【ほんのさわり】斎藤 美奈子『戦下のレシピ』

斎藤 美奈子『戦下のレシピ-太平洋戦争下の食を知る』(2015/7、岩波現代文庫)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b256540.html

1956年新潟生れの文芸・社会評論家である著者による「戦争中の食の世界へあなたを誘うガイドブック」です。
 著者は、戦下においても発行され続けた婦人雑誌に掲載された食や料理に関する記事をたんねんに調べました。
 その内容は、レシピ、栄養やカロリー等の科学的知識、計量することの大切さなど多岐に富んだものです。また、これら記事の背景には「手作りの料理は愛情の証という家庭料理イデオロギーとも言えるものがあった」とも指摘しています。

太平洋戦争が深刻化するまでは「戦争お楽しみグッズ」的なレシピも掲載されていました。
 例えば、端午の節句料理(飛行機メンチボール、軍艦サラダ、鉄兜マッシュ)のレシピには「大東亜建設の次代を担う坊ちゃん方のために」という説明が付されていました(表紙カバーと口絵に再現した料理の写真が掲載されています)。

しかし次第に戦況は悪化し、戦後にかけて食糧不足は深刻化します。
 そのなかで婦人雑誌は、配給食材の有効活用方法、節米(代用食)レシピ、食べられる野草の図鑑など、いかに量を増やし、かつ美味しく食べるための知恵や工夫が掲載され続けるのです(多くの詳細なレシピ等(当時の記事)が転載されています)。

ところで著者の意図は、単に苦しかった時代を回顧することにはありません。
 著者は、戦下の食糧難は「いまなお世界中で起きている飢餓の一端を、日本の都市住民がたまたま経験した得がたい機会だったともいえる」と位置付けています。

そして「当時の暮らしから耐えること、我慢することの尊さを学ぶ」のではなく、「こんな生活が来る日も来る日も来る日も続くのは絶対に嫌だ! そうならないために政治や国家とどう向き合うかを、私たちは考えるべき」と訴えています。

【掲載】F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
  https://archives.mag2.com/0001579997/