F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.034

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◇◆◇ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信− ◇◆◇

     No.34 ; 2013.12/17(火)[旧暦 霜月十五日]発行

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 いよいよ2013年も押し詰まってきました。

 22日(日)(霜月廿日)は冬至です。この日を境に少しずつ陽の気が

発ってくるという「一陽来復」という言葉には、悪いことが続いた後に、

ようやく物事が良い方に向かい始めるという意味もあります。

 

 時の流れを感じて頂く一助とするため、旧暦の毎月1日(朔日=新月の

日)と15日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は旧暦霜

月十五日付け、2013年最後の配信です。

 


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  F.M.豆知識

  フード・マイレージを始めとする食や農に関わる話題について、毎

 回少しずつ取り上げていきます。

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日本は「農業大国」か

 (8)  注目されるCSA

 前回、日本農業(特に大都市圏から遠隔地にある農業)に、いかに消

費者との間の「顔の見える」的な関係を組み込んでいくかが重要と述べ

ました。

 

 ここで注目される1つのキーワードがCSACommunity Supported

Agriculture;地域支援型農業)です。

 これは、消費者が地域の小規模な家族経営等の生産者を支えるために、

シーズン前に話し合って作付計画等を定め、消費者は1年分の代金を前払

いする取組で、天候等による作柄のリスクは、消費者と生産者がシェア

することになります。

 

 このような取組が、近年、特にアメリカで非常に盛んになっています。

アメリカは世界最大の農産物輸出国であり、グローバリズムが最も進ん

だ国のように見えますが、実はその一方で、地域においては、住民同士

が支え合う小さな循環のサイクルが併存しているのです。

 

 日本はどうでしょうか。

 確かに、大都市近郊の野菜農家等においては、消費者や飲食店等間で

の宅配等による直接取引を盛んに行っている農家も多く、「○○さんの

野菜」といった「顔の見える関係」が構築されているケースは増えてき

ました。

 しかし、生協や宅配会社の取組も含めて、代金を前払いするまでの形

態は、ほとんどありません。

 

 また、宅配等を利用している消費者の動機は、新鮮で安心感のある食

材を入手したいという一方的なニーズに基づいている場合が多く、生産

者の経営を支援していこうという意識は高くありません。

 

 このことは、一昨年の原発事故により、永年にわたって有機農業等に

取り組んでいた福島県や北関東の農家から、提携していたはずの消費者

の多くが手を引いてしまったことからも明らかです。

 

 ところが、実はCSAの原型は日本にあるとされているのです。

 それは196070年代にかけて盛んになった有機農業運動と、それに取

り組む生産者を支援していこうという生協等による「産消提携」です。

 これがヨーロッパを経由し、新大陸・アメリカに渡って盛んとなって

いるのですが、本家である日本においては、生産者や生協組合員の高齢

化という事情もあり、本来の意味での「提携」は次第に低調になってし

まいました。

 

 消費者は、農業生産の実態について想像力を働かせる必要があります。

 例えば残留農薬の安全性が気になるのであれば、それを使用する(せ

ざるを得ない)生産者の健康にも思いを馳せるべきです。

 

 そして、真に安心できる質の高い農産物を求めるのであれば、それを

生産してくれる生産者を、言わば「一蓮托生」として、コストをともに

負担し経営を支援していくという覚悟が必要ではないかと考えます。

 むろん生産者の方も、消費者の声や要望には真摯に耳を傾ける姿勢が

必要です。

 

 このように、生産者と消費者の間のつながりを再構築し、多くの小さ

な循環を作り出せた時に初めて、多様な風土と高い人口密度という強み

を活かした「農業大国・日本」が実現するものと思われます。

 

 なお、このことと関連し、蔦谷栄一先生は「コミュニティ農業」とい

う示唆に富む概念を提唱されています。

 次の「オーシャン・カレント」欄で紹介させて頂きます。

 

[参考]農林水産省「農業と消費者の新たな結びつきに関する実態

   調査」(2010年度)

   http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/jigyou/pdf/csa.pdf

 

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  オーシャン・カレント −潮目を変える−

  食や農の閉塞感を打ち破るためのユニークな活動や、それに取り組

 んでおられる方達を紹介するコーナーです。

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 蔦谷栄一(つたや・えいいち)先生は、1948年、宮城県の生まれ。

 永く勤められた農林中金総合研究所をこの10月に退職され(引き続き

客員研究員として在籍)、新たに、ご自身で「農的社会デザイン研究所」

を立ち上げられました。

 

 これまで日本農業について多くの論文や提言を出されてきましたが、

それらの基調にあるのは、行き過ぎたグローバル化や市場万能主義から

の離脱と、共生原理や地域・生活を重視する社会へのシフトの必要性で

す。

 

 都市農業や耕畜連携等の分野についても造詣の深い蔦谷先生が、近年、

これらとも関連して提唱されているのが「コミュニティ農業」です。

 

 これは、「関係性、特に生産者と消費者あるいは地域住民,都市と農

村との関係性を生かして展開される農業の統合的概念、総称」と定義さ

れ、その代表的な取組が「産消提携」とのことです。

 すなわち、生産者は消費者のニーズに対応した生産を行い、消費者は

再生産可能な価格で購入して生産者を支持していくというもので、アメ

リカ等で盛んに取り組まれているCSACommunity Supported

Agriculture;地域で支える農業)もこの一形態です。

 

 また、コミュニティ農業は、人間と人間の関係を中心とするものの、

人間と生物・自然との関係をも重視するものであり、その観点から、有

機農業の拡大も重要とされています。

 

