2014年9月7日 (日)。
前夜からの強い雨は、昼近くになってようやく上がりました。 前日までとは打って変わって肌寒い一日です。
東急東横線・自由が丘駅で下りると、祭り囃子がホームまで聞こえてきます。 南口改札を出ると、すぐ前の商店街を神輿や山車が練り歩いています。多くの人たちで賑わっています。
後刻ネッ トで調べると、800 年以上の歴史がある熊野神社の例大祭だったようです。
いつもの緑道をシェア奥沢へ。普段はお洒落な通りも、この日は焼きそばの屋台が出ていたり、法被姿の人達がいたりとお祭りモー ドです。
16時前に到着。
オーナー・堀内正弘先生の愛車のフロントガラスに、ドキュメンタリ映画 『ある精肉店のはなし』のポスターが貼られています。
私は6月に明治大学での上映会で観て、大変面白かったと色んな人に吹聴していたところ、堀内先生が、それならシェア奥沢でも自主上映会をと企画して下さり、この日、実現したのです。
板敷きの広間にはパイプ椅子が並べられ、すでに40名ほどの参加者で満員状態。
ご多忙な纐纈(はなぶさ)あや監督がも来て下さいました。「映画は時間を共有できる。 楽しい場になればいい」との挨拶を頂いた後に、いよいよ上映開始。
大阪・貝塚市で、自分達で育てた牛を「と場」に曳いていって「と畜」・解体し、パック して小売りまでしているという北出精肉店の4人家族の日常が描かれています。
私は2回目です。
前回は、と畜のシーンに目を奪われがちだったのですが、今回は、丁寧なインタビュー等で描かれる家族1人ひとりの思い等を、より深く理解できたような気がしました。
ちなみにこの映画の主人公は、何度も描かれる土間続きの居間(台所つき)かも知れません。さほど広くないスペースに、時には多くの親戚や子ども達がここに集まり食事をします。犬もいます。
映画の最後は、隅の柱に今も書き加えられているたく さんの 「背比べ」 の印。印象的なシーンです。
上映終了後、再び纐纈監督が登場 して ト一ク と質疑応答になりました(文責中田)。
「と場には、無機質で機械的で冷たいイメージを持っていた。しかし見学会で実際に足を踏み入れてみると、まず、その熱気に驚いた。洗浄等のために大量のお湯が使われ、作業する人も汗まみれ。実際に目近で見る牛の大きさに圧倒された。と畜は、まさに命と命が向き合う真剣勝負」
「その大きな牛が、家族4人の共同作業でみるみるうちに解体されていく。その技術に驚きつつ、有り難うございますという気持ちがガツンとわいてきた。 ああ、これを食べていたんだ、命を頂いていたのだと。
これは絶対に映画にして多くの人に見てもらわなければと、義務感のようなものに突き動かされ、帰りの新幹線の中で企画害を書き上げた。タイトルもこの時に決まった」
「地域名もきちんと出したいと思った。旧同和地区のと場にカメラが入ることにも大きなハードルがあった。しかし、今、撮らなければ多くの人は永遠にみられなくなる(このと場は半年後の廃止が決まっていた)。
必ずいい映画ができるという確信があり、北出さんのご家族始め地域の人達と話し合いを重ねた。前作(『祝の島』)の上映会も行い、最後は『しょうがないな、やってみて考えよう、何か起こった時は一緒に解決していこう』と言われた ときは本当に嬉 しかった」
「撮影中の1年半は、歩いて5分のところに家を借り、撮影のある日も無い日も毎日、北出精肉店に通った。北出さん達のことをもっと知りたい、私のことももっと理解してもらいたいという思いだった。そういう時間の積み重ねの中で共感が深まった。すごく楽しい時間を過ごすことができた」
「現在、と畜場は廃止されて跡形も無く、北出さんは牛飼いはやめ、精肉店も建て替えられている。家族の歴史の区切りの場に立ち会うことができたことは、感慨深い」
「この映画を撮り終えて、全国各地のと場で働く人達と話す機会が増えた。
自分がと場で働いていることを明かすと『大変な仕事ですね、残酷で可哀想」といった反応が返ってくることが多く悲しい、等と語る人も多い。
しかし残酷というなら、食べることこそが最も残酷なことではないか。死というものがあって初めて、その先に私たちの食べ物がある。頭では分かっていても、スーパーで肉のパックを買う時に、と場で働いている人達の顔を思い浮かべる人は少ない。もう一度、食べる人と作る人のつながりを取り戻していかなければならない」
質問は尽きず、いったん中断。後は懇親会の場で、ということになりました。
みんなで椅子を片付けてテ一ブルをしつらえ、料理を並べます。この間、監督は隣の部屋でサイン会。ここでも多くの人たちから質問攻めにあっていました。
この日の料理を準備して下さったのは、フードコーディネーターのKさん。
モロッコ料理のレモンと鶏肉の煮込み、オムレツ、各種のサラダなど。
世田谷・千歳烏山の生産者「せいさん」が、今回も、金時草(水前寺菜)などたくさんの野菜を持ってきて下さいました。お約束の星型のキュウリも。
参加者全員で乾杯の後は、食事の時間。
このシェア奥沢に来られる方は、食や農、地域づくりに関心がある人ばかり。今日の映画から受け取った感想も、それぞれ違うようです。
例えばTさん(女性)は、
「いのちをいただくことのありがたさ、みたいな話だけじゃなかった。生活する。生きる。活きるってこういうことなんだと思った。いのちって、美しい。いきるって、美しい。北出家のみなさんは幸せだな」とブログに書かれています。
堀内先生は、「ものつくりを通したコミュニティ、このようなものがどんどん失われているのが現状ですね」という感想を述べられていました。
纐纈監督は、参加者から次々と話しかけられる輪の中です。素晴らしい映画をみんなで鑑賞し、しかも作られた方と直接話ができる機会など、そうあるものではありません。監督、ちゃんと食事できたでしょうか。
この日のテーマは(映画の中でも、このシェア奥沢も)、時間を共有する「場」であり、人と人との、あるいは地域での「つながり」だったように感じました。
素晴らしい上映会でした。纐纈あや監督、堀内先生、参加された皆さんに感謝したいと思います。
追伸(9/23)
この自主上映会の数日後、嬉しいニュースが飛び込んできました。平成26年度文化庁映画賞・文化記録映画大賞を受賞されたそうです。
贈賞理由として「牛のいのちと向き合ってきた家業の深奥で光る明るさが、映画全編のトーンを作っている」等と紹介されています。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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“『ある精肉店のはなし』上映会@シェア奥沢” への2件の返信
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「ある精肉店のはなし」、私も観たかったんです!
○○シネモンドに監督も初日にはいらしてくださっていました。上映日程が少ししかなく、都合がつかなくて観にいけませんでした・・・残念!
ぜひ、いつか観てみたいです。
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きくちさん、コメント有難うございます。また機会があれば、ぜひ、ご覧下さい。お奨めです。