【ブログ】冨澤太郎さんが目指す循環的農林業

2017年10月26日(木)は、久々の秋晴れの一日。昼休みは職場至近の東京・日比谷公園へ。
 29日(日)までの間、ガーデニングショーが開催中です。

東京・檜原村のゴマ栽培等でお世話になった竹さん(乃庭)も出展されています。タイトルは「渓澗拾流菜」(けいかんにるさいをひろう)。

「捨てられゆくものを主素材に、そのルーツである自然に想いを巡らせる機会となれば」等と、製作の意図が掲示されていました。

その日の終業後は、東京・雑司が谷のがんばれ!子供村へ。

この日19時から開催されたのは「作物をつなぎ食と文化を保つ循環的農林業を」と題するイベント。
 都市農山漁村交流しごと塾「田舎でくらすしごとをつくる」の2回目です。

主催はNPO法人ECOM(エコ・コミュニケーションセンター) 。

この日のゲストは、山梨・上野原市西原(さいはら)に移住し新規就農されている冨澤太郎さん(やまはた農園)。

19時5分過ぎに到着した時には、冨澤さんの話が始まっていました(文責・中田)。

「5年前に横浜から移住。きっかけは、ECOM主催のしごと塾で、西原に通うメンバーに加わったこと。豊かな自然や山村の暮らしの様子に惹かれ、1年ほど通った」

「畑は傾斜地ばかりで大型の機械は入らない。山の落ち葉を竹かごで集めてたい肥にするなど、他所では見られないような循環型の、有機農業の本来の姿を垣間見た。
 しかも、それを支えているのは70〜80代のおじいちゃん達。食やエネルギーを自給している姿に圧倒され、ここには何かがあると確信した。」

「自分も畑をやってみたいと強く思うようになったが、日々、学んで身に付ける必要があると思い、移住を決意した」

「標高600メートルの高地にあるため、今朝の気温は5℃だった。
 夏は、昼間は30℃を超えても夜は20℃以下と涼しい。寒暖差が大きいため美味しい野菜ができる。冬期は、低温にさらされた大根や白菜は本当に甘くなる」

「最初は1反歩(1000平米)ほどの畑を預かり、鍬(クワ)1本で耕していた。しかし、今は生計を成り立たせるために5反歩まで拡大したため、一部は機械を使わないと手が回らなくなってきた。
 肥料も落ち葉たい肥だけでは足りず、ホームセンター等で有機肥料を購入せざるを得ないのが実情」

「野菜の販売は直売所への出荷と直販によっているが、収穫や箱詰め、発送の手間もかかる。山羊や鶏も飼ってみたいがー人ではできない」

「穀類は、脱穀や選別など食べるまでに手間がかかる。お米は栽培していないので、知り合いから買ったり野菜と交換してもらったりしている。雑穀は作り方を教わるために自分でも栽培しているが、収量は多くない」

「キビ・アワ等の雑穀、こんにゃくいも、ワサビなど、スーパーでは見られないような作物も栽培されている。これら伝統作物の種や特有の食文化を残し、未来につないでいくことも、自分がやらなければという思いもある」

「今は70〜80代の人が元気で頑張っているものの、近い将来、休耕地になる農地が急速に増えてくると予想される。また、イノシシ、シカ、サル等の獣害被害も深刻化している」

「昔は、山の木を伐って炭を焼くのが冬の仕事だった。
 90歳になる炭焼き名人の方に、窯づくりから教えてもらった。山で粘土を掘り、河原の石を組んでいく。貴重な経験をさせてもらった。
 しかし、今は炭の価値が広く伝わっていないため、作っても売れる時代ではない」

「雑木林の後に植えてから40〜50年になる杉や檜が多いが、国産材の値が下がって伐り出しても経費にもならないので、放置されたままになっている。
 そのため、地域によっては午後2時過ぎには陽が陰ったり、冬は1日じゅう日陰になる道路が凍結したりといった弊害が出てきている」

「針葉樹林が増えたことで山の保水力が低下し、降った雨がすぐに流れてしまう。地域を流れる鶴川の幅も昔は今の倍くらいあったと聞く。川が涸れ始めている」

「代金はいらないから木を伐って欲しいという声も出てきている。地域の木を活用できるようにと簡易製材機を入手した。製材にも取り組んでいきたい。11月12日(日)の『はたけっとまーけっと』では製材体験も予定」

参加者との間で自己紹介を兼ねて意見交換。

二地域居住を目指しているという女性は、行ったことのない西原に強い興味を抱かれたようで、移住者や宿泊する場所等について質問。

冨澤さんからは
 「移住者はあまり多くなかったが、地元のNPOが市と連携して空き家バンクの事業に取り組んでいることもあり、ここ数年で4~5世帯が移住してきた。住める状態にはない古民家を改修して始めた農家民宿『したで』もある」

地域再生に関心があり、FBでたまたま知って参加されたという税理士の男性からは「実際に山で暮らしている人の話を聞く機会は少なく、多くのヒントがあった」との感想。

埼玉・都幾川町の農家で研修しながら地元の葛飾区でマルシェをされている女性からは「都幾川でも休耕地が増えている。都市の住民にも農的暮らしの提案をしていきたい」との意見。

しごと塾さいはらの立ち上げに関わり、現在は食品企業のCSR部門にいるという男性からは「世界的に水のリスクが増大しており、水源林の保全にも企業の力を活用できればと考えている」等のコメント。

栃木県出身でコンビニ会社にお勤めの男性からは「先日、福島・二本松で稲刈をしたが、 単発的なイベントだけではなく継続的な農業体験に参加したい」との感想。

東京と群馬で二地域居住し、農業にも携わっておられる「しごと塾」メンバーの男性は、土に触れる生活の楽しさを強調されていました(ちなみにこの日は70歳の誕生日だったとのこと。おめでとうございます)。

意見交換の間、ECOMの森さんが描れた絵が映写されていました。

最後に冨澤さんから、
「現金収入も必要だが、食もエネルギーも、もう少し自給を目指したい。森林資源が豊富な山村ならできると思うし、昔は実現できていた。近隣の方達や、都会から来てくれる人とのつながりを大事にしつつ、できる範囲で、少しずつ実現に向けて模索していきたい」との話がありました。

農林業だけではなく、消防団や祭りなど様々な活動の面でも地域の貴重な「担い手」となっている冨沢さん。
 言葉や理屈ではなく「循環型社会」の実現を目標に掲げて日々、努力・実践されている姿に、強い印象を受けました。

 なお、次回の都市農山漁村交流しごと塾「田舎でくらすしごとをつくる」(3回目)は、11月16日(木)に群馬・南牧村からゲストを迎えて開催される予定とのことです。