美しい島々の物語

2010年7月23日(金) 美しい島々の物語

海南(かな)友子監督、”Beautiful Islands” を鑑てきました。

南太平洋のツバル、世界遺産・ベネチア、アラスカのシシマレフという個性的・対照的な3つの島々に生きる人達の姿が、約2時間、淡々と綴られていきます。地理も歴史的背景も住民の人種もばらばらのこの島々に共通しているのは、気候変動の影響を地球上で最も先鋭的に受けている地域ということ。

気候変動は、これら島々に固有の問題ではありません。しかし私たちは、地球環境問題の深刻さ、重要性を、頭では、理屈では分かっていても、それは自分の住んでいるところから遠く離れた所で起こっていること、ニュースとして映像で見るものであって、なかなか実感することはできません。

島々の人たちの表情は総じて明るく、毎日を楽しんでおり、悲壮感は感じられません。ツバルの子どもたちは、競うように家から水に飛び込み、亀と戯れて遊んでいます。でも映像は、家から直接飛び込めるほど海面が上昇してきていることを示しているのです。美しい砂浜の沖合には水の中に横たわる椰子の木。映画は、押しつけがましい解説もBGMもなく、ストイックなまでに「ありのままの島のくらし」を観客の前に提示し続けます。「頭でわかっているだけでなく、心で感じることが何より大切」、映画館でもらった海南監督のメッセージにはこうありました。

 

本当に素晴らしい映画で、一人でも多くの方に観てもらいたいと思います。ただ、ツバルの小学校の授業での先生の説明、温暖化により氷が溶けて海面が上昇し海に沈んでしまう、という筋立ては、やや乱暴と言わざるを得ません。海面上昇の予測値自体、かつてアル・ゴアの映画では6mと言っていたのが最近のIPCC報告等では下方修正が続いています。もともと珊瑚礁からなるツバルは浸食に弱く、人口増加により低湿地に居住するようになったこと、生活排水による汚染も問題になっているという事情もあるようで、すべてを気候変動に結びつけるのはやや短絡的です。

一方、温暖化により珊瑚の白化が進み浸食が起きやすくなっている可能性も指摘されており、気候変動と全く関係がない訳でもありません。ツバルが地球上で最も脆弱な地域の一つであることは紛れもない事実です。温暖化に関しては複雑な要因が絡み、先端科学の世界でも単純に割り切れないことを肝に銘じ、心で感じることとは別に、冷静で地道な議論も必要だと思います。

 

ところで海南監督は、海面上昇を身近に感じるためのアプリ「水没カメラ」まで開発してしまいました。iphoneで身近な風景を撮影すると、その大切な場所が水没している写真を見ることができるという仕掛けです。自宅や職場が水に浸かった写真を見た時は、正直、息を飲みました。気候変動を身近な問題としてバーチャルに体験できる、面白くも優れたツールです。

http://www.beautiful-i.tv/news/index.php?e=33

http://bi.mapping.jp/