【ほんのさわり】畑村洋太郎「未曾有と想定外」

畑村洋太郎『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ』(講談社現代新書、2011年7月)

著者は1941年生まれの東京大学名誉教授・工学博士で、「失敗学」の提唱者として著名な方です。
 本書は東日本大震災の直後、東電福島原発事故調査・検証委員会(いわゆる政府事故調)の委員長に就任されるまでの短い期間に、一般読者向けに書かれた啓発本です。
 私は本書を2012年に1度読んでいたのですが、このたび再読し、その内容が全く色あせていないどころか、むしろ6年目を迎えた今こそ改めて胸に刻むべき多くの教訓が含まれていることが分かりました。

その一つは、「人は忘れる」という大原則があるということです。… 続きを読む

【ほんのさわり】テツオ・ナジタ「相互扶助の経済」

テツオ・ナジタ『相互扶助の経済-無尽講・報徳の民衆思想史』(五十嵐暁郎監訳、福井昌子訳)

著者は1936年ハワイ生まれの日系アメリカ人で、シカゴ大学教授を長く務められた方(専攻は近代日本政治史・政治思想史)。

大阪の町人学問所・懐徳堂における教えや、山片蟠桃、三浦梅園、石田梅岩、弘世助三郎、和田耕斎など、必ずしも有名ではない在野の実践者を含む様々な人の思想や事績を丹念に辿り、近世から江戸時代の日本社会には、相互扶助的な経済や思想の伝統が存在していたことを明らかにしています。なお、巻末には11ページに及ぶ膨大な参考文献リストが収録されています

相互扶助的な経済や思想の背景には、「経済は道徳と無関係であってはならない」「自然はあらゆる知の第一原理であらねばならない」等の確固とした認識があったとし、その具体例として「講」と「報徳運動」が取り上げられています。

鎌倉時代や平安時代には宗教的活動を目的としていた講(伊勢講、念仏講等)は、江戸時代には飢饉等に対する経済的な相互扶助を目的とする頼母子講、無尽講等に深化しました。信頼・契約に基づくセーフティ・ネットの仕組みが実践されていたのです。… 続きを読む

【ほんのさわり】祖田修「鳥獣害」


-祖田修「鳥獣害-動物たちと、どう向き合うか」(2016.8、岩波新書)-

著者は1939年島根県に生まれ、京都大学大学院大農学研究科教授、福井県立大学学長等を歴任された農業経済学の分野における第一人者の方です。
公務を退かれた後、京都府南部のある村に半移住し田畑を耕し始められた時に直面したのが「憎らしい鳥獣達」(シカ、イノシシ、サギ、アライグマ等)でした。研究者として現場をみてきたはずの鳥獣害の深刻さを、自ら痛切に体験されたそうです。

本書では各地における鳥獣害の現状や先進的な取組事例が豊富に紹介されていますが、本書の特色は、宗教学や民俗学の成果も引用しつつ、鳥獣害問題の本質と意味、人間と動物のあり方等を考察していることです。

著者は、動物と人間の「共棲の場所」の形成が必要と訴えられています。… 続きを読む

【ほんのさわり】宇根豊「農本主義のすすめ」

宇根豊『農本主義のすすめ』(2016.10、ちくま新書)
 
 著者は1950年生まれ。福岡県・農業改良普及員を経て二丈町(現糸島市)で新規就農、NPO法人 農と自然の研究所を設立して全国に先駆けて実施された「生きもの調査」を実施されるとともに、「百姓学」の提唱者としても著名な方です。

 その宇根さんが、農本主義の入門書を著されました。
 宇根さんは「そもそも農を進歩・発展させるという発想自体が間違い。農の価値は、在所で、天地自然の下で、百姓として生きていること自体にある」と断言されます。… 続きを読む

【ほんのさわり】大江正章「地域に希望あり」


-大江正章「地域に希望あり:まち・人・仕事を創る」(2015.5、岩波新書)-

大江正章(ただあき)さんは行動派のジャーナリストにして出版社コモンズ代表。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、全国有機農業推進協議会理事、NPO法人コミュニティスクール(CS)まちデザイン理事等も務められています。
去る11月5~6日のCSまちデザイン主催「福島県沿岸の有機農業生産者を訪ねる旅~原発事故を乗り越えて農の復興へ」の際には、同行して様々な解説をして下さいました。