 一方、蔦谷先生は趣味も多才で、和笛(横笛・尺八)や水墨画等をた

しなまれるとのこと。

 さらに、週末は東京から山梨市牧丘町に通って自然農法に取り組んで

おられ、借り受けた農家を「みんなの家・農土香(のどか)」として、

田舎体験の場として開放されているそうです。

 

 蔦谷先生の講演会等には私も何度が参加させて頂いていますが、分か

りやすく穏やかな言葉の端々に、日本農業に対する熱い情熱が感じられ

ます。

 

 来年1月からは、銀座農業政策塾(第3期)が開催されますので、これ

に参加すればしっかりと学ぶことができます。農土香への見学もプログ

ラムに含まれているようで、私も楽しみにしています。

 

参考

 蔦谷栄一先生プロフィール

 http://www.nochuri.co.jp/company/staff/4detail.html

 

 農的社会デザイン研究所ホームページ(1月中立上げ予定)

 http://www.nouteki-design.com

 

 銀座農業政策塾 3期「コミュニティ農業の実践」

 http://m-motegi.at.webry.info/201311/article_13.html

 

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  情報ひろば

  食や農に関わるセミナーや勉強会の情報、拙ブログの更新情報、各

 種イベントの開催情報等をお知らせします。

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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 121日付け]グリーンスマイル2周年

  東京・檜原村でのゴマ栽培、品川のマルシェ等に取り組むグリーン

 スマイルが2周年を迎えました。

   http://food-mileage.jp/2013/12/01/

 

 123日付け]ドキュメンタリ映画 『紫』−千年の色−

  東京・沼袋のシルクラブで開催された上映会。京都の染め職人・吉

 岡幸雄氏の言葉「自然に対しもっと謙虚でないとあかん」。

   http://food-mileage.jp/2013/12/03/

 

 125日付け]練馬大根引っこ抜き競技大会 観戦記

  ほとんど生産されなくなっていた練馬大根を復活させるために企画

 された「競技」大会も7回目を迎え、迫力ある熱戦が繰り広げられまし

 た。

   http://food-mileage.jp/2013/12/05/

 

 127日付け]幻の練馬大根+大道芸

  東中野・ポレポレ座で開催された浅草雑芸団等による大道芸イベン

 ト。この日の主役も練馬大根です。

   http://food-mileage.jp/2013/12/07/

 

 128日付け]冬の檜原村への行き方−Hinoha La Dish

  夏の間はゴマを栽培していた東京・檜原村で、様々な大根を育てて

 懐石料理を頂こうという企画がスタートしました。

   http://food-mileage.jp/2013/12/08/

 

 1210日付け]201312月、冬の一日

  久しぶりに訪れた立川の昭和記念公園には、見事な茅葺の民家が移

 築されていました。国立競技場ではボルティス徳島がJ1昇格を決定。

   http://food-mileage.jp/2013/12/10/

 

 筆者が説明者等として参加予定のイベントです。

  参加を希望される場合等は必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

 

  ひご野菜セミナリオ「水前寺もやし見学とフード・マイレージ講座」

  日時:1223日(月・祝)13:0016:00

  場所:熊本市青年会館(市立体育館、熊本市中央区出水2

  主催:くらし・マイレージアリアンス

  (お問合せ等)080-3983-5724(北)

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  締切り等の場合がありますので、参加を希望される場合等は、必ず事

 前に主催者にお問い合せ下さい。

 

  「共奏キッチン」@シェア奥沢

  日時:1218日(水)18002200

  場所:シェア奥沢(世田谷区奥沢2-32-11

  主催:共奏事務局

  (詳細、お問合せ等

   https://www.facebook.com/events/1400652450179288/?ref_dashboard_filter=upcoming

 

  埼玉県小川町 有機と和紙のてくてく食べ歩き散歩

  日時:1221日(土)11001500

  場所:べりカフェ(小川町大塚1186)集合

  主催:NPO生活工房つばさ・游

  (詳細、お問合せ等

   http://atnd.org/event/E0021158

 

  greensmile新年会in檜原村 〜鍋と盆栽とわたし〜

  日時:2014111日(土)9:3017:00JR武蔵五日市駅集合)

  場所:東京・檜原村

  主催:グリーンスマイル

  (詳細、お問合せ等

   https://www.facebook.com/events/606091536095213/?notif_t=plan_user_invited

 

  市民科学研究室「設立20周年記念シンポジウム、交流会」

  日時:118日(土)

     シンポジウム14:0017:30、交流会18:0021:00

  場所:せたがや がやがや館 多目的室(世田谷区池尻2-3-11

  主催:NPO法人市民科学研究室

  (詳細、お問合せ等

   http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2014/01/11820.html

 

  第12回品川マルシェ「全快野菜ちゃん」

  日時:119日(日)10:0015:00(売り切れ終了)

  場所:品川寺(ほんせんじ、品川区南品川3-5-17

  主催:グリーンスマイル

  (参考

   http://www.greensmile.asia/2013/12/04/yasai12/

 

  下里有機の里づくり講演会「里山から見える未来」

  日時:126日(日)13:3015:00

  場所:小川町農村センター(埼玉県小川町下里459-1

  基調講演:澁澤寿一氏(NPO法人共存の森ネットワーク理事長)

  主催:下里有機の里づくり協議会

  (詳細、お問合せ等

   http://tad-a.com/shimosato/satoyama/

 

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* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 の部分は、全て筆者の個人的なものです。

 

* 今号で2013年の配信は終了です。1年間、読んでいただき有難うござ

 いました。

  次号は、偶然ながら明年11日(火)(旧暦・弥生朔日)の配信を

 予定しています。来年もよろしくお願いします。

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 F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 

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  発行者:中田哲也