音楽がつないでいく絆 -第8回数寄屋橋音楽祭-

 梅雨が明けて猛暑到来かと思うと、一転して肌寒い日が続きました。
 日本でも北九州等が大雨被害に見舞われましたが、北京でも大水害のニュース。
 ところが、アメリカでは国土の6割が干ばつ(この半世紀で最悪)で穀物被害が深刻となっており、農務長官は非常事態を宣言したとのこと。
 ロシア・ウクライナやインドも高温・小雨で、大豆やとうもろこしの国際価格は市場最高値を更新して推移、自給率39%の日本の食卓への影響も避けられないでしょう。もっとも価格高騰の背景には、お馴染み、目ざとい投機マネーの流入もあるとのこと。
 この天候異変と穀物価格高騰の問題を、日本経済新聞は7月21日、22日の2日続けて大きな紙面を割いて取り上げています。
 さて、肌寒い小雨模様の7月22日(金)、東京・銀座にある「東日本復興応援プラザ」では第8回目の数寄屋橋音楽祭が開催されました。
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 音楽を通じて被災地に復興のエールを送るとともに、被災地からの情報発信や、支援活動を行ってきた団体の紹介を行うことを目的に、毎月1回のペースで開催されている演奏会です。
 前回の演奏会も心打たれましたが、「命をつなぐ高田の松の音色」をテーマとする今回の演奏会も、素晴らしいものでした。
 16時の開演時間ぎりぎりに到着すると、すでに会場は満席で多くの方が立ち見。何度か参加してきましたが、これだけ多くの聴衆は初めてです。この演奏会が人々に愛され、浸透してきた証拠でしょう。
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 この日は、ヴァイオリンのデュオとピアノによるリサイタル。
 ヴァイオリン奏者はイスラエルから来日したジョナサンとエデンのヴェレッド兄妹。日本で幼少時代を過ごした2人は、イスラエルの音楽学校でヴァイオリンを続け、それぞれヨーロッパのコンクールで優秀な成績を修められたとのこと。お父様、お祖父様の仕事の関係もあって日本とは深い縁があり、被災地に寄せる思いも強く、イスラエル国内でもチャリティーコンサートを開催されたそうです。
 ピアノは、この音楽会の実行委員でもある中村圭子さん(毎回、素敵なチラシを作って下さっています)。
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 この日のプログラムは、アクロン等の珍しい曲に、情熱的なサラサーテのカルメン幻想曲、モーツァルトのヴァイオリンソナタ等。いずれも若々しく素晴らしい演奏です。
 演奏の合間には、イスラエル大使館の方からイスラエル医療団の活動について紹介がありました。病院等も壊滅的な被害を受けた大津波直後の南三陸町で、救命活動を行われたとのこと。
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 後半は「千の音色でつなぐ絆~高田の松・ヴァイオリンプロジェクト」の紹介です。
 岩手県の陸前高田市にあった高田松原は、江戸時代から永年にわたり植えられてきた合計7万本もの松林。その名勝の松は、3.11の大津波で「奇跡の一本松」を除いて、全てなぎ倒されました。
sukiya5_convert_20120723221421.png 倒され流された高田の松は、他の木材とともに瓦礫として処分される運命でした。しかしこれら木材は、名勝や防風林、あるいは家屋の一部として、被災地で暮らしていた人々の過去が刻まれているのです。そこに着目された東京都在住の名匠が自ら足を運び、被災地に積まれた夥しい木材の中から楽器にふさわしい木材を選び出し、2丁のヴァイオリンを製作されたのです。
(ちなみに、この日はストラップも販売されていて、求めさせて頂きました。)
 そして今後10年をかけて、世界中の千人の演奏家がリレーして千の音色を奏で、その音色とともに大震災の教訓と命の大切さを繋いでいこうというのが、このプロジェクトの目的だそうです。
 既に、パリの市庁舎や被災地の中学校で演奏された高田の松のヴァイオリンが、この日、数寄屋橋にやってきて、イスラエルの若き兄姉ヴァイオリニストにより演奏されました。
 演目はドボルザーク「我が母の教えたまいし歌」、「赤とんぼ」など。
 その音色の違いは素人の耳では分かりませんが、奥深く、心に染み通ってくるものでした。
 素晴らしい芸術は人の心を打ちます。芸術でも、例えば絵画や文学の場合は、作者と鑑賞者だけでほぼ完結し得るかも知れません。
 しかし、音楽は作者(作曲家)だけで成り立つ芸術ではありません。それを鑑賞者に届けるためには演奏する者が不可欠です。さらには楽器を作る人、演奏会を企画・運営する人も必要です。それぞれの人たちの思いが凝縮して、しかもその場、その瞬間だけに、鑑賞者に届くというのが、音楽という芸術の特徴です。
 その意味では、被災地のこと、被災者の思いを繋げていくという面で、芸術の中でも取り分け音楽は、大きな可能性を有しているのかも知れません。
 そしてこの日、多くの聴衆が、高田の松のヴァイオリンを聴くために数寄屋橋に集まりました。
 高田の人たちの生活を見てきた木材が、ヴァイオリンドクターと尊称される名匠の手によって楽器に生まれ変わり、幼少期を日本で過ごした2人の若いイスラエルの芸術家によって、そして被災地に強い思いを寄せる方達が企画・運営する場において、演奏されたのです。
 その瞬間、多くの人たちの心は、被災地に寄り添うという点で、間違いなく一つになっていました。
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 さて、昨年12月から月1回のペースで開催されてきた数寄屋橋音楽祭も、次回が最終回とのことです。寂しく、残念な思いを禁じ得ません。
 しかし、ボランティアで出演される演奏家、献身的に時間とコストを負担している事務局の皆さん、一等地のスペースを提供してくれてきた不動産会社の方達のことを思うと、長々と続けられるものではないのでしょう。
 最後の数寄屋橋音楽祭は、8月26日(日)15時からとのこと。今まで以上の盛況となることと思います。

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One Reply to “音楽がつないでいく絆 -第8回数寄屋橋音楽祭-”

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    いつも音楽会の感想を丁寧に綴ってくださってありがとうございます。8月であの場所で行うのは最後。次回も皆様と何かを共感できる会にしたいと思います。またお待ちしてますね!

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