オーガニックな食と思想-フード左翼とフード右翼-

2015年のカレンダーは早くも2月に。
 その初日の日曜日は、前日に引き続いて陽射しの眩しい冬晴れになりました。
 久しぶりに自宅近くに借りている市民農園へ。
 金曜日に降った雪でぬかるんでいます。日蔭には雪も残っています。
 サボって足を運んでいなかったうちにも、ホウレン草や温海カブは育っていました。
ベタ掛けにしていた寒冷紗を、トンネルに仕立てました。 

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白菜やキャベツはいつでも収穫できそうです。この日は伝統大蔵大根を1本、収穫。

ふくしまオーガニックコットンプロジェクトの綿は、これでほぼ収穫終了。たくさんの綿を恵んでくれました。
 昨日、話を聞いたばかりの元気野菜作りづくりにも、今年は挑戦しようかと思います。

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午後から世田谷・三軒茶屋へ。
 駅に直結しているキャロットタワーの2~5階に、せたがや文化財団が運営する生活工房(世田谷文化生活情報館)があり、随時、展覧会やセミナー、ワークショップ等が開かれています。

 初めて来ましたが、立派なスペースです。
 3Fのギャラリーでは、今年の干支にちなんだ「羊と手-衣服と作り手、その生き方」という企画展が開催中(2/15まで)。
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そして、14時から5Fのセミナールームで開催されたのは、連続講座・知の航海 vol.2 「オーガニックな食と思想」。
 お二人の新進の講師による対談形式です。

お一人目は、東京生まれのジャーナリスト・清野由美(きよの ゆみ)さん。
 国内外の先端的な都市デザインやライフスタイル等を取材されている方で、朝日新聞でジタルに「葉山から、始まる。」「鎌倉から、ものがたり。」を連載中です。

もうお一人は、石川県生まれのライター・編集者の速水健朗(はやみず けんろう)さん。
 メディア論や都市論がご専門ですが、2013年刊行の『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)は、現代日本人は食で2つに分断されており、それが政治意識と関わりつつある等と論じた力作です。
 その斬新な視点と分析内容には、私も強い興味を覚えました。

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定刻の14時を回って開会。
 参加者は30名ほど。男女半々、若い方からシニアまで。場所柄か、お洒落な雰囲気の方が多いようです。
 対談は、まず清野さんから、「食で思想がマッピングできる」ことについての問いかけから始まりました。

速水さん
 「日本人は食で一つになる民族。古来、米は特別なものだったし、現代も『国民食』という言葉がある。
 ところが最近、ファストフードやジャンクフードを好む人達がいる一方で、お金をかけてもオーガニック等を志向する人達がおり、食をめぐって大きく2つに分かれている。これは貧富の格差から生じている訳ではない。
 縦軸を『健康志向←→ジャンク志向』、横軸を『地域主義←→グローバリズム』としてマッピングしてみると、現代人の政治意識が浮かび上がってきた。
 『ジャンク志向・グローバリズム』の大量生産される食産業に依存する人達を『フード右翼』、それに対抗して自ら食を選ぼうとしている『健康志向・地域主義』の人たちを『フード左翼』と名付けてみた。
 『フード右翼』は、オーガニックやファーマーズマーケットへの関心が高い」
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清野さん
「自分は横浜郊外に住んでいるが、回りに農地も多く、よく直売所を利用している」

 速水さん
「自分もファーマーズマーケットは大好き。生産者と産地などについて話ができる楽しさは、値段や安心感以上の価値がある。
 欧米でも食のライフスタイルは多様化しており、その背後には政治的な思想がある。例えばビーガン(絶対菜食主義)の背景には動物愛語や環境保護の思想がある。
 アメリカでもイギリスでも、街の中に当たり前のようにベジタリアンやオーガニックのレストランがある。日本は、今のところそこまでの状況にはない」

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清野さん
「ところで、速水さんご自身の食生活はいかがですか」
 速水さん
「元々、食材に強いこだわりはなく『フード右翼』寄りだったが、土鍋で玄米ご飯を炊くようになって、おかずも玄米に合う食材を選び、料理をするようになった。
 本では『フード右翼』を悪く書いているように読めるかも知れないが、食が産業化され大量生産されるようになったからこそ、食べものの値段が安くなって貧困が減ったという面は重要。
 有機農業がどんどん拡がっていくと、世界の飢餓が増えることになりかねないのでは」

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清野さんからは、連載もされている葉山の状況について、スライドとともに紹介がありました。
 最近、東京や横浜で大企業に勤めていた人が葉山に移住し、オーガニックカフェや手造りの工房など、お洒落で小さなビジネスを始めているケースが増えているそうです。
 そして、速水さんの著作をもじって、『風土左翼』『風土右翼』というマッピングもできるのでは、との提起がありました。
 前者は「葉山ピープル」に代表され、快適志向、リベラルで地域通貨等に関心が高く、「マイルドヤンキー」に象徴される後者は、地元志向、保守的でブランドやショッピングセンター大好き、とのことです。
 関連して、アメリカ西海岸のポートランドも話題に上りました。コンパクトシティーとして注目されているそうです。

さらに都市論(コミュニティの集まりが都市など)にまで話題は及び、対談は予定の15時30分を回って終了。
 刺激に富み、たくさんのヒントを得ることができた対談でした。

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前掲の著作によると(対談でもありましたが)、本来「フード右翼」寄りだった速水さんは、執筆を通じて有機農業に取り組む生産者を訪ねて話を聞き、ファーマーズマーケットに出かけ、オーガニックレストランに通ったりするうちに、「フード左翼」の側に「転向」されたとのこと。

改めて「フード左翼」の定義を紹介すると、
 「産業社会において大量生産の工場のように生み出される『食』の在り方に反対する立場の人々」「例えば、健康や安全性や食を通じたコミュニケーションを大事にする」とあります。

そしてこの本は、次のような文章で締めくくられています。
 「今日の夕食をあなたはどこで誰と何を食べるのだろうか。その選択は、この社会の未来を変える小さな1票に違いないのだ」