「日本が農業大国」なんて、とんでもない

最近、日本の食料や農業について様々な指摘がなされています。例えば「日本は世界第5位の農業大国」、「食料自給率は大嘘だらけで日本は最大の農産物輸入国ではない」、等々。多様な視点からの議論は重要ですが、これらをそのまま鵜呑みにすると誤解が生じることになります。

まず、単純に農林水産業生産額を比較すれば、日本は中国、インド、米国、ブラジルに次いで世界第5位になります。しかし、そもそもGDPでみて日本は米国に次ぐ世界第2位の経済大国です(中国に抜かれますが)。先進国の場合、GDPに占める農林水産業のシェアはおおむね1%前後ということからみても、5位というだけで農業大国というのは誤りです。ちなみに日本の農業生産額の30%強は畜産ですが、飼料の75%は輸入に依存しています。

別の見方をすれば、アメリカではGDPに占める農林漁業のシェアは0.9%ですが、それでも農業大国であることは間違いありません。多面的機能論を持ち出すまでもなく、表面的なGDPの大きさだけで、その産業の重要性を計ることの非合理性は、このことからも明らかです。

農産物輸入額については、日本は米国、ドイツ、英国、中国等よりも少ないのは事実です。しかし、他の国は輸入をしながら輸出もしている(例えば米国は747億ドルの農産物を輸入し927億ドルを輸出)のに対し、日本はほとんど輸出していません(輸入460億ドルに対し輸出23億ドル)。したがって、輸入額から輸出額を差し引いた純輸入額でみると、日本は断トツの一位となります。日本の農産物の貿易構造は、世界の中でも極めて特異な姿です。

その結果、食料自給率も低くなっています。日本の総合食料自給率はカロリーベースで40%、生産額ベースで70%でありも、農水省も両指標を併用しているのですが、低い方の数値だけが一人歩きしていると問題視する論調があります。生産額ベースについては、カロリーが少ない野菜等の生産を的確に把握できるというメリットがある一方、国民に対して安定的に食料(栄養)を供給するという安全保障の観点からは、輸入飼料等を勘案したカロリーベース自給率という指標も重要です。ちなみに国際的に一般に用いられている穀物自給率でみると、日本は28%とカロリーベースよりも小さくなります。これは飼料穀物を含んでいるためですが、主食用穀物に限っても61%と、世界の人口1億人以上の国(途上国を含む。)のほとんどが80%以上を確保していることと比べても低いと言わざるを得ません。

このようにみていくと、やはり日本の食は様々な意味で危機に直面していると言えます。今後、世界の食料需給はひっ迫基調で推移することが懸念されているなか、国内農業は、就業者の高齢化や耕作放棄地の増加など、急速に脆弱化が進んでいるのです。

単純に農業生産額や輸入額の表面の数字だけをことさらに取り上げて議論することは、大事な本質を見落とす恐れがあるのではと危惧しています。