【ブログ】浅見彰宏さんの有機農業(第7回 食と農の市民談話会)

2022年1月18日(火)、食と農の市民談話会 Season2(NPO市民科学研究室 主催) がスタートしました。
 前年6~11月に開催した全6回シリーズの第2弾。
 離れてしまった食(食卓)と農(一次産業の生産現場)との間の距離を再び縮めるため、都市に住む消費者等が、食や農に関わる問題を自分ゴトとして捉えることができるようになるための、きっかけ作りの一つの試みです。

18日(火)の第7回談話会(Season2の初回)には、福島・喜多方市山都から浅見彰宏さんにオンライン参加頂き、話題提供して下さいました。
 参加者は今回も20名ほどです。

冒頭、私から恒例のグラフ1点を紹介。
 世界の食料価格指数は最近急騰中。日本の食料自給率は低下傾向で推移し、さらに貿易収支も赤字基調となるなど、日本経済はかつてのように安定的に食料を輸入できる経済力を喪失しつつある懸念がある。
 このようななか、私たち消費者には、改めて地域の農業をどのように考えるかが求められている等と説明させて頂きました。

続いて、浅見さんから話題提供。
 「有機農業の意義と可能性~山間部での取り組みから」と題する資料を共有して説明して下さいました(以後、文責・中田)。

「私は1969年千葉県生まれ。親戚にも農家はいない。鉄鋼メーカーに勤務していた1993年、大冷害とタイ米の緊急輸入をきっかけに自分で食べものを作ることが大事だと思い、農業を目指すことに。埼玉・小川町の霜里農場(金子登美さん)での研修を経て、1996年、福島・会津地方の山都町(やまとまち、現・喜多方市)に移住した。夏の間は有機農業、冬の間は造り酒屋で蔵人として働いた」

 「限界集落とは気持ちのいい言葉ではないが、私の住む地域も、ここから奥には人が住んでいないという意味で間違いなく限界集落。現在の積雪は平年並みで1メートルほど。節分の頃までにどのくらい積もるか」

「現在の経営規模は稲作1ha、20~30種類の野菜50a、採卵鶏30羽、豚7頭。販売先は個人宅配のほか、マルシェ、生協など。
 多品目少量生産、有畜の資源循環型の小規模兼業農家(冬季は無理に農業はしない)。

 「豚は地域の未利用有機資源等で飼養。シャーロット等の名前を付け、1頭当たり10人ほどに会員になってもらっている」

「私の考える有機農業とは、有畜複合、消費者との提携・支え合い(海外でCSAとして評価され逆輸入されている)、少量多品目栽培、資源の地域内循環、雑草を含む自然との共生・共存など。有機JAS認定(第三者認定)には頼らず消費者との信頼関係のなかで有機農業を行っている。
 グローバルに考えながら、山間部の地域で実践している」

「有機農業とは、単に化学肥料や農薬を使わない(ノンケミカル)農業ではない。
 今、世界ではアグロエコロジーという言葉が広まっている。これは人権、社会性、生態系など広い視点を含む重要な概念」

「日本は2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す中で、では有機農業のシェアを25%まで増やす目標を掲げている(農林水産省「みどりの食料戦略システム」)。これは重要な数字。
 しかし、現実には、日本で有機農業運動が始まってから50年たっても0.5%に過ぎない。
 これは農家や農業関係者だけではなく、全国民で取り組むべき課題。化学肥料原料も輸入に依存しており、国内の有機質資源利用技術も有機農家が先導していく必要がある」

農水省のパンフレットにもある環境保全型農業直接支払制度は高く評価。さらに政策として充実していく必要」

「日本全体も人口減少に転じているが、農業者はさらに大きく減少し高齢化。
 中山間地域は農業生産の4割を支えている。自給率を維持・向上させるためにも、大規模専業農家の育成だけではなく、山間部など条件不利地域の小さな農家を維持していくことが重要」

「さらに山間地農業は、生物多様性の維持、保水や水源涵養、伝統的な景観・文化・地域福祉の維持、獣害から平地農業を守るなど、多くの社会的役割がある。これらは貨幣価値には置き換えられない社会的共通資本(宇沢弘文)そのもの。これらを支えていくための社会的な仕組みが必要。
 なお、近年、国連「家族農業の10年」「小農の権利宣言」など、世界的にも家族農業や小農が再評価されている」

「20年ほど、都市と農村をつなぐ活動に力を入れてきた。その一つが堰(せき)さらいボランティア。
 本木上堰(もときうわぜき)とは、江戸時代中期に12年間をかけてつくられた長さ6km、高低差50mの用水路。減少・高齢化が進む地元農家(現在は7軒だけ)だけでは次第に維持管理が困難になり、2000年からボランティアを受け入れている。
 毎年、ゴールデンウィークの頃に40年ほどが来てくれて、おかげで水路と棚田が維持できている。お客様ではなく仲間という意識で、自炊で寝具も持参してもらっている」

「ボランティア導入により、(上っ面の交流ではない)関係人口の増加、農地の保全等の効果が表れている。また、近年、米価が急落しているが、産直米の販売増加は安定的な収益の確保につながっている。
 さらに、ボランティアだけではなく、地元住民にも山間部の小さな農業の魅力が再確認されたという成果もあった。
 しかし、これらの活動は延命措置に過ぎず、後継者・担い手育成が必要」  

「棚田のコシヒカリを使った純米酒も製造している。720ml の純米酒を作るのに玄米4合、畳1枚分の田んぼが必要。これを10本飲んで頂ければ、10畳分の棚田を守ることにつながる。『飲んで応援』して頂ければ有難い」

