【メルマガ】F.M.Letter No.275 -pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.275◇
 2023年9月15日(金)[和暦 葉月朔日]
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◆ F.M.豆知識  農家人口の推移
◆ O.カレント  車座座談会
◆ ほんのさわり 山下惣一『百姓の遺言』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 久しぶりに父祖の地・奄美を訪ねてきました。「南海の楽園」は戦跡の地でもあります。
 今号では、消費者から農(生産の現場)が遠くなってしまったことについて考えてみました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農家人口の推移−

農家数や就業者数に比べると、農家人口という指標はあまり注目されません。しかし、消費者から農(生産の現場)が遠くなってしまった要因を探る上では、重要な指標となります。
 リンク先の棒グラフは、農家人口(農家世帯員数)の推移を年齢階層別に示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/02/275_2_setaiin.pdf

 1960年の農家世帯員数は3,441万人と、総人口の36%を占めていました。つまり、人口の約4割は農家の世帯員(家族)だったのです。それが2020年には約349万人と約10分の1へと激減しました。なお、これは、農家数(29%)、農林業就業者数(16%)に比べても大きな減少率です。
 この結果、総人口に占める農家人口の割合は約3%へと大きく低下しています。

さらに、農家世帯員数を年齢階層別にみると、若い世代が特に大きく減少していることが分かります。農家世帯員数に占める20歳未満の者の割合は1960年では41%だったのが、2020年には11%へと低下しています。
 農家の子弟は、経済が高度成長するなかで実家を離れ、東京など大都市圏に移住し他産業に就職しました。しかし両親や親戚の多くは「田舎」で農業を続けているため、生まれ育った実家に帰省する機会も多く、農業を手伝うこともありました。つまり、ふだんは農業に携わらない国民(消費者)の多くにとって、「農の現場」は身近な存在だったのです。
 ところが、都会で生まれた次の世代にとっては、祖父母の家は、せいぜい盆暮れに「遊びに」行くだけの場所になってしまい、その機会も次第に減少していきました。
 これが、消費者にとって農の現場が遠くなり、産地や生産者のことを想像することが難しくなっている要因の一つとなっていると思われます。

データの出所:

 農林水産省「農林業センサス」(累年統計)、総務省「国勢調査」(時系列データ)から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/past/stats.html
 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200521&tstat=000001011777

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−車座座談会−

2023.9/14(木), 東京・京橋にて

車座座談会とは、全国の一次産業の現場を歩かれている高橋博之さん((株)雨風太陽)を囲み、参加者が車座(つまり全員が主役)になって、現代社会の様々な課題やビジョンについて語り合う会です。組織的に開催されているものではなく、高橋さんの理念に賛同するボランティアの方たちによる自主的な取組みで、これまで全国で1300回近く開催されています。
 『食べる通信』や『ポケマル』で、食の分野で生産者と消費者をつなぐ活動に尽力されてきた高橋さんの話は、消費者にとって、遠くなってしまった一次産業の現場をいかに身近に感じることができるかが柱の一つとなっています。

先日(9月7日(木))には、東京・京橋で、約20名の参加者が集い、第1280回目の車座座談会が開催されました。
 テーマの一つはALPS処理水の放出。これに関連して高橋さんは、「日本人の一番良くない点はNIMBY(Not in my backyard)。福島原発で作られた電気を使ってきた東京の消費者こそ、福島の魚を食べないということではあまりに無責任ではないか。全員が当事者になる必要がある。今こそ観客席からグラウンドに降りてくるべき」等と、強く訴えられました。

複数の参加者からは「世の中には多くの問題があって、とてもその全てを当事者となって抱えきれない」との意見が出されました。これに対して、「一足飛びに当事者まで行かなくても、日々、生産者とつながる活動をしていくことで少しずつ近づいていけるのではないか」との発言もありました。
 多くの方が、それぞれのやり方で「産地、生産者」に近づいていく取組みをされています。

