2016年1月30日(土)。
積雪との予報に冷や冷やしながら起き出すと、前日来の雨は弱まり、雪も積もっていません。それでも早めに自宅を出発。
東北新幹線は宇都宮を過ぎた頃から吹雪状態で窓は真っ白。やがて福島・郡山駅へ。
この日は、CSまちデザインが主催する「日本の田んぼを守る酒蔵・仁井田本家を訪ねる旅」の日。
9時30分に中央改札前に集合。参加者は10名ほど。
今回はコーディネート役として、片山雄介さん((株)片山、(有)オフィス和蔵)が同行して下さっています。
音楽都市・郡山市のイメージキャラクター、がくとくんも出迎えてくれました。
駅前もすごい積雪で混雑しています。
予約のタクシーに相乗りして国道49号を南東方向へ20分ほど。あちらこちらの民家や事業所では総出で除雪。雪国は大変です。
阿武隈川を渡ってしばらく、農村の光景が広がってきた頃に仁井田本家に到着しました。ここも雪の中です。
敷地内は、建物の外からであれば自由に見学できるようになっているようです。
売店には、たくさんの銘柄(私は自然酒・金寶しか呑んだことはありません)。
売店の2階が広間になっています。大きなテーブルは、(後に見学させて頂く)フネという装置の側板だったとのこと。
CSまちデザインの近藤惠津子理事長から、ツアーの趣旨等の説明。
2011年3月5日、震災の直前にツアーで来られて以来だそうです。
「電話して地震による直接の被害はなかったと聞いて安心したものの、その後が大変だったと思う。そのような話も伺いながら、消費者として何ができるか考えたい。しっかりと買い物も」
参加者から自己紹介。
5年前のツアーに参加された方も。福島県有機農業ネットワークの菅野正寿さんも、雪の中を車で二本松から駆けつけられました。
十八代蔵元の仁井田穏彦(やすひこ)さんは杜氏を兼ねておられるそうです。
歓迎のご挨拶を頂いたのち大吟醸の仕込みに向かわれました。最も忙しい時期にお邪魔したようです。
統括部長の馬場幹雄さんが、「金寶」蔵元の概要について説明して下さいました。
自然米100%、純米100%、自然派酵母100%の日本酒を醸造・販売されているとのこと。私も代表銘柄の「金寶自然酒(きんぽうしぜんしゅ)」は、東京・下北沢のオルガン堂や新宿の結で何度も頂いたことがあります。
販売数量は約1300石(230キロリットル、2015年6月期)だそうです。
江戸中期に創業、300年を超える歴史がある仁井田本家の使命は「日本の田んぼを守る酒蔵になる」。
2025年までに地元の田60haを全て自然田にし、自給自足の町&蔵になることが夢だそうです。
酒だけではなく発酵食品作りにも積極的に取り組んでいるそうで、麹を使った生キャラメルを出して下さいました。砂糖を使っていないそうで、優しい甘さです。
「2011年の震災後は、蔵に来てもらうことを目標に掲げた。実際に見てもらうことで、造り手とお客様、双方の顔の見える酒蔵を目指している」とのことです。
そしていよいよ、蔵の見学に案内して下さいました。
仕込み水が流れ出ている入り口で、白衣をはおって帽子を被り、洗浄液で手を洗います。
建物に入ってすぐが釜場といわれるスペース。
ここで米を受け入れて大きな釜で蒸し、さらに放冷機に入れて冷やします。
隣の部屋の扉を開けると、もと(酒母)を作る部屋です。醸造用乳酸を使用しない自然派酒母(白麹など)を使っておられるとのこと。
樽の中を覗くと、ぷつぷつと発酵して泡が出ています。
木の壁には柿渋が塗られているそうで、発酵しやすい環境が保たれているとのこと。
その奥、分厚い木の扉の奥が麹室です。
さらに中扉を開け、中を覗かせて頂きました。平らな台の上に米が薄く敷かれているのが見えました。
続いて仕込み蔵へ。
たくさんのタンクが並べられています。タンク1基で2400klのお酒を造ることができるそうです。
ここで「もと」を仕込み、麹米、掛米、水を加え4段階にわたって仕込むそうです。
蔵の2階は広いスペースとなっており、神棚が祀られています。全員、拝礼。
たくさんの布が干されている奥には、1台のグランドピアノが置かれていました。定期的にコンサートを開いているそうです(奥さまが弾かれるそうです)。
