2019年2月9日(土)の朝。
プランターに植えたカブやパセリの葉っぱの上には細かな雪の粒。幸い、前夜まで予報されていたほどの大雪ではなかったようですが、凍えるような寒さです。
立春の日(4日)には18度を記録するなど、寒暖の変化が激しい日々が続いています。
午後から東京・経堂の生活クラブ館へ。
雪のために開始時間を30分遅らせ、14時30分から開催されたのは「福島の漁業は今」と題する市民講座。
参加者は15名ほどです(大雪予報のためキャンセルもあったとのこと)。
主催者(NPO法人コミュニティスクール(CS)まちデザイン)の近藤恵津子さんによる開会挨拶。
CSまちデザインとは、「私のくらし」「私の暮らすまち」を豊かにするための学びの場を食育を中心にコーディネートしているNPO法人です。
この日の講師は、林薫平先生(福島大学准教授)。
昨年11月のスタディツアーで福島・いわきを訪ねた時には、福島の漁業について詳細なレクチャーをして下さった方です。
コーディネータの大江正章さん(出版社コモンズ、CSまちデザイン理事)は、林先生とは高校の先輩・後輩の間柄とのこと。
林先生のことを、研究室にこもらず現場に出る「気鋭の研究者」と紹介されました。
「福島の漁業は今~市民として考えたいこと~」と題する林先生の講演が始まりました(以下、文責・中田)。
「浜通りは地震、津波、原発事故に立て続けに見舞われ、今も大きな影響が残っている。農業に比べても漁業、特に沿岸漁業の生産額の回復の遅れは大きい」
「もともと福島県沖は海流がぶつかるところで、魚種も多く、常磐ものとして高い評価を得ていた。そこに原発事故が発生。極めて高濃度の大量の汚染水が流出したことは欧米紙でも大きく報じられた(同時に、その対応(汲み上げ止水)のために大量の中程度の汚染水が放出されたことが問題を複雑にした)」
「福島県では海域を10区分してモニタリングを実施。基準値を超過する検体は大幅に減少している。
これはセシウムの場合、海洋生物は海水濃度と体内濃度の平衡が起こるために海水濃度が下がると体内濃度も下がることが大きく、またセシウム134(当初の放射性セシウム放出量の半分を占める。)の半減期が2年と短いことと、魚介類の世代交代が進んだため。
放射性物質の排出量が減ったこともある」
「2012年3月に関係各団体の代表者からなる地域漁業復興協議会が設置され、福島沿岸漁業の復興に向けて2012年6月から試験操業がスタートした。最初は3魚種のみ。
国の基準値(100ベクレル(Bq)/kg)を超過する魚介類が出荷されないよう、自主基準(50Bq)を定め、独自に漁港の水揚げ段階でのスクリーニング検査体制を整備」
「試験操業の目的は安全性の確認や改善だけではなく、出荷先での評価を調査し、流通させることで福島の魚介類の安全性をアピールすること」
「試験操業の対象魚種は、2017年から、出荷制限の指示等を受けている魚介類を除く『すべての魚介類』となった。出荷制限の指示を受けているのは今日の時点で8種類」
「ヒラメは2018年に50Bqを超過した検体が出て、原因究明のために一時自粛。寿命8~9歳とみられる大型の個体で事故当時から生きているものと考えられた。9月末には再開。
先月、コモンカスベで100Bqを超える検体が見つかり自粛中であったが、今月に入り政府による規制もかかった。原因究明を急いでいる」
「試験操業は、汚染水対策という大変な課題も伴いながら、特に慎重に進められてきた。
次第に流通も拡大。試験操業ゆえの鮮度の良さも高く評価されている。安全性の水準をどう維持していくか、情報伝達や資源管理のあり方が次のステージに向けての課題」
「私たち市民は、これまでの試験操業の取組みの歩み(どんなに大変だったか、どのような情報の齟齬や分断があったか)を理解することが必要。汚染水問題を抜きにしても、福島の漁業は正念場が続いている。時間の経過とともに疲労感も見られるようになっている。
次のステップに進もうとしている福島の漁業・水産関係者との直接対話を今こそ開始し、問題意識を共有してほしい」
「汚染水の放出を漁協が容認してきたというイメージは誤り。漁協はつねに苦渋の立場に立たされ、厳密な検証・透明性の確保と厳しい基準を東京電力と政府に課して対応してきた。その意味では海を守ってきたのである」
「トリチウムは全く異なる問題。政府が検討している処理方法のうち『大気または海洋への放出』は責任の放棄。10年ですむ。一方、『地下または地上での管理』は責任を継続すること。100年間見張る必要があるとされる。
政府の説明では、100年見張るより10年で無くなる方が短くて簡便だということであったが、責任放棄の結果を簡便と説明するのは間違いだ」
「その上で、福島の現場だけに重い負担が集中していることを国民全体としてどのように考えるか。
100年間地上貯留という東京の市民団体の提言は、一部の性急な放水論を牽制してくれたという点で福島の漁業者にとって心強いものであると同時に、国民全体のこの問題への関わりや主体性が感じられないままでは、重圧感が増していくことにもなる」
引き続き、会場との質疑応答。賠償の関連で質問がありました。
林先生
「これまで手厚い賠償スキームの下で対応してきたが、賠償が次第に辛くくなり、漁業者・水産関係者の考え方も分かれてきた。統一的な行動が取りづらくなっている。福島産を扱ってきた仲買人の中にも頑張り切れなくなっている人が出てきている」
原発については、林先生は
「万が一のときの事故対応や予防策・避難対策・廃棄物対策など、福島から学ばなければならないことをすべて含めると安価なエネルギーとはとうてい言えない。ランニングコストだけでの議論は誤り」と回答。
一方、50Bq以下であっても表示してもらいたいとの意見も。
最後に大江さんから
「消費者が安心して食べたいという気持ちは当然のこと。一方で、生産者が生産し続けられることが重要。福島だけの問題ではない。現場だけに押しつけるのではなく、私たちも生活者として、一市民として考えていくことが必要」とまとめられました。
間もなく原発事故から丸8年を迎えますが、福島の漁業復興の道のりは遠いようです。
漁業者や漁協の方々の苦労を想像しつつ、東京に住む消費者の一人として、どう考え行動すべきかを考えていきたいと思いました。
なお、CSまちデザインでは、食や農漁業に関わるものなど、様々な質の高いセミナー等が開催されています。
ご関心を持たれたものがあれば、ぜひ参加してみて下さい。