未来のために種をまく

 10月27日の土曜日は、どんよりとした曇り空。天気は下り坂のようです。
 午前中は、東京・板橋にある東京家政大学を訪ねました。
 翌28日(日)までの2日間、学園祭第52回「緑苑祭」が開催されており、多くの人たちで賑わっています。
 私の目当ては「板橋カフェ」です。
 東京家政大学には「江戸東京野菜の会」というのがあって、約30名の学生さん達が大学の構内で栽培した滝野川ごぼう等を使った料理をカフェで提供されていると聞いたのです。
 なお、売上利益は全て「ピンクリボンブレストケア募金」に協力するとのこと。
 2日限りの「板橋カフェ」には、女子大らしく(?)パステル調の可愛い字体で「江戸東京野菜の会」と記された大きな布看板が掲げられています。
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 なかなかの人気で、昼前でしたが食券を求める行列。
 野菜スープや米粉のパンケーキなどもありますが、ここはやはり根菜のキッシュ(200円)。ハーブティー(100円)とともに求め、何とか一人分空いていた窓際の席に案内されました。
 熱々のキッシュを頬張っていると、窓の外からSさんが見つけてくれました。
 「江戸東京野菜の会」のメンバーの一人で、小金井の農家見学会で知り合い、このカフェを紹介してくれた方です。管理栄養士を目指して勉強中、「江戸東京野菜コンシェルジュ育成講座」も受講されている熱心な方です。
 帰途、会の畑にも案内して頂きました。
 渡辺早生ごぼう、のらぼう菜の芽が出ており、もうすぐ芝生の一画に設けた「畑」に定植するそうです。脇にはそこそこ大きな石がたくさん積まれており、芝生を耕そうとした時に出てきて大変だったそうです。
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 将来は管理栄養士等「食のプロ」となる若い学生さん達の間でも、伝統野菜に対する関心が高まっています。
 さらには自分たちで大学構内に種をまいて、できたものを調理までされている様子を伺うことができ、心励まされ、暖かい気持ちになりました。
 十条駅に戻り、四谷に向かいました。
 四谷三丁目駅近くのレンタルスペース「One Kitchen(ヒナタノ食堂)」では、たねのことを知る一日として「たねびと映画祭」が開催されているのです。
 午前と夕方には「モンサントの不自然な食べもの」の上映、午後は野口種苗研究所の野口勲さんの講演というプログラム。
 映画は別の機会に鑑賞していたので、今回は野口さんの講演にのみ参加を申し込んでいたのでした。
 野口さんの話は、先日、小金井でも伺ったのですが、この時は時間も足らず、私自身、やや消化不良気味であったため、改めてお聞きすることにしたのです。
 ところが、四谷三丁目で降りて近くまで来たのですが、会場が見つかりません。
 開いていた喫茶店の女性の方に伺うと、飲食店が並ぶ行き止まりの路地の半ばにあるビルの前まで案内して下さいました。四谷の方は親切です。
121027-2-1_convert_20121029232846.png 5分ほど遅刻。講演は既に始まっていました。
 そう広くはない会場に約40名の参加者が、床にクッションを敷いて座り、壁際の棚にも鈴なりで立錐の余地も無い感じでしたが、スタッフの方が一名分のスペースを創ってくれました。
 前回同様、投射するパソコンの画面にペンで書き入れながらの野口さんのお話は、初めて聞く話も。たくさんの話題をポケットにお持ちのようです。
 手塚治虫の編集者をしていた頃のエピソードから話から始まりました。
 もし人間の女性がタラコ1腹分の卵(卵子)を生もうとしたら何年かかるかという荒唐無稽な話題が出たそうです。
 後に野口さんが調べてみると、タラコ一腹には約30万個の卵があり、人間の女性は25年で約400個の卵子を作るそうなので、約1万8千年が必要になるとのこと。日本列島に人類が現れた頃だそうです。
 DNAや遺伝子は植物の種子とも共通するもので、スケールの大きな話です。
 現在の種の主流はF1(エフワン・一代雑種)です。
 これは、第二次世界大戦終結後、化学肥料、農薬、塩化ビニールの生産拡大と足並みを揃えて普及したものだそうです。
 例えば大根でも、現在流通しているものの多くがF1の青首大根で、生育や大きさも揃い栽培や流通面で扱いやすいとのこと。また、調理してもすぐに煮えるが、これは言わば「水太り」しているためで、味だけは食べて見なければ分からない。「百聞は一口に如かず」ということだそうです。
 また、種の多様性が失われつつあり、環境適応力もぜい弱化しているという問題も。
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 さらに深刻な問題は、現在のF1の多くが雄性不稔(男性不妊)という異常な個体を利用して生産されていることだそうです。
 現在、世界各地で問題となっている蜂群崩壊(ミツバチの群れが突然いなくなる現象)や人間の男性の精子が少なくなっていることの要因に、この雄性不妊を活用したF1種の普及があるのではないか。
 学問的に証明されたものではなく、あくまで個人的な仮説であると慎重な言い回しながら、警鐘を鳴らされていました。
 怖ろしい話が続きましたが、最後は、埼玉県富士見市で自然農を営んでおられる方の話。
 固定種を自家採種し、無肥料で栽培されているのをみて驚かれたそうです。触発された野口さんは、自らも自然農での採種を始められています。
 年齢は70歳近く、家業の種屋さんを継がれてから約40年のキャリアがある野口さんですが、素晴らしいことには素直に驚き、自らも実践に移されているという柔軟さを、垣間見させて頂きました。
 そして、「健康で美味しい野菜を食べて、未来のために種まきを」という言葉で講演を締めくくられました。
 
 若い方が中心のこの日の参加者からは、遺伝子組換え技術等を含めて熱心な質問が相次ぎ、丁寧に答えて下さって講演会は終了。
 終了後、高円寺に向かいました。
 落語会が開催されていたのですが、今回は懇親会だけ参加させて頂くことにしたのです。
 ところがここで、思いもかけぬサプライズに遭遇することになりました。「目からウロコ」という表現が正しいかどうか。
 これは稿を改めて紹介します。
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