【ほんのさわり】吉井たくみ『鷹のつらきびしく老いて 評伝・村上鬼城』

−吉井たくみ『鷹のつらきびしく老いて 評伝・村上鬼城』(2023.9、朔出版)−
 https://saku-pub.com/books/taka.html

【ポイント】
 著者は「『真情の俳句』を詠んだ村上鬼城の世界観は、これからの持続可能で新しい世のなかを導く一つの力になるのではないか」としています。

著者は1960年群馬・高崎市生まれ。
 農林水産省、内閣府、消費者庁等に在勤中から、多忙な業務のなか、趣味で俳句をたしなんでいたことは知っていましたが、同郷の「孤高の俳人」の研究を続けてきたことは知りませんでした。実は著者は、私の農水省の同期生です。

村上鬼城(きじょう)は慶應元(1865)年、鳥取藩士の長男として江戸に生まれました。
 7歳の頃に高崎に転居した後、17歳の夏に突然、聴覚を失ってしまうという失意と貧困の中でも句作を続けます。30歳の頃、正岡子規に教えを乞うために手紙を出したところ、懇切な返書が届いたそうで、これをきっかけに、さらに本格的に句作に取り組み、後には俳誌「ホトトギス」の黄金時代を担う一人となりました(見ず知らずの人からの手紙に丁寧な返書を送った子規の人柄もしのばれます)。

鬼城の俳句に対する姿勢は、他の俳人とは異なるとのこと。
 俳句作者としての最も重要かつ基本的な条件は、日々の生活を疎かにせず、精一杯真面目に生き抜くこととしていたそうです。著者は鬼城の俳句を「真情の俳句」と呼び、鬼城の生きざまや世界観は、これからの持続可能で新しい世のなかを導く一つの力になるのではないかと評価しています。

また、鬼城の俳句は、写実的であると同時に、自らの主観も直截に詠み込まれているという特徴があります。
 本書のタイトルは、「鷹のつら きびしく老いて あわれなり」という鬼城晩年の代表作から。老いてもなお厳しさを失わない鷹の顔を「哀れなり」と言い切った調べを、著者は、孤高の鷹に自らを投影したのではないかと解説しています。

なお、著者は鬼城のことを調べて行くうち「彼はつくづく上州人だなあ」と思ったとのこと。
 空っ風に象徴される厳しい自然の下で育まれた上州人気質とは、飾り気がなく、朴訥で頑固な面もありながら、正直な心で人々に接するといったもののようです。上州の豊かな自然や風土を詠んだ鬼城の句も、多数紹介されています。
 著者自身の郷里に対する愛情も感じられる、心が暖かくなる一冊です。

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.285、2024年2月10日(土)[和暦 睦月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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