 参考
 株式会社 天風太陽
 https://ame-kaze-taiyo.jp/
 当日の車座座談会の模様(拙ブログ)
 https://food-mileage.jp/2023/09/09/blog-458/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−山下惣一『百姓の遺言』(2023.7、家の光協会)−
 https://www.ienohikari.net/book/9784259547837

何度か書いてきましたが、昨年7月に逝去された山下惣一さん(佐賀・唐津の農民作家)の一連の作品は、私にとって人生の羅針盤ともいえる存在でした。
 本書は、「生涯一百姓」を貫かれた山下さんがエッセイ等のかたちで遺された警鐘や提言をまとめたもので、1979年に地上文学賞を受賞し直木賞候補ともなった小説『減反神社』も収録されています。

山下さんは、時代の流れに翻弄されつつも、減反や自由化、規模拡大を推進する農政に強烈に異議を唱え続けてこられました。そして、少なくとも前半生においては、同時に「消費者」とも闘っていたことが分かるエピソードが収録されています。
 みぞれ交じりの冷たい雨の日、著者はレンコンを掘っていました。その脇を、小学校に向かうおばあさんと小学生の孫が通りかかります。突然、学校に行きたくないと駄々をこねはじめた孫に、おばあさんは血相を変えて「勉強せんでどうするか。そのおじちゃんば見てみろ!」と怒鳴ったというのです。著者は「農業がいかに教育に貢献しているかを知って、体が震えるほどに感動した」と記しています(むろん、強烈な皮肉と自虐です)。
 山下さんの執筆のエネルギーは、「消費者」に対する怨嗟と敵愾心が支えていたかのようです。

本書には「消費者に贈る10の本音メッセージ」も収録されています。
 最初のメッセージでは「食料、農業問題とは、生産手段を持たない消費者、つまりあなたの問題」「いざという時に飢えるのは消費者」であると釘を刺します。
 さらに「マスコミ等の情報に振り回され過ぎない」「利便性だけではなく、食を楽しみ、こだわりを持ってほしい」等と続き、最後には「生産者である私と、消費するあなたの間の深い溝を少しでも埋めたい、距離を縮めたい」として、「生産者、消費者という関係ではなく、共に地域に生きる生活者」としての連携を訴えています。つまり、かつて闘う相手であった消費者は、山下さんのなかで、パートナーの地位に変化していったのです。

実は、かつて山下さんの作品を読むたび、私自身、忸怩たる思いを禁じえませんでした。しばしば出てくる「ばーか、ザマミロ」との言葉が、一消費者に過ぎない自分にも向けられていることが分かっていたためです。
 本書には、井上ひさしさん(作家、2010没)との対談も収録されています。
 井上さんが「ぼくは山下さんの前に出ると、作っていないという後ろめたさを感じるんですよ」と発言したのに対して、山下さんは「しようがないじゃないですか(笑)」と返します。この言葉に、私自身も救われる思いがしました。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 関東大震災から100年[9/2]
 https://food-mileage.jp/2023/09/02/blog-455/

○ 徳冨健次郎『みみずのたはこと』(都会と田舎)[9/4]
 https://food-mileage.jp/2023/09/04/blog-456/

○ 持続可能な食とは(『鯨のレストラン』)[9/6]
 https://food-mileage.jp/2023/09/06/blog-457/

○ 第1280回 車座座談会(東京・京橋)
 https://food-mileage.jp/2023/09/09/blog-458/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ 奥沢ブッククラブ第94回 『二番目の悪者』
 日時:9月16日(土)15:00〜17:00
 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢)
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/698290179009489

○ 福島円卓会議(復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議) #4
 日時:9月24日(土)14:00〜16:00
 場所:杉妻会館(福島市)及びオンライン
 主催:復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議
 (詳細、問合せ等↓)
 https://peatix.com/event/3700538/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 ロシアによるウクライナ武力侵攻以来、未だ再開の目途は立たず。過去のバックナンバーは拙ウェブサイトに掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.276は9月29日(金)[和暦 葉月十五日、「仲秋の名月」の日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(本メールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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 ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」
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