◇フード・マイレージ資料室 通信 No.290◇
2024年4月23日(火)[和暦 弥生十五日]
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◆ F.M.豆知識 消滅集落跡地で放置される森林、農地
◆ O.カレント 寺崎 彰さん(ECO九州ツーリスト)
◆ ほんのさわり 岩井吉彌『山村に住む、ある森林学者が考えたこと』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今年もプレゼントツリーの植樹イベントで熊本・山都町(やまとちょう)を訪ねてきました。その時に目にしたのは「はげ山」が広がっている様子。広大な伐採跡地が再植林されないまま放置されているのです。また、大規模ソーラー発電施設が阿蘇の景観を阻害しているとの報道もあります。今号は森林について考えてみました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
[参考]プレゼントツリー
https://presenttree.jp/
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−消滅集落跡地で放置される森林、農地−
【ポイント】
過疎地域等における消滅集落跡地では、森林や農地の半分以上が「放置」されている現状にあります。
総務省が全国の過疎地域等1,045市町村を対象に実施した調査(2020年3月)によると、2015年以降に全国の96市町村で164集落が消滅しています。リンク先の図290は、この消滅した集落の跡地における主な地域資源の管理状況を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/04/290_kanri.pdf
これによると、集落が消滅した後でも道路は86%、用排水路は70%が管理され続けており、管理主体は主に行政となっています
一方、農地については管理されている割合は49%、森林は46%にとどまっており、過半が「放置」されていることが分かります。これらは多くが民有地であるため、主に民間(元住民、他集落)が管理しており、行政の役割は大きくありません。
国全体として木材自給率や食料自給率の向上が重要な課題となっていますが、そのための貴重な資源(森林、農地等)が中山間地域等においては適切に管理されず、多くが放置されているという現状にあります。この状況は、国土や生物多様性の保全の観点からも懸念せざるを得ません。
[データの出典]
総務省「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査(最終報告)」(2020年3月)から作成。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei10_02000066.html
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−寺崎 彰さん(ECO九州ツーリスト合同会社、熊本・山都町)−
【ポイント】
熊本・山都町生まれの寺崎 彰さんは、故郷の山や森の魅力を発信し伝える活動に取り組んでおられます。
寺崎 彰さんは熊本・山都町生まれ。2008年に山都町役場を退職しECO九州ツーリスト合同会社を設立されました。九州ハイランドガイド協会会長、森林保全巡視員等も務めておられます。
寺崎さんがツアーガイドに転身されたきっかけは、200年前に描かれた一枚の九州の地図でした。阿蘇や九重は詳しく測量・記載されているのに対して、熊本県と宮崎県にまたがる九州の尾根にあたる脊梁山地の部分は「山深クシテ境目知レズ」と記されているのみ。
役場を退職した寺崎さんは九州脊梁山地に通い詰め、2012年には『九州脊梁登山地図』を監修・発行されました。その後、多様な登山ルートやトレイルランニングのコースが設置され、寺崎さんは「脊梁マイスター」の一人として、トレッキングのガイド、走力やスタイルに合わせたコースの提案等を行っています。
標高1700m級の山々が連なる九州脊梁山地には、西日本最大規模のブナの原生林など手つかずの大自然が残っています。
寺崎さんは「森がなかったら水も川も田んぼもできない。ここに住む人々は自然に感謝しつつ生活している。そのことを語り継いでいくことが僕の使命」と語っておられます。
本年4月6〜7日に開催されたプレゼントツリー植樹イベントでは、寺崎さんは全行程をバスに同乗し、楽しくガイドして下さいました。その(自称)「自慢話」からは、故郷への愛情がびしびしと伝わってきました。
[参考]Eco九州ツーリスト(美しい紹介動画も掲載)
https://www.facebook.com/eco9syu
九州脊梁トレイルジャーニー(同上)
https://sekiryo-journey.com/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−岩井吉彌『山村に住む、ある森林学者が考えたこと』(2021/5、大垣書店)−
https://www.books-ogaki.co.jp/post/38904
【ポイント】
日本の林業・森林が急速に荒廃している元凶は林業経営の採算の厳しさにあるとし、今後は「家族林業」による副業を重視し、さらに都市住民の森に対する関心の高まりに注目しています。、
著者は1945年京都生まれ。実家は北山杉で有名な京都市北山で代々林業を営んでおり、自身も林業経営と大学教授という「二足のワラジ」を履いてこられた方。
2009年に京都大学林学科教授を定年退職されてから約10年、日本の林業はますます衰え、森林は急速に荒廃していると警鐘を鳴らしています。
その元凶は林業経営の厳しさにあります。各種データと著者の経験による試算では、平均的な林業の収入(立木販売価額)は1ha当たり90万円であるのに対して費用は280万円と、190万円の赤字(ちなみにオーストリアでは210万円の黒字)。日本では補助金を含めてもようやくトントンで、このため最も伐採量が多い宮崎県でも再植林率は30%程度にとどまっているそうです(これでも高すぎると思う、と著者は記しています)。
現に著者の近隣にも、不在地主の急傾斜の山を木材業者が大型機械で伐採した広大な跡地があるそうで、2018年の台風・豪雨による桂川の氾濫と多くの家屋が浸水被害を受けた一因には上流部の森林の荒廃があると指摘しています。
このようななか、著者は日本で可能性のある林業は、副業などで他の収入源がある「家族林業」であるとします。自身もクリスマスツリーや杉玉アクセサリーの生産・販売に取り組んでいます(写真も掲載されていますが、なかなか素敵です)。
また、京都市内の会社社長が森林を取得し、社員のレクリエーションや遊びの場として活用している近隣の事例を紹介し、都会の人のなかで森林への関心が高まっていることに希望を見出してもいます。
しかし著者が住む北山は、林業が盛んな地とは言え京都市内にあり、大都会からのアクセスも比較的容易な地です。一方、中山間地は全く状況が異なります。例えばプレゼントツリーのように、地元の行政や森林組合だけではなく、都市部の市民、企業などが協力・交流しつつ森づくりに取り組んでいく仕組み(仕掛け)が不可欠と思われます。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ Present Tree in くまもと山都 2024(0・1日目、2日目)[4/14、15]
https://food-mileage.jp/2024/04/14/blog-502/
https://food-mileage.jp/2024/04/15/blog-503/
○ 第3土曜の会(東京・駒込)[4/23]
https://food-mileage.jp/2024/04/23/blog-504/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 今夜はご機嫌@銀座で農業
日時:4月25日(木)18:30〜19:45
場所:中央区環境情報センター(東京・京橋)
主催:今夜はご機嫌@銀座で農業
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/7316685851713021
○ 本木上堰 堰の浚いボランティア
日時:5月3日(金)〜5日(日)現地集合/解散
場所:元木上堰(福島・喜多方市山都)
主催:元木・早稲谷 堰と里山を守る会
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/7296203420461849/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
中東では戦火の拡大が懸念され、アメリカはウクライナへの武器支援を再開することに。今すぐ停戦を。過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.291は、GW明けの5月8日(水)[和暦 卯月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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