奥沢ブッククラブ(第11回)

 このところ、天候不順(というか、荒れた天気)が続きます。
 2016年8月18日(木)の午後も強い雨になりましたが、18時前に東京・自由が丘に着いた頃には上がっていました。緑道のベンチはずぶ濡れです。
 
 この日、シェア奥沢で開催されたのは「奥沢ブッククラブ第11回」。 
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 通常、終業後に来ると19時頃になるのですが、この日は「ゆう活」で1時間早く到着。
 いつもは作って頂いたものを食べるだけですが、この日は少しだけお手伝い。
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 この日の献立は、Tさん特製のピロシキに加え、蛸とアボガドのサラダ、自家製ぬか漬け、「堕落豆」(シェフ・シゲさんのオリジナルレシピ)に、完熟トマトの冷製そうめんカッペリーニ。
 飲み物はキャッシュオンでお好みで(アルコールまたはソフトドリンク)。
 私からは、先日、福島・広野町で新妻有機農園の方から求めてきた純米酒、初代・鶩(あひる)を差し入れ。
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 食事をする前にみんなで食事をするというのが、この読書会の恒例です。シゲさん、いつもご馳走様です。
 一緒に食べることで場の雰囲気が和み、対話が進みやすくなります。「食」にはコミュニケーションを促進する力があるのです。
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 この日の参加者は13名と、これまでで最多人数となりました。気になっていたけどやっと来れた、という初参加の方も。
 まずは、自己紹介も兼ねて「お薦めの本」の紹介。今回から、原則として一人一冊です。
 席の並びから、まず私が指名されました。
 「お薦めの一本」として鶩(あひる)の紹介に続き、お薦め本として『くまモンとブルービーのなかまたち』(文・葉山祥鼎、絵・ハヤマテイジ)を紹介。過日、北鎌倉の葉祥明美術館で求めてきたものです。
 先日、阿蘇を訪問した際の状況と合わせて紹介させて頂きました。
 報道こそ少なくなっているものの、福島や熊本の被災地はまだまだ復興途上にあること、そのなかで頑張っている方達がおられることに、想いを馳せて頂ければと思った次第。
 中心メンバーのお一人の女性からは秋山亜由子『こんちゅう稼業』。昆虫の世界を舞台に人間の心を描いたコミックです。
 参加2回目の女性からは、原田マハ『ジヴェルニーの食卓』。モネなど印象派の4人の巨匠の物語。
 続く女性からは、本日の課題本(後出)と同じ坂口安吾の小説『白痴』を紹介して下さいました。
 次の常連の男性からはジョエル・バーカー『パラダイムの魔力』
 続く男性からは. モーリス・ドリュオン『みどりのゆび』。お父さんが兵器を作っていることを知った少年が町じゅうに花を咲かせるという話だそうです。
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 絵本の読み聞かせをされているUさんのお薦めは西加奈子『まく子』。 ぜひ、男性の感想を聞かせてもらいたいとのこと。
 久しぶり参加の女性からはジョン・アーヴィング『ホテル・ニューハンプシャー』
 福祉関係の仕事をされている女性からは南雲明彦、浅見淳子『治ってますか? 発達障害』。発達障害者も発達する、安心して暮らせる子ども達を増やすための本だそうです。
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 シゲさんからは『カレル・ヴァン・ウォルフレン『いまだ人間を幸福にしない日本というシステム』
 ピロシキを作って下さったTさんのお薦めは、宇江佐真理『深川にゃんにゃん横丁』。久しぶりに宇江佐さんの本を読みたくなりました。
 続く女性からは浅場明莉、菊水健史『観察する目が変わる動物学入門』
 男子大学生クンからはエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
 次の女性からは梨木香歩 『からくりからくさ』 。女性4人の共同生活から生まれる物語だそうです。
 最後に初参加の女性からは宮部みゆき『ステップファザー・ステップ』。うーん、宮部さんの小説もまた読みたくなりました。
 ここまでで20時20分。
 ここから本体(?)の、この日の課題図書・坂口安吾『堕落論』についての話し合いに移ります。
 敗戦直後の日本で、それ以前の倫理観から「堕落せよ」とカゲキに訴えた著名な評論ですが、きちんと読んだのは今回が初めてでした。
 「戦後こそは大きなパラダイムシフトだった。その中でこの本は社会に大きな影響を及ぼした」という肯定的に評価される方がいる一方で、「戦前の価値観を全て否定していることには賛成できない」との意見。
 学生クンからの「読んでいる間中、堕落とはどういうことを言っているのか、ずっと考えていた」との発言に対しては、
 「終戦時の社会の雰囲気を壊すために、あえて『堕落』という言葉を使ったのではないか」
 「落ちてみないと、底が分からないということもある」等のコメント。
 また 「誰のための優等生か、何がきれいなイメージか。自分の中から変えていくことが必要と感じた」
 「堕落することによって人間は再生するという視点が新鮮だった」等の意見も出されました。
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 個人的な経験に即して、
 「学生時代、ビートルズは悪魔の音楽と教わっていた。戦後、価値観ががらっと変わったことは想像できる」とのコメントも。
 さらには、「時代背景等とは関わりなく、生きていくことは落ちることであり、それを受け止めていくのが人生、というように自分は読んだ」
 「現代に置き換えて共感できるかというと疑問。ただ、多摩川の水質も落ちるところまで落ちたから改善されたのだから、堕落ということは必要なのかもしれないと感じた」等のコメントも。
 今回も様々な意見が出されました。同じ本を読んでも、感じるところは様々です。
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 ちなみに私からは、以下のような農村の美徳(耐乏、忍苦)の全面否定と進歩に対する盲目的な信仰に対しては違和感を表明。
 何しろ進歩を続けてきたことに「反省」し、今は「脱成長」という言葉(イメージ先行と私は感じていますがですが)さえもてはやされている時代なのですから。
 -- 「文化の本質は進歩であり、農村には文化の進歩に関する毛一筋だの影もない」「乏しきに耐えず、不便に耐え得ず、必要を求めるところに発明、文化、進歩が起こる」(『続堕落論』)
 むしろ、以下のような戦争の全面否定、憲法論、原子力等に対する評論の現代的意義は、ますます大きくなっているのではないかと感じました。
 -- 「戦争にも正義、大義名分があるというのは大ウソ。人を殺すだけのこと。全然ムダで損だらけ」(『もう軍備はいらない』)、「段々乎として、否、絶対に、もはや、戦争はするべきではない」(『戦争論』)
 -- 「人に無理強いされた憲法と云うが、拙者は戦争をいたしません、というのはこの一条に限って全く世界一の憲法さ」(『もう軍備はいらない』)
 -- 「原子エネルギーも、その使用の限界が発見、確定せられて、はじめて文化の一員となる」(『戦争論』)
 この日は最後になってしまいましたが、恒例により、Uさんが絵本を読んで下さいました。
 以前も紹介して下さった谷川俊太郎、松本大洋『かないくん』です。
 本の作りやデザインにも凝った本で説明やセリフが全くないページもあるのを、Uさんが情感を込めて朗読してくださいました。
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 これまでこの読書会に参加することで、本には色んな読み方ができることを知ることができました。
 貴重な経験をさせて頂き、感謝申し上げます。 
 さて、次回(第12回)の奥沢ブッククラブは9月29日(木)18時半からを予定。
 課題本は時には大著を、ということで早くから決まっていたドストエフスキー『罪と罰』です。
 今回の課題本(事前に読んでくることが(一応)必須となっています。)はちょっと骨が折れますが、関心を持たれた方は参加してみて下さい。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなっていることから、現在、移行作業を検討中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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