2016年1月11日(月・祝)。
正午少々前に(株)寺田本家(千葉・香取郡神崎町(こうざきまち))に到着。
寺田本家は、無農薬米のみを原料として昔ながらの生酛造りでお酒を作っていることで有名な酒蔵。私も大ファンです。
そのお酒は、大吟醸や淡麗といった言葉に代表されるような現在の日本酒の主流とは真逆の深みがあり、最初飲んだ時は、これは日本酒とは別の飲みものではないかと驚いた記憶があります。
奥様が振る舞って下さった熱い甘酒を頂きながら、若き24代当主の寺田優さんから、まずは蔵の前で概要説明を頂きました。
「当家は340年前に近江から移住。先代の故 寺田啓佐が、30年位前から本来の自然な日本酒造りへと舵を切っていった。原材料は米と水だけ、そして酒造りの主役 は微生物。菌が元気に発酵できるような環境作りに努めている。無農薬米を使っているのもその一環」
「納豆菌に神経質な蔵もあるが、自然界の多様性の中で雑菌にまみれつつ発酵させた方が味わい深くなると考えている。だからうちの酒の味は複雑、言い換えれば雑味たっぷり(笑)。 自然の最大限の恵みを頂いてお酒を造らせてもらっている」
そして、いよいよ蔵の中を見学させて頂くことに。酒造りの工程に沿って説明して下さいました。
入り口(密閉されていないため自然の風が通ります。)からすぐの所には大きな木の樽。一度に1トンの米を蒸すことができるそうです。昔は薪を使っていたそうですが現在はボイラーで蒸気を発生させているとのこと。
ちなみに、この工程を担当する人を「釜屋(かまや)」と呼ぶそうです。様々な専門職の共同作業により、日本酒は造られているのです。
その奥が、木枠に敷いた麻布に蒸した米を広げ、人の手でほぐし、冷気に当てて冷ますためのスペース。
ご飯のように炊くのではなく蒸すことで、お米の粒が残り、採んでも崩れにくいそうです。
麻の布は強度があり乾きも早いので重宝するそうですが、なかなか入手は困難で、廃業した蔵から譲ってもらっ たりしたものを大事に使っているとのことです。
また、日本酒づくりは冷涼な季節に行われますが、今年の冬は暖かいため氷や冷蔵室を使 う等の手間がかかっているそうで、異常気象への対応が今後の課題になるかも知れない、とのことでした。
麺室(こうじむろ)にも入らせて頂きました。
扉を開けて入ると、むっとするような暖かさと湿気です。室温は32~3℃ほど。四囲は杉板の壁で、さらにその外側は炭で囲われているそうです。
別に敷地内の何カ所かにも炭を埋めているそうで、これが微生物にとって良好な環境となっているとのこと。
種麹(たねこうじ)は、稲穂についているものから自給しているそうです。
これを蒸し米に振りかける道具も見せて下さいました。
種麹を振りかけて十分に採んだ蒸し米は、山にして保温のための布団が掛けられていました。
続く工程は「仕込み」。 まずは蒸し米、水、麹に酵母を加えて「酒母」を作ります。
寺田本家では自然の乳酸発酵による「生酛造り」を採用していますが、品質が安定しないため一般にはあまり好まれないそうです。
優さんが、桶の中の蒸し米を櫂(かい)でつぶす作業のやり方を見せてくれなが ら、酛摺り歌(もとすりうた)を披露して下さいました。15番まであって全部歌うと20 分ほどかかるそうです。
歌いながら作業するのは、リズムが合って品質が均一になるだけではなく、つらい仕事を楽しくする効用が大きいそうです。作り手の楽しい気持ちが菌に移り、できあがる酒の品質も左右するとのことです。
でき上がった酒母はタンクに移され、何回かに分けて仕込んでいきます。
最初に見せてもらったタンクは、もろみが白濁して泡が出ています。次のタンクのなかは透明。最後に絞って清酒になります。
それぞれの段階のものを、少しずつ試飲させて頂きました。
なお、同じ原料や作り方でも、タンク一つひとつで微妙に味や香りが異なるそうです。
13時半を回った頃に見学は終了。
敷地の一画にある蔵造りの建物に移動すると、テーブルと座布団が並べられており、各自、自由に着席。
テーブルには寺田本家のお酒が並べられており、チゲ仕立ての粕汁(美味!)も配って下さいました。
それぞれ持参した一品もテーブルの上へ。手の込んでいる料理もあり ます。
残っていた人の自己紹介。絵本セラピーをされている方は菅原たくや『いわしくん』を 朗読して下さいました。
そして、乾杯。
音頭を取ったのは、髙坂さんの指名により、バスの中でもいじられっ放しだったIクン(若き男性)です。
見学させて頂いた後で改めて寺田本家のお酒を頂くと、その味が一層深く感じられました。活躍している微生物が目に見えるようです(見えるはずありませんが)。
宴の後半には、髙坂さん自らギターを弾きながら歌を披露。
続いてギター、ウクレレ、クラレネットの演奏、歌、不思議な一人二役(?)のコント、謎の一発芸などで盛り上がり、不思議な雰囲気が次第に醸(かも)されてきました。
蔵にいついた菌と、都会から持ち込まれた雑菌が混じり合った多様性の効果カモ。
ちなみに私が持参したカブは、やっぱり味は今イチで残りそうでしたが、新宿・曙橋でやきとんとワインの店「GARNI」を経営されている(つまりプロの!)男性が、「美味しい」と最後まで食べて下さいました。
感謝(店、行きますね)!。
5時近くに宴はお開きに。
暗くなるなか、すぐ裏にある神崎神社(こうざきじんじゃ)に参拝。
水戸黄門ゆかりの「なんじゃもんじゃの木」(楠の大木、天然記念物)はパワースポットだそうです。
戻って後片付け。各自、好みの日本酒などを購入して帰途に就きました。
バスの中では、騒がしい酔っ払いが若干名いるのも多様性(?)。
途中、誕生日のお二人には詩と絵本(『ぜつぼうの濁点』)の朗読のプレゼント。
バスが池袋に到着したのは19時30分頃。非常に充実したツアーでした。
主催して下さった髙坂勝さん、本当に有難うございました。
ところで、この日は毎月11日(東日本大震災の月命日)恒例の「結イレブン」の開催日。
新宿の小料理・結に立ち寄りました。
オーナーの根本二郎さん(いわき出身)お手製のイカと大根の煮物など、美味しく頂きました。
近く挙式される若いカップル(被災地支援等に熱心に取り組んでいるお二人です。もっとも男性の方はあまり若くありませんが)に寺田本家で求めてきた「五人娘」を進呈。
むろん、子どもをたくさんつくって欲しいという勝手な希望を押しつける意図はありません。