最後に近い工程が槽掛(ふなかけ)。
できあがったもろみをフネ(槽)という装置で絞り、酒と酒粕に分ける工程です。
搾りたての生酒(ふなくち)を試飲させて頂きました。濃厚で芳醇な味と香りです。
フネは現在は金属製ですが、以前に側板に使われていた板が先ほどのテーブルです。
建物の中央には区画が仕切られた一画。「杜氏室」とあります。
売店に戻ったところで、(お楽しみの)試飲会。
様々な種類を呑み比べさせて頂きました。多くの銘柄があります。燗をつけて頂いたものもあります。
米(まい)グルト、塩麹、麹飴などの発酵食品もあります。
いい気持になって2階に上がると、食事を準備して下さっていました。
酒粕や麹に漬けた漬物は、深い味わいです。さらに福島のソウルフード・いかニンジン、春菊と厚揚げの炊き合わせなど。
幻の酒米とも呼ばれる亀の尾を、土鍋で炊いて試食させて下さいました。
食事をしながら、仕込みから戻られた18代目と、料理を準備して下さった奥さまからお話を伺いました。
コーディネータの片山さんが、色々と興味深い話を引き出して下さいます。
老舗酒蔵に嫁いだ奥さまには、色々とご苦労もあるのではとの問いかけねると、
「蔵でのコンサートなど、新しいこと、好きなことをやらせてくれて有難い。将来はカフェもできたらいいと思っている」とのお話。
18代目・仁井田穏彦さんからは、
「1994年に18代目を継ぎ、2010年に杜氏になった。事業を拡大した父に負けたくないというプレッシャーがあった。新銘柄の『穏』(おだやか)が軌道に乗り始め、創業300年を迎える2011年に東日本大震災に遭遇。地震の被害はなかったものの、原発事故が起こり1週間ほどは放心状態に。懐妊中の妻は東京に一時避難させた。
この地域は放射能汚染からも免れたが、風評で現在も震災前の水準には戻っていない」
「そのうち、300年目に震災に遭ったことには何か意味があるのではと思うようになった。
300年の間には何度も大きな事件があったはず。それでも蔵が続いてきたのは、先人達が酒造りの思いを繋いできてくれたおかげ。遠い将来、18代目が何とか震災を乗り切ってくれたから蔵が続いていると、誰かが思いを馳せてくれればいい」
「祖父は水源を確保し、父は地元産米による自然酒の製造を始めた。代替わりするたびにプラスアルファがある。自分も父に勝とうとするのではなく、何かをプラスできればいいと思い、気が楽になった」
「夢は、地元の全ての水田を自然栽培にすること。そうすれば、現在の生産量は全て地元産米で賄える。
水源となっている山林を守り、一方で排水処理やリターナル瓶の使用(現在、使用率95%)も進めるなど、将来の世代に自慢のできる環境、「自然の里」を残したい」等と語られました。
参加者との間で色々と意見交換。
仁井田本家のファンという男性からは、値段が安すぎるのではと心配する意見も。
18代目は「そういう有難い声もあるが、高いという意見もある。いい原料米を使うことで、60~70%の精米歩合で50%まで磨いた位の品質を実現できていることが、コストを抑えることにつながっている。できるだけ求めやすい価格で提供していきたい」
馬場総務部長からは
「自分で田んぼに入り草取り等を経験して下さった方は、安いと言ってくれるようになる。ぜひ、多くの方に蔵に来て頂きたい」との補足がありました。
その後、思い思いに買い物(宅送を依頼する方も多数)。帰り際には甘酒を1本ずつ土産に頂きました。
再び、タクシーに相乗りして郡山駅へ。自然田は一面の雪の下でした。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
(プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなったことから、現在、移行作業中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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