有機農業の未来

 日比谷公園も、秋から冬の様相に移りつつあります。
 銀杏は大量の葉を落とし、地面を黄金色の絨毯に変えつつあります。先週末まで、夜間はライトアップもされており、幻想的な光景が拡がっていました。
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 さて、2012年12月8日(土)は冬晴れの快晴です。
 2年間、金沢に住みましたか、日本海側はどんよりとした日が続く秋から冬の季節、東京に来るたびに、関東地方の陽光の豊かさを、しみじみと実感したものです。特に洗週は、北陸から北日本にかけて大荒れの天候だったようで、金沢では小学生が集団登下校する様子まで報道されていました。今年の冬は厳しいようです。
 この日から翌9日(日)にかけ、東京農工大学農学部府中キャンパスにおいては、第13回 日本有機農業学会(東京)の大会が開催されました。
 JR武蔵野線の北府中駅から歩いて10数分、欅(けやき)並木に囲まれた正門を入って進むと、正面に、この日の会場である重厚なゴシック建築の本館・講堂が見えてきます。東京大学の安田講堂も設計した内田祥三氏によるものだそうで、国の登録有形文化財にもなっているとのこと。
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 澤登早苗会長(恵泉女学園大)の開会挨拶、開催校である東京農工大学農学府長からの挨拶に続き、全体セッション(1)「有機農業推進法成立からの6年を振り返る」で大会はスタートしました。
 コーディネーターは谷口吉光先生(秋田県立大学)と大江正章氏(コモンズ)。
 第1報告は、本城昇先生(埼玉大学)から「有機農業推進法制定から6年間の政策過程の検証」と題する報告。
 推進法は、学会試案の内容(有機農業の本質と理念の重視、市場経済の問題点-生産と消費の分断、自然との分断-を見据えること、上意下達の政策の回避等)を踏まえたもので、モデルタウン事業の実施などの成果を上げたこと。しかし、その後の「事業仕分け」等により政策が大きく変質(収益性を重視等)したこと。今後は、消費者の理解と協力の促進が重要であること等を強調されました。
 第2報告は、長谷川浩氏(福島有機農業ネットワーク)から「東北地方における有機農業の展開」について。
 東北地方における有機農業の歴史的な展開を踏まえ、近年、ネットワークが構築されつつあったこと。そのような中で原発事故が起こり、提携先の消費者の多くが離れていくなど閉塞感に満ちていること。そのような中、福島県有機農業ネットワークが生産者の連携や首都圏での販売活動等に活動している様子を報告され、今後は持続可能な吉里吉里国を目指すべしとの報告がありました。
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 第3報告は、「九州地方における有機農業の展開」と題して岩元泉先生(鹿児島大学)からの報告。
 九州は、全国の有機JASに認定された生産者の4分の1弱がいるなど、有機農業の盛んな地域の一つであるものの、最近は「一進一退を繰り返している」状況であり、認証機関のNPOに対する支援が必要であること等の報告がありました。
 最後の報告は、栗原眞氏(農研機構・生研センター)から「有機農業推進行政の現場から:6年間を振り返って」。
 推進法成立時は農水省の担当室長であったそうで、法制化に当たって有機JAS制度との整理が課題であったこと、無理を言って有機農業関係者の大同団結を図ったこと等を紹介されるとともに、施策が充実した一方で国から助成するようになったことが有機農業運動を変質させたのではないか等と指摘されました。
 続くディスカッションは、「有機農業推進法成立からの6年をどう総括するか」。
 まず、中島紀一先生(総合農学研究所)から「有機農業第Ⅱ世紀への転換以降期における政治学的論点」と題してコメントがありました。
 推進法の制定は、議員立法でしかも全会一致だったこともあって、それまでの政策体系と全く異なるものができたという革命的な事件であったこと、ところが「仕分け」等により政策方向が収益性向上等に変質し、有機農業運動もそれを後押しするようなものに変質してしまったこと等の論点の指摘がありました。
 また、「山村だからこそ、有機農業」という島根県浜田市弥栄自治区の取組を紹介されました。
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 その後、報告者とコメンテーターが壇上に並んでの総合討議はあまり時間がありませんでしたが、有機農業運動の原点(自給、自然との共生等)に戻ることの重要性、有機JAS制度の枠の外に簡易認証の仕組みを創設することの必要性等について、議論がなされました。
 午前中のセッションは、予定を20分ほど超過して昼休みに。
 午後からは2つの全体セッション「有機農業現場における新技術利用の可能性」「耕す市民を育てる現場から」、さらに翌日に個別報告とポスター報告と興味深いプログラムが予定されていたのですが(特に、全体セッション(3)には「たまTSUKI」の髙坂勝氏も登壇予定)、この日の午前中のセッションだけで失礼しました。
 午後は小金井でどうしても顔を出したいイベントがあったのです。
 熱かった議論を頭の中で反芻しながら、駅に向かいました。
 大きなドラマ(中島先生)であった有機農業推進法制定から6年の間、政策も有機農業運動も変質し、また、推進法成立に合わせて大同団結しようとしたはずの有機農業運動も、必ずしもまとまっているとは言い難い状況にあります。
 実際、有機農家の数も増えている訳ではありません。その一方で、若い新規就農者の多くが有機農業や自然農を志向しているという現実もあります。小川町でも元気な方にお会いしました
 しかし、原発事故を経験し、循環型社会構築の必要性が強く認識されるようになっている現在、自然との循環、生産者と消費者の結びつきを重視する有機農業は、ますます重要な意味を持っているものと思われます。
 有機農業が拡がっていくためには、農業界や関連事業者はもとより、消費者の理解と連携も不可欠です。いかに生産の現場と消費者をつなげていくかが、大きな課題の一つでは、と感じた次第です。
 このように、頭の中はある程度整理できたのですが、なかなか北府中の駅が見えてきません。
 近道のつもりで脇道に入ったのが失敗で、かなり遠回りしてしまいまた。午後は遅刻のようです。
【ご参考】
 ◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
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