【ほんのさわり】寮 美千子『空が青いから白をえらんだのです』

-寮 美千子『空が青いから白をえらんだのです-奈良少年刑務所詩集-』 (2011.5、新潮文庫) -
 https://www.shinchosha.co.jp/book/135241/

著者は1955年東京生れ。外務省勤務、コピーライターを経て1985年に毎日童話新人賞を受賞し作家活動に。2005年には小説『楽園の鳥カルカッタ幻想曲』で泉鏡花文学賞を受賞されています。

2006年に奈良市に移住。ある日、煉瓦造りの壮麗な建物に惹かれて奈良少年刑務所の「矯正展」を訊ねました。そこで展示されていた受刑者の詩や絵の気真面目さや繊細さに、寮さんは心を捕らえられたそうです。
 この時のことがきっかけとなり、翌年から、特に対人関係に問題を抱えた受刑者を対象にした「社会性涵養プログラム」の講師を務めることになりました。

このプログラムにおいて、寮さんは、童話や詩を通じて抑圧された感情を掘り起こして情緒を耕そうという授業(月1回、1時間半、6ヶ月)を担当しました。
 その内容は、自分で詩を書くという宿題を出し、本人がみんなの前で朗読して感想を述べあうというものでした。この授業によって、最初の頃は挨拶さえ十分にできなかった少年たちは、魔法のように変わっていったそうです。

この詩集は、このプログラムから生まれた作品を中心に編集されたものです。
 冒頭に置かれたのが「くも」。「空が青いから白をえらんだのです」という一行詩です。
普段、あまりものを言わない子だったAくんは、この自作の詩を朗読したとたん、堰を切ったように語り出したとのこと。
 「今年はおかあさんの七回忌です。おかあさんは病院で最期に『つらいことがあったら、空をみて。そこにわたしがいるから』と言ってくれた。おとうさんはいつも体の弱いおかあさんを殴っていたけど、ぼく、小さかったから何もできなかった」

空にいるおかあさんがみつけやすいように、自分は雲のような白い色を選んだという詩を聞いた教室の仲間たちは、次々と手を挙げ、感想を語り始めました。
 「この詩を書いたことが、A君の親孝行やと思いました」等々。
 自分の詩がみんなに届き、心を揺さぶったと感じたAくんの表情は、晴れ晴れとしていたそうです。

寮さんは、「ほんとうの意味での更生が始まるのは、社会に戻ってから。一般社会が元受刑者を温かく迎え入れることが必要。刑務所の門を出た少年たちが、二度と刑務所に戻ってきませんように」と訴えられています。。

[参考]
 寮美千子さんホームページ「ハルモニア」
 http://ryomichico.net/
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出典:F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 https://archives.mag2.com/0001579997/
   No.161
(過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/