【ほんのさわり No.231】小口広太『日本の食と農の未来』

小口広太『日本の食と農の未来−「持続可能な食卓」を考える』(2021.9、光文社新書)
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045609

著者の小口広太(おぐち・こうた)さんは1983年長野・塩尻市生まれ(実家は農家)。日本農業経営大学校専任講師等を経て、現在は千葉商科大学人間社会学部准教授(博士(農学))。

あとがきには「本書の執筆を決意したきっかけは大江正章さんが亡くなられたこと。本書は大江さんの遺志を引き継ぎたいという決意表明」と記されています。学生時代から可愛がられ、一緒によく飲み、議論したとのこと。本書に掲載されている事例の多くは、大江さんと一緒に歩いた「現場」だそうです。

本書の問題意識は、現在の日本の食と農は、グローバル・フードシステムの下で「食の海外依存」「国内農業の荒廃」という二重の脆弱性を抱えていることにあります。… 続きを読む

【ほんのさわり No.230】ナオミ・クライン『地球が燃えている』

−ナオミ・クライン『地球が燃えている−気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』(2020.11、大月書店)
 http://www.otsukishoten.co.jp/book/b532892.html

『ショック・ドクトリン』で戦争や天災など大惨事に便乗する多国籍企業等の実態を暴いたジャーナリストが、本書では、略奪型資本主義から脱炭素社会へ転換するビジョン(グリーン・ニューディール)を示しています。

気候危機が深刻化するなか、著者はよく「気候変動を止めるために個人として何ができるか」という質問を受けるそうです。それに対して著者は「何もないというのが事実。あなたひとりでは何もできないのです」と答えるとのこと。
 気候変動問題は、個人がライフスタイルを変えるだけでは解決できないと断言しているのです。… 続きを読む

【ほんのさわり No.229】平賀 緑『食べものから学ぶ世界史』

−平賀 緑『食べものから学ぶ世界史−人も自然も壊さない経済とは?』(2021.7、岩波ジュニア新書)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b584818.html

広島出身の著者は、国際基督教大学卒業後に香港の大学に留学し、新聞社、金融機関等に勤めながら食や環境に関わる市民活動を企画運営された後に、改めて大学院に進学し、ロンドン市立大学で修士(食料栄養政策)、京都大学で博士(経済学)を取得されました。
 現在は、京都橘大学経済学部准教授を務めるとともに、様々な市民活動にも参画されています。… 続きを読む

【ほんのさわり No.228】石渡博明『いのちの思想家 安藤昌益』

−石渡博明『いのちの思想家 安藤昌益』(2012.11、自然食通信社)
 http://www.amarans.net/3022

かつて「忘れられた思想家」と称されていた安藤昌益については、現在は農山漁村文化協会による労作『安藤昌益全集』(全21巻)等により、その思想の全貌を知ることが可能となっていますが、昌益の著作はもともと難解で、入門書的なものがないかと探していたところ、農文協・農業所センターで出会ったのが本書です。
 著者は1947年神奈川・横須賀市生まれの「在野」の昌益研究家で、「安藤昌益の会」の事務局長も務められています。… 続きを読む

【ほんのさわり No.227】影山知明『続・ゆっくり、いそげ』

−影山知明『続・ゆっくり、いそげ』(2018.11、クルミド出版)
 https://www.kurumed-publishing.jp/books/10

著者は1973年東京・国分寺生まれ。外資系の大手コンサルティング会社を経てベンチャー投資ファンドを創業、独立。いわばグローバル資本主義のど真ん中で活躍されていた著者は、2008年、西国分寺駅に近い生家の地にシェアハウスとカフェ(クルミドコーヒー)をオープンし、地元をフィールドに様々な社会的な活動・実践に取り組むようになりました。

本書は、前著『ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済〜』(2015、大和書房)で提示した「仮説」について、その後の実践・経験を踏まえて自ら証明を試みようとしたものです。… 続きを読む

