-水上 勉『土を喰う日々-わが精進十二ヵ月』(新潮文庫、1982/8)-
http://www.shinchosha.co.jp/book/114115/
著者は1919年、福井・本郷村(現おおい町)生まれ。『飢餓海峡』『雁の寺』『華岡青洲の妻』等で著名なベストセラー作家で、2004年に逝去されました。
生家は貧しかったために9歳の頃から京都の禅寺に修業に出され、16~18歳の頃には典座(てんぞ、禅宗寺院で食事を司る役職)を務め、精進料理の作り方を覚えたそうです。
本書の各章は月ごとになっており、調理をする著者の姿とともに、旬の素材を用いた料理の写真がふんだんに掲載されています。
例えば、蕗の薹のあみ焼き(2月)、こごめの胡麻和え(3月)、筍としょうがのいためもの(5月)、しめじの淡味炊き(9月)、山芋のまる焼き(12月)など。
著者によると、精進料理とは「畑と相談し、土にいま出ている旬の菜を用いること、つまり、土を喰うもの」とのこと。「台所は土と結びついていなければならない」ともされています。
そして「万物枯死の真冬、貯蔵庫から撫でさすりながらとり出した芋のありがたさ」(1月)。「ひとにぎりのよもぎの若葉や芹の葉に、いじらしくて涙がこぼれてくる」(4月)といった記述もあります。
さらに「調理の時間は、じつはその人の全生活がかかっている一大事」「いかに食事をつくり、いかに心をつかうか、工夫するか、の行為は、人間のもっとも尊い仕事」であるとし、また、食事をする時には「食べものを料理した人たちの苦労を思い、その食をいただけるありがたさをまず感謝せねばならぬ」「一粒の米も無駄にできぬ」ともされています。
座右か枕頭に置き、新しい月がめぐってくる度に、その月の章を改めて読み直すという楽しみもある好著です。
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【F.M.Letter No.137、2018.2/16[和暦 睦月朔日]掲載】
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