速水健朗(はやみず・けんろう)さんは1973年、石川・金沢市生まれのライター・編集者。
メディア論、都市論、ショッピングモール研究等を専門とする著者が、ユニークな視点から日本と世界の「食」の問題に鋭く切り込みました。
「国民食」という言葉で象徴されるように、もともと「食でつながる民族」であった日本人は、近年、急速に二極分化しているとのこと。
そこで食の好みをマッピングすることで、日本人の食にまつわる政治意識をあぶりだすことを試みます。
横軸の右側がグローバリズムで左側が地域主義。縦軸の上は健康志向で下は価格志向。
この縦横の軸で4分割された右下の範囲(グローバリズム・価格志向)に位置するのが「フード右翼」です。
安全や美味しさ以上に価格の安さや手軽さを優先し、多くの人々はここに分類されるとのこと。
対称的に左上(地域主義・健康志向)に位置するのが「フード左翼」。
スローフード運動、マクロビ、ビーガン等がここに含まれ、反農薬・化学肥料、反巨大企業の立場から、食を通じたコミュニケーションを大事にしつつ、工業製品となった食を安全・安心なものに取り戻そうとする人々です。
ただし、その理想主義は大都市限定のリベラルの独善として反感を呼ぶとし、オーガニック食品についても「一部富裕層によるエゴイスティックな贅沢な消費」との手厳しい表現もあります。
このように「本来『フード右翼』寄りの人間として『フード左翼』については気取った人々だといった先入観から本書を書き始めた」という著者は、本書の執筆の過程で千葉・八郷の有機農場やファーマーズ・マーケット等の現場に足を運ぶなか、最終章で自ら「『フード右翼』から『フード左翼』の側に転向した」ことを告白しています。
その理由は「生産者と話をしながら野菜や果物を買うという経験が自分の人生においてかつてないもの」であり「単純に美味しいから、楽しいから」。「『美味しい』は正義なのだ」と断言しています。
そして最後に、「今日の夕食をあなたはどこで誰と何を食べるのだろう。その選択は、この社会の未来を変える大きな一票に違いないのだ」と締めくくっています。