【ほんのさわり】萬田正治、山下惣一監修『新しい小農』

−萬田正治、山下惣一監修 小農学会編著『新しい小農〜その歩み・営み・強み』(2019/11、創森社)−
 http://www.soshinsha-pub.com/bookdetail.php?id=404

萬田正治先生(鹿児島大学名誉教授)、山下惣一さん(農民作家、佐賀)達の呼びかけにより、2015年7月、福岡市で開催された小農学会設立総会には、全国から農家、研究者、ジャーナリストなど90人ほどが参加しました。
 農的暮らし、田舎暮らし、菜園家族、定年帰農、市民農園、半農半Xなどに取り組む都市生活者も含む「小農」学会では、学会誌の発行、定期セミナーの開催(オーシャン・カレント欄参照)など様々な活動を行っています。… 続きを読む

【ほんのさわり】西川芳昭『種子から食卓を繋ぐ』

−西川芳昭『種子から食卓を繋ぐ−環世界をめぐって』(2021/02、東信堂)−
 https://www.toshindo-pub.com/book/91638/

1960年、奈良県の採種農家に生まれた著者は、大学で作物遺伝学を専攻し、現在は龍谷大学において、重要な遺伝資源である種子の持続可能な保全と利用方法等について社会経済的な観点から研究されています。

近年、SNS等において不安を煽るような誤った断片的な情報が氾濫しています(在来種の自己増殖が禁止される、多国籍企業による遺伝子組み換え種子に席巻される、かびないパン、食べてはいない・・・等々)。そして、これらに騙され信じる人が増えていることを著者は強く憂慮しているとのこと。
 例えば、主要農作物種子法の廃止や種苗法改正に反対する主張には、科学リテラシーや法律知識が不足しているものが多く、なかには明らかに非科学的なデマ(問えばF1が少子化につながる等)もあると著者は指摘します。… 続きを読む

【ほんのさわり】アキノ隊員『ぼくたち、ここにいるよ』

−アキノ隊員(写真・文)『ぼくたち、ここにいるよ−高江の森の小さないのち』(2017.8、影書房)−
 http://www.kageshobo.com/main/books/bokutachikokoniiruyo.html

作者の宮城秋乃さんは、沖縄・うるま市の浜比嘉島出身のチョウ研究家(日本鱗翅学会・日本蝶類学会会員)。
 本書では、県北部・やんばる地方(2021年、世界自然遺産に登録)の森にくらす生きものたちの姿が、美しい写真と分かりやすく楽しい文章で紹介されています(子どもでも読みやすいように、ルビも振られています)。

日本最小クラスのチョウであるリュウキュウウラボシシジミの交尾、産卵、ふ化、羽化などの連続写真は、息をのむような繊細な美しさがあります。オキナワカブトムシ、オオシマゼミ、ナミエガエル、オキナワハイ(色鮮やかな毒蛇(怖い!))など、次々と珍しい生きもののたちが現れ、ページをめくるのが楽しみになります。… 続きを読む

【ほんのさわり】ウクライナ民話『てぶくろ』

−エウゲーニー・M・ラチョフ絵、うちだりさこ訳 ウクライナ民話『てぶくろ』(1965.11、福音館書店)−
 https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=41

1965年に発行された本書ですが、手元にある本の奥付には172刷(2022年4月)とあります。長期間にわたって人気のあるロングセラーです。
 しんしんと雪の降る森の中で、おじいさんが手袋の片方を落としてしまいました。その暖かそうな手袋を最初に見つけたネズミが、さっそく入り込んで住み着きます。… 続きを読む

【ほんのさわり】保阪正康『五・一五事件』

−保阪正康『五・一五事件-橘孝三郎と愛郷塾の軌跡』(2019.4、ちくま文庫)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480435873/

本書は、1939年北海道生まれで昭和史の実証的ルポルタージュの第一人者が、五・一五事件の首謀者とされた橘孝三郎に対する長時間のインタビューをもとに著したものです。1973年(当時、著者33歳、橘孝三郎80歳)の刊行から46年後に文庫化されました。

代表的な農本主義者の一人とされる橘は、水戸の出身。
 第一高等学校に進むも中退して郷里に帰り、自ら山野を開墾して家族的小農を基礎とする協同農業を実践しつつ、農村青年教育のための愛郷塾を主宰しました。… 続きを読む

【ほんのさわり】足達太郎ほか『農学と戦争』

−足達太郎、小塩海平、藤原辰史『農学と戦争−知られざる満州報国農場』(2019.4、岩波書店)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b450153.html