「2011年は東日本大震災・原発事故のため、声がけも遅れ、新幹線や高速道路も完全復旧していなかったにもかかわらず40名ほどのボランティアが来てくれた。築いてきた関係性を実感することができた。
 原発事故により、安全性を危惧した提携先の消費者の6~7割から断られたというベテラン有機農家の話も聞いていた」

「都市住民による自給農場運動や、有機農業技術の体系化を推進されてきた明峯哲夫さんは、震災直後の会合で『有機農業運動はたくましい農家を生んだが、たくましい消費者を生むことには失敗した』と述べられた。
 安全だけを重視しない自立、利他の消費者(摂南大・谷口葉子氏の分類)をどのように増やしていくかが課題だと思っている」

「時代は有機農業に追い風が吹いている。
 選択肢が多いことで豊かさを求めるのではなく、責任を持つ生き方を目指すとともに、競うのではなく(Win-Winではなく)、お互いが持っていない『弱さ』を交換していくことが、これからの時代に必要なことではないか」

 「自分たちは、たまたま山都町の早稲谷というところで活動しているが、このような動きが日本全国で広がっていくことが重要。
 コロナ禍のため一昨年、昨年はほとんどボランティアには来てもらえなかったが、今年はぜひ多くの人に来てもらいたい」

「さいごにちょっとだけ宣伝」して下さったご著書は、移住・就農から東日本大震災までの浅見さん思いや地域での取組みの様子が描かれた好著です。個人的にはぜひ続編の刊行を期待したいところです。
 「上堰米のお酒」の販売サイトも紹介して下さいました。寄付金付きで1本から求められます。私は元日から頂いています(こちらもおススメです)。

 充実した内容で、多くのスライドを準備して下さっていたようですが、十分な時間は取れませんでした。申し訳ありませんでした。

20時30分過ぎからは、参加者を交えての談話(質疑応答、意見交換)です。この日も定刻(21時)にいったん閉めた後の延長戦を含め、21時30分頃まで活発な談話が行われました。

移住先(喜多方市山都)を選んだ理由についての質問には、
 「山登りが好きで、山間部や雪国に住んでみたいというあこがれがあった。当時は今のように新規就農に力を入れている市町村も少なく、偶然とご縁の結果」

埼玉県での研修では何を学んだのか、との質問には、  
 「農業技術だけではなく、他人の田んぼの畔道は歩いてはいけないなど、地域の当たり前のしきたりやルール等が学べたのが大きい。また、有機農業を広げていくためには、ベテラン有機農家の技術を継承し広めていくことも重要」

「農業を実際に否んでおられる方の話が聞けて良かった」「新緑の堰の美しさがもっとも印象に残った」等の感想。
 「家族の食べものを確保するため、個人的にも農家とつながっていきたいと思った」「有機農業を広げていくためには、生産者支援よりも消費者教育に力を入れるべきでは」等の意見。

 堰さらいに参加されたことのある方からは「しんどい作業の中で、水路には色んな生きものがいることを知り喜びを感じた」とのコメントも。

ボランティアの効果の話に感銘を受けたとの感想には、
 「関連のない人同士の交流というミラー効果があった。一方、知らない人が入ってくることに拒否感を覚える人がいないよう、地元の方に信頼されている先輩移住者の方とともに丁寧な手順を尽くした」

ボランティアから後継者となった人は出てきていないか、との質問には、 
 「ほとんどは首都圏から来てもらっているが、移住した人はまだいない。本来、後継者と期待される地元の40~50代の人が、最も農業への興味が薄い。むしろ若い孫の世代の方が農業に強い思いを持っていたりして、孫ターンに淡い期待を持っている」

 この関連で、最近ご子息が新規就農されたという方からは「農業には未経験の若者にも何かを与える魅力があるのでは」との発言。

生態学が専門の博物館職員の方からは「地域循環は生態学的にも最適。飛騨の小さな博物館は、現地に来られなくても関係人口を作る取組みをしている。千葉の大山千枚田も農業ではペイしないがオーナー制で景観や環境を守っている」とのコメント。
 これに対して浅見さんからは「日本中の人が、山間地の農地や景観は社会的に必要な資本であると認識してくれれば、直接支払いの施策も拡充されていくと思う」

地元・八王子市で田んぼ体験をされているという方からは、
「田んぼで最初に体験したのは畔塗り。米作りには、田植えや稲刈りだけではなく、色んな作業があることを知って驚いた。知ることが大事。ぜひ堰さらいに参加したい。それにしてもお米の値段がそんなに下がっていることは知らなかった」等の意見。

高校が統合され農業科が廃止されるなど、地域では活性化に逆行する動きとなっているのでは、との質問には、
 「農家は農業の後継者のことしか考えていないが、商工業を含めて地域全体の後継者をどう確保し、どのような街づくりをデザインしていくかを考える必要」との回答。

予定を超過して21時40分ほどに終了。
 モニターの向こう側に山都の空気を感じられたような気がしました。この点はオンラインの強みです。浅見さん、参加者の皆さま、有難うございました。

なお、以上は中田の主観的なまとめです。ご関心を持たれた方は、ぜひ、市民研HPの動画アーカイブ(有料、追って掲載予定)をご覧ください。

次回の食と農の市民談話会(第8回)は、2月15日(火)、新潟・上越市大賀の赤木(谷内)美名子さん(農業、もんぺ製作所)に話題提供頂きます。
 冬の厳しさなど山間の集落の様子、日々の暮らしと農業、もんぺ製作所を立ち上げた思いなどについてお話を頂き、参加者の皆さまと談話の時間を持つ予定です。

 どなたでも参加できますので(事前に申し込みと参加費(500円)の支払いが必要)、多くの方の参加をお待ちしています。