本書には、その大江さんが「消滅する」とさえ言われている全国の中山間地域等に実際に足を運び、そこに住み、活動されている方たちから聞き取り調査をされた内容のエッセンスが凝縮されています。

大江さんは、「私たちはこれまでの社会のあり方と生き方を変えるしかない」とします。… 続きを読む

【ほんのさわり】大和田順子「アグリ・コミュニティビジネス」


−大和田順子「アグリ・コミュニティビジネス」(2011.2,学芸出版社)−

著者は東京のお生まれ。百貨店、化粧品会社、シンクタンク勤務等を経て2007年から(一社)ロハス・ビジネス・アライアンス共同代表。日本にはじめて LOHAS(ロハス)を紹介された方としても著名です。

その大和田さんの最近の関心事項の1つが「豊かで幸せな地域づくり」。
本書で大和田さんは、経済成長の結果、便利で豊かになったはずの日本が「気がついてみたら生活や社会の基盤である食や農が危うく、砂上の楼閣のような状態に陥っていた」とし、「こうした“危機”を脱するためには“農” … 続きを読む

【ほんのさわり】西加奈子「まく子」

西加奈子『まく子』(2016.2、福音館)

今回は食べものや農業とは直接関係なく、思春期に入りかけた少年を主人公とした小説を紹介します、

サトシ(小学5年生)は、「得体の知れない何かに変身してゆく化け物みたい」な同級生の女子を目の当たりにし、自分は大人になりたくないと切望しながら体がどんどん変化していることを嫌悪しています。
 そのサトシの前に、石や砂をまくのが大好きな転校生・コズエが現れます。実は宇宙人というトンデモ設定。コズエは砂をまく理由を「全部落ちるから楽しい。永遠に続かないから素敵なんだ」と言います。

ひなびた温泉町を舞台に祭りや放火事件といったエピソードを経て、コズエとオ力アサンが光の塊のUFOに乗って宇宙に帰るクライマックスシーン。… 続きを読む

【ほんのさわり】西田栄喜「小さい農業で稼ぐコツ」

西田栄喜「小さい農業で稼ぐコツ」(2016.2、農山漁村文化協会)

著者は石川・能美市で「日本一小さい専業農家・風来」を経営されている通称・源さん。
 その経営面積は30aと日本平均の8分の1で、4棟のハウスと自宅内の店舗兼加工所により「田舎で家族5人が暮らしていくには十分」な1200万円を売り上げているそうです。

大学卒業後、バーテンダーやホテルの支配人等をされていた著者は「命の元である食を育てる農業こそ、人を幸せにできる究極のサービス業」と思い、1999年、新規就農されました(初期投資は自己資金の140万円のみ)。

野菜等を載せて住宅地等を回る「引き売り」から始められたそうです。… 続きを読む

【ほんのさわり】蔦谷栄一「農的社会をひらく」

蔦谷栄一「農的社会をひらく」(2016.4、創森社)
 -足元からの自立と協同で農的社会の創造へ-

著者は長く(株)農林中金総合研究所で日本農業論、都市農業、持続的循環型農業等を中心とした調査研究に携わり、農林水産省の各種研究会委員等の公職も務められ、2013年には農的社会デザイン研究所を設立された方です。
 また、自ら山梨県下で自然農を実践するとともに田舎体験教室を主催、銀座農業政策塾の代表世話人も務められるなど、子ども達や都市の生活者を含めた多くの人に「農」の現代的な重要性について積極的に発信されています。

冒頭で著者は「農的社会に1人でも多くの人に触れてもらい、農の持つ社会デザイン(変革)能力を知ってもらいたい」と訴えています。… 続きを読む

【ほんのさわり】高橋博之「都市と地方をかきまぜる」

高橋博之「都市と地方をかきまぜる-『食べる通信』の奇跡」(2016.8、光文社新書)

離れてしまった生産者と消費者との間の距離を計測する指標がフード・マイレージ。この距離を縮めることで、私たちの食や農に関わる多くの
問題は解決できます。しかし、一般の人にとって生産者と直接「顔の見える関係」を作ることは簡単ではありません。
 そのようななか、都市住民が新しいふるさとをみつけるきっかけとなる史上初・世界初の「食べもの付き情報誌」が誕生しました。本書では、
その「食べる通信」を生み出した著者の実践に基づく熱い思いが綴られています。… 続きを読む