2013年度 日本フードシステム学会大会

 6月15日(土)から16日(日)にかけて、2013年度の「日本フードシステム学会」大会が開催されました。
 生憎の空模様です。
 梅雨入りは平年より10日も早かったにも関わらず、雨がほとんど降らなかった関東地方では、農作物の生育には恵みの雨になりました。
 大会の会場は筑波大学
 2005年のつくばエクスプレスの開業で都心からのアクセスは格段に良くなっており、秋葉原から45分でつくば駅、そこからバスで10分ほど、9時頃に会場の学生会館に着きました。
 中庭には、「柔道の父」加納治五郎の銅像がありました。
 前身である東京高等師範学校の校長を23年半にわたり務められたとのこと。
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 ところで「フードシステム」という言葉は、聞き慣れない方もおられると思います。
 「川上」の農水産業、「川中」の食品製造業や卸売業、「川下」の小売業や外食産業、そして最終消費である食生活は、それぞれ相互に関係を持ちながら、全体として一つの姿(システム)になっています。
130615_0_convert_20130618063654.png そのシステム(「農」と「食」)を一体として捉え、様々な分野の研究者のみならず、食品産業や生協などの民間、生産者や生産者団体、自治体など行政関係者等が広く集い、食料問題の解明と具体的な政策提言を行おうというのが、日本フードシステム学会です。
 すそ野が広く、多彩な研究者等が集っているのがこの学会の特色です。
 今回は、知り合いの小学校の社会科の先生も、金沢から参加されていました。
 9時30分、広い大学会館のホールで開会。
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 筑波大学の納口るり子先生の進行により、開催機関を代表して中央農業総合研究センター・梅本雅先生からの開会挨拶、学会長の斎藤修先生(千葉大学大学院)からの挨拶に続いて、シンポジウムが開始されました。
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 テーマは『フードシステム研究のニューウェーブ-PartⅡ-』。
 共同座長の一人である茂野隆一先生(筑波大学)から解題。
 昨年度の「PartⅠ」を受け、研究が求められる新たな3つの課題について、それぞれ新進気鋭の研究者が報告し、それらに第一人者である前年度の報告者がコメントするというスタイルとのこと。
 最初の課題は「消費・安全・安心」。
 まず、「『おもいやり』と食料消費」と題して氏家清和先生(筑波大学)からの報告。
 近年の食料消費には、その公共財的側面(利他性、環境、雇用、地元産等)に対する消費者の評価が反映されていることを指摘しつつ、商品購入を介した「寄付」が公共財の供給において重要な役割を担っている可能性について明らかにされました。
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 続いて、「取引における認証制度の有効性」と題して森高正博先生(九州大学)から報告。
 食品の安全性に関する認証制度が、流通過程においてどのように有効に機能するのか等について、モデルを用いた分析と説明がありました。
 これら報告に対し、中嶋康博先生(東京大学)から、人々が食品に対して求める品質は、社会の成熟に伴い、狭義の品質(味、鮮度等)から健康品質(安全性等)、倫理品質(人権、地域等)へと進化していく概念等についてコメントがありました。
130615_01_convert_20130618063718.png 2番目の課題は「国際分業と企業活動」。
 まず、「東アジアにおける食料品貿易の構造-産業内貿易の視点から-」と題して金田憲和先生(東京農業大学)から報告。
 産業内貿易とは、ある国が同一産業の財の輸出と輸入の両方を行うことで、東アジア地域の食料品貿易においても広く観察されるものの、日本は特異的に低いこと等が明らかにされました。
 続いて「経済環境の変化と食品企業の食材調達行動の新たな動向-中国からの冷凍野菜輸入の事例を中心に-」と題して菊地昌弥先生(東京農業大学)からの報告。
 中国を中心に開発輸入が導入されてきた冷凍野菜について、日本向け輸出量のシェアが急落していること、その下で加工工程を外部化するなど安全管理面を含む企業行動に変化が生じていること等が紹介されました。
 第2課題については、下渡敏治先生(日本大学)からコメントが行われました。
 昼休みの後、午後は総会に引き続いてシンポジウム再開。
 最後の課題は「チェーンと地域再生」です。
 まず、先ほどの総会において研究奨励賞を受賞された森嶋輝也先生(中央農業総合研究センター)から、「食料産業クラスターにおけるネットワーク形成」と題しての報告。
 これまでの産業クラスター論等を概観しつつ、北海道の製菓産業を対象とした社会ネットワーク分析について紹介がありました。
