【オーシャン・カレント】「稲は人の足音を聞いて育つ」

【ポイント】
 田んぼに一日に何度も足を運ぶことの大切さを表す、古くから言い伝えられてきた言葉です。

撮影地:新潟・上越市大賀(2016.7/31、2018.8/11)

撮影地:新潟・上越市大賀(2016.7/31、2018.8/11)

元々の出典は不明ですが、田んぼに足しげく通い、稲の生長の様子、田んぼの水深、けい畔の様子等を自らの目で確かめ、必要に応じて水量の調節や草刈りなどの手間をかけることの大切さを表した言葉として、広く知られています。
 尾瀬あきら『夏子の酒』(31話「出穂」、1989年)では、酒米の生産を始めたばかりの夏子にベテランのお百姓が「「稲は人の足音を聞いて育つ」って言ってな、子どもと同じだ。かまってやらなきゃ、すねて立派に育たねえ」と語り掛けるシーンがあります。

 宇根 豊さんの『農本主義のすすめ』(2016年)の中には、次のような友人のお百姓のエピソードが紹介されています。
 夕方、家路につく時に回り道して、もう一度田んぼに寄って帰るという父親に、「朝見て、昼も見てるんだから、夕方見ても変化はないだろう。それよりも早く帰ろう」と不満を漏らしたところ、父親からは「お前は子どもの顔を昼見たから、寝る前は見なくていいと思っているのか」と反論され、「まいった」と感じたというのです。
 また、明治期に来日したイザベラ・バードは「草ぼうぼうのなまけ者の農地は、日本には存在しない」と称えていることも紹介されています。

 一方、大規模農業のモデルとされるアメリカにも似た言葉があるそうです。
 お米ライター・柏木智帆さんのブログ(2023年)では、オレゴン州の有機栽培ぶどう・オーガニックワイン生産者の「Farmers footsteps are the Best fertilizers(農家の足音は最高の肥料)」という言葉が紹介されています。

 一日に何度も田んぼを見回っても、それが収量増や品質向上に直ちに結びつくわけではありません。むしろ労働生産性の向上(労働時間の縮減)の観点からは、省略すべき非効率な労働と言えるかもしれません。
 しかしこのことは、「田んぼの見回り」の価値を評価できていない現在の統計の限界・欠陥とも言えます。GDP統計においても、家庭における育児等の家事労働は評価・計上されていません。

[参考]
 ブログ「足音を聞いて育つ稲−柏木智穂のお米ときどきなんちゃら」
 https://chihogohan.hatenablog.com/entry/2023/01/27/145500

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
 No.292、2024年5月22日(水)[和暦 卯月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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