市民と政府の意見交換会~TPPを考えよう~

 5月22日(火)、東京スカイツリー開業の日は、生憎と冷たくて強い雨。
 その雨の中、東京都の文京シビックセンターのホールでは、「市民と政府の意見交換会~TPPを考えよう~」が開催されました。
 主催は「市民と政府のTPP意見交換会・東京実行委員会」。
 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、日本の社会や生活に大きな影響を与えることが予想されるにも関わらず、情報が不十分で不安があるとして、全国の100以上の団体や市民が政府に呼びかけ、“市民が主催する”意見交換会として実現したものとのことです。
 この日の意見交換会は3部構成でした。
 第1部は市民側の有識者によるTPPの概略説明。
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 最初に発言されたのは東京大学大学院の鈴木宣弘教授です。
 国内向けには情報収集のための事前協議と説明しながら実際には国民不在で米国等との交渉が始まっている現状に危機感を表明しつつ、内閣府の試算においてもTPPは経済連携の中で最悪の選択肢であること、ASEAN+3や日EUなど柔軟で互恵的な経済連携を具体すべき、との主張。
 続いて「食政策センター・ビジョン21」の安田節子さんからは、食の安全を確保する立場から「ISD(紛争解決)条項」や韓米FTAの「ラチェット条項(逆進防止装置)」等に対する懸念が表明されました。
 さらに、JA長野厚生連佐久総合病院の色平(いろひら)哲郎さんからは、医師の立場から、病気の原因がはっきり分からなければ治療はできない、医療の市場化が国民皆保険制度を脅かす恐れがあること等を警戒すべき、とのご発言。
 第2部では、内閣府の黒田内閣審議官を始め、外務省、農林水産省、経済産業省の担当課長等からTPPの概略について説明、分厚い説明資料の3部作も提供されました。引き続いて3名の有識者との討論。
 引き続いての第3部では、政治家である内閣府の大串博志大臣政務官も加わり、引き続き有識者及び会場参加者との意見交換。
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 多かった意見の一つは、政府側の情報公開が不十分であるとの指摘。これに対して政府側からは、外交交渉の制約はあるものの、入手した情報はできる限り内閣府国家戦略室のホームページ等で公開しているとの説明。
 また、食料自給率を50%に引き上げる政府の目標とTPP参加との整合性等については、「食と農林漁業の再生のための基本方針」等に基づき施策を集中展開し、高いレベルの経済連携と食料自給率向上を両立させるとの説明。
 さらに、交渉の過程が不透明で不安があるとの意見に対しては、政務官から、現在は情報収集中の段階であり、交渉参加については、今後、国益を優先して判断する等の回答。
 この発言に対しては、一時、会場から、もっと具体的に答えろ等の野次が続いて騒然となりかけましたが、これに対して司会が不規則発言は自粛するよう強く要請する一幕も。
 最後に、会場から5~6名の参加者からの質問と意見表明がなされました。一番最後には自ら「推進派」と称する方が立たれ、製造業の輸出と雇用を守る観点からはTPP参加が必要との意見も出され、3時間に及ぶ意見交換会は終了。
 このような会が実現したこと自体、主催者の皆さんの努力には心から感謝したいと思います。また、半ば「吊るし上げ」を覚悟しつつ来られた各省からの参加者にも敬意を表したいと思います。
 ただ、残念ながら議論は最後まで噛み合わず、政府に対して反対派が一方的に質すようなかたちで終始してしまい、事実に基づく冷静な議論を積み重ねるという面では十分とは言えなかったと思います。
 また(私自身も政府職員の一員として残念ながら)、政府側の説明内容も、一般の方に向けて十分に分かりやすく説得力があったとは言い難いものでした。
 会の目的であった「TPPについての理解を深め、広く市民による議論を促進する」ためには、政府を介在させるだけではなく、反対派、賛成派の双方の市民同士(あるいは有識者、財界?を含めて。)が話し合うスタイルが望ましいのかも知れません。
IMG_3423_convert_20120523222231.jpg TPPはともかく、より高度な経済連携の推進は今後の日本にとって重要な課題です。当然、痛みが伴う部分も出てきます。
 そのような中で、例えば食料供給力(「自給率」という数字だけではなく)を維持・向上させていくためには、農家への直接所得補償など、国民全体でのコスト負担が必要となります。
 鈴木先生も指摘されていた通り、日本とアメリカ、豪州等との土地条件の差はいかんともし難く、自由化すれば日本農業に国際競争力がつくような論調などは、幻想に過ぎません(右の写真は熊本県南阿蘇村)。
 政策実現のためには、何より、国民、市民全体の対話と合意形成が不可欠です。
 その意味で、この日の会合は画期的なものでした。
 一人ひとりが、食と農を含めた将来の社会のあり方を、自らの課題として考え判断していく必要があります。
 その前提として、政府を始め、情報の公開と共有、透明性を確保していく努力が不可欠であることは言うまでもありません。
 今日のような会合が、様々なレベルで継続していくことが重要と思われます。

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“市民と政府の意見交換会~TPPを考えよう~” への1件の返信

  1. まとめtyaiました【市民と政府の意見交換会~TPPを考えよう~】

     5月22日(火)、東京スカイツリー開業の日は、生憎と冷たくて強い雨。 その雨の中、東京都の文京シビックセンターのホールでは、「市民と政府の意見交換会~TPPを考えよう~」が開…

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