−宇根 豊『農はいのちをつなぐ』(2023年11月、岩波ジュニア新書)−
https://www.iwanami.co.jp/book/b635087.html
【ポイント】
「田んぼ」は「いのちといのちをつなぐ」場所。「田んぼの見回り」の具体的な効果についても分析的に記されています。
著者は1950年、長崎・島原市生まれ。福岡県庁(農業改良普及員)を退職して「農と自然の研究所」を設立、著者が始めた「田んぼの生きもの調査」は全国に広がりました。例えば、ごはんを一杯食べると、オタマジャクシ35匹が田んぼで生きることができること等が明らかにされています。
なお、本欄で宇根さんのご著書を紹介させて頂くのは、共著を含めて5冊目になります。
著者は、田植えが終わると毎朝夕に田んぼを見回り、稲に「今日も元気だな」と語り掛け、草や虫など様々な生きものたちと出会い対話できることに感謝するそうです。なお、赤とんぼのヤゴの抜け殻も数えているそうですが、「農水省は決して稲作のための労働と認めることはないだろう」としています。
本書では「田んぼの見回り」の具体的な効果と、そのメカニズムについても触れられています。
何度もけい畔を歩くと、中央部分は低く硬くなり、性質に応じて自然に草の住み分けが行われるとのこと。ただし自然に任せっ放しではススキなどの背丈が高い草ばかりがはびこるところ、適度に草刈りすることによって丈の低い草にも光がよく光が当たり、毎年200種ほどの草が安定的に育つのだそうです(生態学では「遷移が止まる」と言うそうです)。
著者は、草たちが「もっと田んぼに通いなさいよ」と促しているように感じることもあるとしています。
また、田んぼには大雨時に一時的に貯水する洪水防止機能がありますが、これも田んぼを見回ることでけい畔の土が締まり、草刈りによって色々な草が根を張ることで崩れにくくなるという効果があるそうです。
なお、著者は農作業の中で草取りが一番楽しいとのこと。
これは草のいのちを奪うことですが、この殺生を悩まなくてもいいのは、次の年には必ずその草と会えるように仕事をしているから。それが、天地自然のめぐみを対価を払うことなく受け取っている農民の厳しい責任としています。
そして何よりも大切なのは、生きものや天地自然への感謝の気持ち。一緒に生きている、自然環境と一体化する感覚としています。著者にとって田んぼとは「いのちといのちをつなぐ」場所なのです。
最後の一文、もっとも身近な生きもの(失礼)である奥様との情愛の交換の様子には、思わず頬が緩んでしまいました(ご馳走様でした)。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.292、2024年5月22日(水)[和暦 卯月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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