者は1969年大阪府生まれ。北海道大学大学院(漁業経済学)を修了し、東京海洋大学准教授を経て現在は北海学園大学経済学部教授。
 本書は、近所にあった鮮魚店が閉店したことに「まちの暮らしの楽しみが一つ消えた」と著者が嘆く場面から始まります。顕著な「魚離れ」(消費量の減)という「食べる人たち」の現実。日本独自の文化である「魚食」が廃れつつあるのです。

著者の視点は、消費の現場から順番に上流(生産の現場)に向かっていきます。… 続きを読む

【ほんのさわり】原田マハ『生きるぼくら』

−原田マハ『生きるぼくら』(2015.9、徳間文庫)−
 https://www.tokuma.jp/book/b496237.html

高校時代にいじめにあって引きこもりとなった主人公は、24歳になった今も、昼夜パートで働く母親(父親とは離婚)に寄食中。毎日の食事はカップ麺とコンビニおにぎりばかり。食事とは、死ななければいいだけの「日常業務」にしか過ぎませんでした。
 ある日、突然、母が蒸発して途方に暮れた彼は、母が遺した年賀状を頼りに、長野・蓼科の祖母を十数年ぶりに訪ねます。
 ところが祖母は認知症を患い、彼の顔も名前も分かりません。それでも食べさせてくれたおにぎりやみそ汁の美味しさが、閉ざされていた彼の心を徐々に開いていきます。… 続きを読む

【ほんのさわり】野中郁次郎ほか『知識創造企業』

−野中郁次郎、竹内弘高『知識創造企業』(新装版、2020.12、東洋経済新報社)−
 https://str.toyokeizai.net/books/9784492522325/

1995年に英語で発表され、世界10カ国語以上に翻訳された経営学の記念碑的な名著が、四半世紀ぶりに新装版として再刊されました。
 本書が画期的とされ、今なお影響力を失っていないのは、イノベーションのメカニズムを知識創造という面から解明した点にあります。

知識には「形式知」と「暗黙知」があります。… 続きを読む

【ほんのさわり】平賀 緑『植物油の政治経済学』

 −平賀 緑『植物油の政治経済学』−
 http://www.showado-kyoto.jp/book/b432689.html

著者は1971年、広島県出身。
 香港留学、新聞社や金融機関勤務を経て、京都・丹波で「田舎暮らし」を実践しながら市民運動を企画・運営。その後に大学院に入り、ロンドン市立大学修士(食料栄養政策)、京都大学博士(経済学)を取得され、現在は京都橘大学准教授を務められているというユニークな経歴をお持ちの方。… 続きを読む

【ほんのさわり】ドキュメンタリ映画『いただきます2 −ここは、発酵の楽園』

公式ホームページより(https://itadakimasu2.jp/)

−ドキュメンタリ映画『いただきます2 −ここは、発酵の楽園』-
 https://itadakimasu2.jp/

この映画の製作(プロデューサー、監督、撮影、編集、デザインなど)を全て一人で担っているのが、オオタヴィンさん(愛知出身、東京・高尾在住の日本人の方です)。… 続きを読む

【ほんのさわり】國分功一郎『原子力時代における哲学』

−國分功一郎『原子力時代における哲学』(晶文社、2019/9)−
 https://www.shobunsha.co.jp/?p=5494

東電福島第一原発の事故を受けて「原発をなくしたいと心の底から思っている」著者が、2013年に行った連続講座「原子力時代の哲学」の記録です。ともすれば難しい哲学の用語なども、一般市民向けに分かりやすく解説してくれています。

科学技術に酔っていた1950年代、核兵器ではなく原子力という技術(「核の平和利用」)自体の危険性を正面から指摘した唯一の哲学者が、ハイデッガーでした。

人類は、地上の生態系を超越した原子力技術を開発・獲得したことにより、まるで神になったかのような錯覚(全能感)に浸りました。… 続きを読む

【ほんのさわり】赤松利一『藻屑蟹』

−赤松利一『藻屑蟹』(徳間文庫、2019.3)−
 https://www.tokuma.jp/book/b493527.html

著者は1956年香川県生まれ。会社も家庭も破綻して東日本大震災後の東北で土木作業員、除染作業員を経験。その後上京し「住所不定」の生活を送りつつ、漫画喫茶で書き上げた本書で第1回大藪春彦新人賞を受賞(2018)したという方(!)。 

 福島・浜通りにある某市でうだつの上がらないパチンコ店の店長をしていた主人公は、毎夜、札束の夢を見てうなされるほどのカネの亡者。高校時代の同級生に誘われて除染作業の監督者になり、そこで知り合ったベテラン原発作業員の遺書をネタに電力会社を脅そうとたくらみます。
 何でもカネで解決しようとする電力会社、日当は「中抜き」され人権さえ無視される原発作業員、補償金や義援金が生む断絶、原発事故からの避難者と地元住民との軋轢なども描かれます。著者が「自分で見てきたこと」を基にしているそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり】田尾陽一『飯舘村からの挑戦』

−田尾陽一『飯舘村からの挑戦−自然との共生をめざして』(ちくま新書、2020.12)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073631/

著者は1941年神奈川県生まれ。東京大学大学院で物理学を専攻した後、ITベンチャーを起業し、大手セキュリティ会社の役員まで務めらた方。エネルギー研究者になった背景には、4歳の頃に広島市郊外に疎開した時に原爆の光を目撃した原体験があるそうです。

2011年6月、原発被災地を訪ねた著者たちは、全村避難指示が出されていた福島・飯館村の地元の農家の方たちと連携して「ふくしま再生の会」を立ち上げました(翌年にNPO化)。それから何度も現地を訪ね、村内の放射線量の測定活動を始められたのです。それから10年、住民目線で原発被害地域の再生に取り組んでこられました。
 なお、著者は2017年に避難指示が解除された直後、飯舘村に移住されています。… 続きを読む

【ほんのさわり】水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

−水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014/3)−
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0732-a/

著者は1953年愛知県生まれ。証券会社のエコノミスト、内閣官房内閣審議官等を経て2017年から法政大学法学部教授。
 実業と政策にまたがる幅広い実務経験を有する著者は、「資本主義の死期が近づいている」と主張します。

その根拠として用いているのが「交易条件」です。… 続きを読む

【ほんのさわり】大江正章『有機農業のチカラ』

−大江正章『有機農業のチカラ−コロナ時代を生きる知恵』(2020.10、コモンズ)−
 http://www.commonsonline.co.jp/new_books/2020/09/04/yukinogyopower/

著者は1957年神奈川県生まれ。
 学生時代から市民運動に積極的に関わり、いったん中堅出版社に就職したものの退職して自ら出版社「コモンズ」を立ち上げ、編集者として、あるいは自らライターとして、多くの良質かつ問題提起的な本を出版されてきました。
 その大江さんは、肺がんとの10か月に及ぶ闘病生活の末、昨年(2020)12月15日に逝去されました。享年63歳、早過ぎました。… 続きを読む

【ほんのさわり】2020年まとめ 

今年も食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる多くの本と出合えることができました。
 地球と人類の将来ビジョンを考えるのに参考になった本は西川 潤『2030年 未来への選択』(No.186)、宮台真司、飯田哲也『原発社会からの離脱』(No.190)、古沢広祐『食・農・環境とSDGs』(No.196)、中野佳裕「いまこそ〈健全な社会〉へ」(No.198)、ハラリ『サピエンス全史』(No.200)、斎藤幸平『人新世の「資本論」』(No.207)です。

農村や自然との関わりでは、鷲田清一/山極寿一『都市と野生の思考』(No.191)、宇根 … 続きを読む