−岩井吉彌『山村に住む、ある森林学者が考えたこと』(2021/5、大垣書店)−
https://www.books-ogaki.co.jp/post/38904
【ポイント】
日本の林業・森林が急速に荒廃している元凶は林業経営の採算の厳しさにあるとし、今後は「家族林業」による副業を重視し、さらに都市住民の森に対する関心の高まりに注目しています。
著者は1945年京都生まれ。実家は北山杉で有名な京都市北山で代々林業を営んでおり、自身も林業経営と大学教授という「二足のワラジ」を履いてこられた方。
2009年に京都大学林学科教授を定年退職されてから約10年、日本の林業はますます衰え、森林は急速に荒廃していると警鐘を鳴らしています。
その元凶は林業経営の厳しさにあります。各種データと著者の経験による試算では、平均的な林業の収入(立木販売価額)は1ha当たり90万円であるのに対して費用は280万円と、190万円の赤字(ちなみにオーストリアでは210万円の黒字)。日本では補助金を含めてもようやくトントンで、このため最も伐採量が多い宮崎県でも再植林率は30%程度にとどまっているそうです(これでも高すぎると思う、と著者は記しています)。
現に著者の近隣にも、不在地主の急傾斜の山を木材業者が大型機械で伐採した広大な跡地があるそうで、2018年の台風・豪雨による桂川の氾濫と多くの家屋が浸水被害を受けた一因には上流部の森林の荒廃があると指摘しています。
このようななか、著者は日本で可能性のある林業は、副業などで他の収入源がある「家族林業」であるとします。自身もクリスマスツリーや杉玉アクセサリーの生産・販売に取り組んでいます(写真も掲載されていますが、なかなか素敵です)。
また、京都市内の会社社長が森林を取得し、社員のレクリエーションや遊びの場として活用している近隣の事例を紹介し、都会の人のなかで森林への関心が高まっていることに希望を見出してもいます。
しかし著者が住む北山は、林業が盛んな地とは言え京都市内にあり、大都会からのアクセスも比較的容易な地です。一方、中山間地は全く状況が異なります。例えばプレゼントツリーのように、地元の行政や森林組合だけではなく、都市部の市民、企業などが協力・交流しつつ森づくりに取り組んでいく仕組み(仕掛け)が不可欠と思われます。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.290、2024年4月23日(火)[和暦 弥生十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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