【ほんのさわり】真田純子『風景をつくるごはん』

【ポイント】
 都市と農村の不平等な関係を解消するためには、環境や風景に配慮した農産物が生産され、それらを消費者が積極的に選択すること(風景をつくるごはんを食べること)が必要としています。

−真田純子『風景をつくるごはん−都市と農村の真に幸せな関係とは』(2023.10、農山漁村文化協会)−
 https://toretate.nbkbooks.com/9784540231247/

著者は1974年広島・福山市生まれの東京工業大学教授(景観工学)。2013年には農地の石積み技術を継承するため「石積み学校」を立ち上げられました。
 本書のペースとなっているのは、徳島大学准教授時代の徳島県内各地での様々な経験です。
 実際の農村風景を見た時にはハウスや荒廃農地があって「あまり美しくないな」と思ったこと。ある農家の裏にある段畠に移動するだけで息が上がり、中山間地農業の作業効率の悪さを体験したこと。
 また、あるシイタケ農家の「自分で値段がつけられないから祈るしかない」との言葉に、なぜ農村の人たちはこんなに頑張らなくてはならないのかと怒りに似た感情を抱きます。社会システムが全体として効率性を重視してきた中で、現在の都市と農村は「選ぶ−選ばれる」という、消費主導の不平等な関係にあり、農村の価値は都市に「搾取」されていると感じたのです。

そこでまず著者は、意識的に地元のものを食べることを心掛けました。この「小さな行動」が著者に大きな変化をもたらします。日々の食事のメニューを決めるのは土地と季節であることを知ると同時に、自分のごはん(食材の選択)がまわりまわって田舎の風景(農業、環境)をつくっていることに気付くのです。

一方で、ブランド化や六次産業化の取組みには環境や風景の視点が入っていないことに批判的です。EUでは農業政策の中に環境や風景の保全がしっかりと位置付けられており、しかもそれは過去へのノスタルジーではなく、これからの社会にとっての価値(持続可能な暮らし)に目が向いているものと評価しています。

 しかし、いくら生産者が環境や風景に根差した農産物を生産しても、消費者がこれらの価値を理解しなければ「社会システム」は変わりません。著者は消費者に対しては、1週間のうちの1食からでも、環境や社会のことを考えながら「風景をつくるごはん」を食べようと訴えています。

さらには著者自身もそうであったように、特に大都市の居住者は農村に足を運び、人々の暮らしや農作業を体験してみることが効果的かもしれません。

[参考](一社)石積み学校
 https://ishizumischool.localinfo.jp/

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.289、2024年4月9日(火)[和暦 弥生朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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