【ほんのさわり No.226】勝川俊雄『魚が食べられなくなる日』

−勝川俊雄『魚が食べられなくなる日』(2016/8、小学館新書)
 https://www.shogakukan.co.jp/books/09825278

1972年東京生まれの水産学者(東京海洋大学准教授)である著者は、このままでは日本の水産業は衰退の一途をたどり、漁食文化の存続さえ危ぶまれると強い警鐘を鳴らしています。
 資源量が減る一方で消費者の「魚離れ」もあり、「獲れない+売れない→儲からない」という悪循環から漁村の限界集落化が進んでいるというのです。

その背景には、著者は水産政策の不備もあるとします。… 続きを読む

【ほんのさわり No.225】指出一正『ぼくらは地方で幸せを見つける』

−指出一正『ぼくらは地方で幸せを見つける−ソトコト流ローカル再生論』(2016/12、ポプラ新書)
 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201111.html

著者は1969年群馬県生まれの月刊『ソトコト』編集長。
 島根県「しまコトアカデミー」のメイン講師を務められるなど、多くの地域づくりプロジェクトに関わり、「関係人口」という言葉の提唱者の一人とされています(注)。

著者は、これまでの社会は幸せや豊かな社会の尺度を東京や東京的なものに置いてきたのに対して、現在、これら既成の価値観にとらわれることなく、それぞれのやり方で自分が手ごたえを感じながら、地域で本当に豊かな暮らしを送っている若い人たちが各地で活躍しているとしています。… 続きを読む

【ほんのさわり No.224】宇沢弘文『人間の経済』

−宇沢弘文『人間の経済』(2017.4、新潮新書) −
 https://www.shinchosha.co.jp/book/610713/

著者は1928年鳥取生、2014没。
 本書は、著者晩年のインタビューや講演録をもとに編集部が取りまとめ刊行したもので、宇沢本人による詳細な校正作業は行われていないとのこと。「語り」だけに、宇沢の思いがより率直に表現されているように思われます。… 続きを読む

【ほんのさわり No.222】上間陽子『海をあげる』

−上間陽子『海をあげる』(筑摩書房、2020.10)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480815583/

著者は1972年沖縄生まれ。米海兵隊・普天間基地の近くに住みながら、幼い頃から性虐待を受けたり、若年出産をした女性等の調査を続けておられる琉球大学教授です。
 その著者が「目の前の日々」を書き記したエッセイ集は、なかなかに重たい内容を含んでいます。

前夫との離婚話が進む失意の中、友人が持たせてくれた粕汁を泣きながら食べたこと(「美味しいごはん」)。小学生の頃から父親から性暴力を受け、今は風俗で働く17歳の母親とのこと(「何も書かない」)、子どもの頃は大嫌いだった祖母との別れ(「空を駆ける」)など。… 続きを読む

【ほんのさわり No.221】いとうせいこう『福島モノローグ』

−いとうせいこう『福島モノローグ』(2021.2、河出書房新社)-
 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029498/

 著者は1961年東京生まれ。編集者を経て、作家、映像、音楽、舞台など様々な分野で活躍している方。
 本書は、東日本大震災で被災し、その後も被災地で暮らし活動されている女性たちにインタビューしたノンフィクションです。「あとがき」によると、小説『想像ラジオ』(2013年、野間文芸新人賞)で震災の死者に成り代わって「語り過ぎた」ため、本書はインタビュワーの質問や意見などは全てカットした「モノローグ」となったとのこと。

避難先から帰ってきたお母さんたち、災害FMを立ち上げた社協職員、地域の復興に取り組む村会議員や農業者の方達から、著者は「忘れたいこと」「忘れられないこと」を聴き出していきます。… 続きを読む

【ほんのさわり No.219】濱田武士『魚と日本人−食と職の経済学』

−濱田武士『魚と日本人−食と職の経済学』(2016/10、岩波新書)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b266373.html

著者は1969年大阪府生まれ。北海道大学大学院(漁業経済学)を修了し、東京海洋大学准教授を経て現在は北海学園大学経済学部教授。
 本書は、近所にあった鮮魚店が閉店したことに「まちの暮らしの楽しみが一つ消えた」と著者が嘆く場面から始まります。顕著な「魚離れ」(消費量の減)という「食べる人たち」の現実。日本独自の文化である「魚食」が廃れつつあるのです。

著者の視点は、消費の現場から順番に上流(生産の現場)に向かっていきます。… 続きを読む