 続いて、「農産物の地域ブランドの役割とマネジメント」と題して李哉泫先生(鹿児島大学)からの報告。地域産業の活性化を意識したブランドマネジメントの重要性が強調され、カナダ・オンタリオ州と韓国の事例が紹介されました。
 これら報告に関連し、斎藤 修先生(千葉大学)からは、政策として取り組まれている六次産業化等は十分な整理がなされていない等のコメントがありました。
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130615_7_convert_20130618004855.png 最後に、6人の報告者と2人の座長が壇上に揃い、会場からの質問に対する回答と総合討議。
 共同座長の佐藤和憲先生(岩手大学)から総括的な締めくくりがあり、シンポジウムは終了です。
 18時から大学会館1Fのレストランで立食の懇親会。
 大事な情報交換の場であり、先生方に無沙汰をしている私にとっては、お詫びかたがた挨拶する場でもあります。
 ここで、筑波大学ブランドの日本酒「桐の華」も頂きました。
 筑波大学の校章「五三の桐」にちなみ、桐の花から採り出した酵母で造った純米吟醸酒で、すっきりとした飲み口です。
 ところで昼の休憩時には、大学会館の一角にある「筑波大学ギャラリー」を見学しました。
 大学の沿革に関するパネルや寄贈された美術品等のほか、朝永振一郎、白川英樹、江崎玲於奈の各ノーベル賞受賞者関係、オリンピックなど体育・スポーツ関係、タジキスタンでの平和維持活動中に落命した秋野豊博士関係の資料が展示されています。
 2日目も、朝からしっかりと雨。
 会場を第2エリアに移し、午前中はミニシンポジウムが開催されました。
 座長の斎藤修先生の解題に続き、4名の方から、順次、報告が行われました。
 まず、柏 雅之先生(早稲田大学)から「社会的企業の役割-イギリスと日本との比較検討-」と題して報告。
 EUや英国においては、社会的企業(公共性、事業性ともに高い。)に対する様々な支援策が講じられていること、日本の中山間地等においては日本農村型社会的企業の萌芽がみられること等が紹介されました。
 続いて、安藤光義先生(東京大学)からは「地域再生の射程と主体」と題して報告。
 「地域」の範囲等は、EUの農村開発政策においては所与のものではなく、戦略によって不断につくりかえられるものであることを紹介しつつ、地域再生のためには、内発的発展と外来的発展の双方をバランスよくコントロールすることが重要であること等の報告がありました。
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 さらに、ポークランドグループ(秋田・小坂町)代表の豊下勝彦さんからは、「ポークランドグループのビジネスの革新と地域再生」と題して、自然循環型の自給飼料(飼料米等)、動物福祉まで配慮した取組の内容について報告がありました。
 最後に、株式会社大場組(山形・最上町)専務の大場宏利さんから「大場組の多角化戦略と地域再生」と題して、本業の建設に加えて環境、福祉、教育、農林水産、観光など幅広い多角化経営を展開している現状等について報告がありました。
 それぞれの報告を受け、会場の参加者も含めての総合討論。
 座長の斎藤先生から、英国等を対象とした研究的な知見を日本の現状に活かしていくことの必要性、地域の自治体等とのリンクとプラットフォームづくりへの関与、高齢化や担い手が減少する中で生産力や地域資源の維持管理がどこまでできるか、等の課題が明らかとなりました。
 午後からは個別報告です。
130615_8_convert_20130618005933.png 今年度は、6会場に分かれて合計48本の個別報告がなされました。学会における個別報告とは、完成した論文になる途上の、いわば最先端(現在進行形)の研究成果について発表と意見交換がなされる場です。
 私からは、「飲食料品製造業における運輸コストの推移に関する考察」と題した報告を行いました。
 昨年に引き続き、『産業連関表』を用いて、フードシステムにおける輸送コストの推移と要因を明らかにしようとしたものです。食料の製造や消費においては、他の分野と比べて輸送コストが高くなっています。
 15分の発表時間はあっという間で、早口にもなってうまく説明できませんでしたが、それでも会場の2人の方と座長の小林弘明先生(千葉大学)から、建設的な質問とアドバイスを頂くことができました。
 この後、学会誌に投稿し、査読を経て必要な手直しをして認められれば、初めて報告論文として公表することを許されます。研究活動とは、地道で手間のかかるものです。
 大学を出て駅に向かうバスに乗り込む頃には、雨は上がっていました。
 【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 ◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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