中野晃一先生講演会「立憲デモクラシーの挑戦」

 あっという間にカレンダーは6月に入りました。出勤途中のビワの木には、実がたわわになっています。
 2016年6月1日(水)の終業後は東京・四ッ谷の上智大学へ。18時半を回っていますが、まだ明るいです。
 この日開催されたのは、ケアと公共哲学を学ぶベグライテンの6月例会「グローバルな寡頭支配に抗する立憲デモクラシーの挑戦」。
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 講師の中野晃一先生(上智大・国際教養学部教授)のご専門は比較政治学、日本政治、政治思想。
 近年は安保法制問題等で積極的に発言されている方として著名な方です。
 開始予定時刻から10分ほど遅れて会場に入ると、当面する参議院選挙(この日、7月10日投票が決定)のことを話されていました(以下、文責中田)。
 「32ある全ての一人区で野党共闘が実現したのは、改憲勢力による3分の2議席確保を阻止しなければならない、という市民の思いが後押ししたから」
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 「1989年、四半世紀以上も前にベルリンの壁が崩壊し冷戦時代が終わった。その後、グローバル資本主義が世界全体を覆うよ うになり、政治も大きく変化した」
 「『人種差別はいけない』『個人の尊厳は尊重されなければならない』というのは、少なくとも規範としては成立していたはずなのに、最有力とも言われる米大統領候補がこれらを否定するような発言をしている。一方でサンダース候補が支持を集めているのは5年前のオキュパイ運動が影響しているが、全体として、いびつなナショナリ ズムが世界を覆いつつある。
 およそ世界の自由や民主主義は安泰ではない」
 「戦後の自民党政権は、比較的穏健な路線を歩んできた。公共支出を含むカネを配分することで、国民の生活の質はある程度保証されてきた面もある。
  ところが『真正保守』を標榜する現政権では、新自由主義的政策により弱者が切り捨てられ、中間層もやせ細りつつある。その一方でナショナリズムがマッチポンプ的に使われ、イデオロギー(シンボルや情念)で国民を統合しようとする動きになっている。
 これは世界的な傾向と同じだが、寡頭支配(少数派による支配)が進み、自由と民主主義が空洞化しつつある」
 「憲法9条が集団的自衛権を認めていないのは明白。安保法制が守ろうとしているのは国民ではなくグローバルな経済秩序。 日本のグローバル企業も儲けているのだから応分の負担をしろ、と言われているのに応えるもの」
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 「昨年の戦後70年談話には村山談話の4つのキーワードは全て盛り込まれたものの、内容は大きく異なっている。今回の談話で反省しているのは『新しい国際秩序への挑戦者となった』ことであるとし、日米同盟の重要性が強調されている」
 「『右傾化する日本政治』 (岩波新書)を書いたのは昨年6月頃で、安保法制の審議は終わっていなかったが、最後に少しだけ展望、願いのようなことを書いた。その後、世の中は実際にそのような方向に向か っている。
 私も一市民として運動に関わる中で、希望を持っている。 運動は世界で起きている。2010年からの『アラブの春』が1つの転機となり、スペインなど南ヨーロッパ で『占拠運動』が拡がり、やがてアメリカにも波及した」
 「代表制民主主義が機能していない。小選挙区制は少数の支持で政権をとれる仕組みであり、民意が歪められている。メディアも情報を伝えるという役割を果たしていない。それが市民による直接行動に結びついている」
 「今の新しい市民運動は主権者運動。かつてのデモは一部の怖い人たちがするものというイメージがあったが、現在は多くの人が声を上げ、明るく楽しく繋がっていくためにはどうすればいいかと、多くの人が一人ひとり工夫している。こんなことは日本では初めて。相互の他者性を受け入れて、なお連帯を求め合うかたちへと変化している」
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 「日本は周回遅れだが、世界的に起きていることとも連動している。ようやく、ここまで来ることができた。
 まだまだ遠い道のりだが、将来、振り返った時に2015年が最低で2016年からは好転してきたと思えるようになるのではないかと、希望を持っている。あきらめる必要もないし、負けることもない」
 その後は、入江杏さん(ミシュカの森)の司会で会場との間でいくつかの質疑応答。
 「選挙権が18歳以上に引き下げられるが、高校生達と話していると争点が多すぎて政治は分かりにくいという意見が多い。対立軸を一つ示すとすれば、それは何か」との質問には、
 「国家の権威、権力ありきでトリクルダウンに期待するような政策を続けるのか、それとも個人の尊厳を守る社会を選ぶかが基本的な対立軸になるのでは。参院選挙については市民連合としてどのようなアピールを出していけるか検討中。せいてはことを仕損じる」と回答されていました。
160601_5_convert_20160605082501.jpg 「怠け者の自分としては、できることなら早く普通のオッサンに戻りたい。しかし乗りかかった船。簡単に解決できる問題ではない」とも言われた中野先生。これからも積極的に発信し、行動していかれる決意のようです。
 ところでこの日は、当面する政治情勢等に関わる話が中心だったのですが、ご著書『右傾化する日本政治』(2015)では、日本政治が「右傾化」してきた歴史的経緯やメカニズム(55年体制、冷戦の終わりと新右派への転換)、それが日本の独自の事情ではなく世界的な状況とも連動していること等について、丹念に、分かりやすく解説されています。
 また、新自由主義が根強い人気を保っているのは、それが「『自然な』欲望や自己利益の追求を気前よく肯定すること」であるとし、グローバル化も無条件に望ましいとする「楽観的で独善的な前提」に繋がっていること、現在の日本では経済的リベラリズムと政治的反リベラリズムが補完関係にあること等の分析は、非常に参考になりました(岸川・中野共編『グローバルな規範/ローカルな政治』、2008)。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなったことから、現在、移行作業中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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