ロシアのウクライナへの武力侵攻により、食料安全保障の重要性に対する認識が高まっていますが、食料や農業は、ある意味、戦争と強い「親和性」があります。戦争遂行に当たって、食料の確保は不可欠の条件であるためです。

第二次世界大戦中の日本も、食料確保のための国策を強力に推進しました。
 国内では少年たちを食糧増産隊として動員して全国に報国農場を設けると同時に、植民地であった満洲(中国東北部)には「満洲報国農場」という制度をつくり、府県や農業団体に政府公認の農場(むろん、本来の所有者の現地の人たち)を割り当て、入植・移民させたのです。… 続きを読む

【ほんのさわり】アレクシエーヴィチほか『アレクシエーヴィチとの対話』

−スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、鎌倉英也、徐京植、沼野恭子『アレクシエーヴィチとの対話−「小さき人々」の声を求めて』(2021.6、岩波書店)−
 https://www.iwanami.co.jp/book/b583375.html

アレクシエーヴィチは1948年、ウクライナ人の母、ベラルーシ人の父のもとで西ウクライナで生まれ、幼い頃は祖母に育てられたそうです。両親とともにベラルーシに移住して大学を卒業後、ジャーナリストとして活躍。
 『戦争は女の顔をしていない』『アフガン帰還兵の証言』『チェルノブイリの祈り』など、対ドイツ戦の従軍女性兵士、アフガニスタンからの帰還兵と家族、放射能汚染地で暮らす人々などの声(凄絶な内容です。)を綿密にすくい上げた作品を公表してきました。
 かつての共産主義体制、あるいは現在のプーチンやルカシェンコ政権には一貫して批判的で、著作が発禁扱いとされたり、政治的な裁判の被告とされたこともありました。現在はドイツに亡命中です。… 続きを読む

【ほんのさわり】榊田みどり『農的くらしを始める本』

−榊田みどり『農的くらしを始める本−都市住民のJA活用術』(2022.1、農山漁村文化協会)−
 https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54021235/

著者は秋田県生まれ。生協勤務を経て、現在はフリーの農業ジャーナリスト、農政ジャーナリストの会副会長、明治大学客員教授。農水省の核種検討会の委員等も勤められています。

「豆知識」「オーシャンカレント」欄でみてきたように、様々な施策が講じられているものの新規就農者数が十分に確保されていないなか、神奈川・秦野市における先進的・ユニークな取組みはかねて注目されてきたところですが、本書は、その全体像を詳しく明らかにしているルポルタージュです。
 著者が注目しているのは、狭い意味での(農業を仕事とする)「新規就農者」だけではありません。… 続きを読む

【ほんのさわり】山本有三『米百俵』

−山本有三『米百俵』(2001.1、新潮文庫)−
 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784101060118

新潟・長岡市に伝わる逸話をもとに、1943年に山本有三が戯曲化し出版したもの。
 戊辰戦争において長岡藩は、家老・河井継之助の主導の下、新政府軍に徹底的に抗戦し破れました(司馬遼太郎の小説『峠』でも有名です)。
 焦土と化し、禄高も三分の一に削られた長岡の再建を託されたのが、恭順派として斥けられていた小林虎三郎でした(ちなみに『武士の娘』の杉本鉞子の父・稲垣茂光家老も、河井と対立して地位を追われた側でした)。… 続きを読む

【ほんのさわり】小松理虔『地方を生きる』

−小松理虔『地方を生きる』(2021.1、ちくまプライマリー新書)−
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480683922/

著者の小松理虔(こまつ・りけん)さんは、1979年福島・いわき市小名浜の生まれ。
 東京の大学への進学、上海での日本人教師等を経て、高校卒業後10年ぶりに地元に戻り、現在は「ローカル・アクティビスト」として様々な活動をされています。

その中心となっているのが、ウェブマガジンの創刊、オルタナティブスペース「UDOK.」の開設といった「場づくり」です。誰かと出会っていい時間を過ごすことで、様々な課題についての議論の端緒となり、結果として社会との関わりや公共性が生まれるというもの。… 続きを読む

【ほんのさわり No.231】小口広太『日本の食と農の未来』

小口広太『日本の食と農の未来−「持続可能な食卓」を考える』(2021.9、光文社新書)
 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045609

著者の小口広太(おぐち・こうた)さんは1983年長野・塩尻市生まれ(実家は農家)。日本農業経営大学校専任講師等を経て、現在は千葉商科大学人間社会学部准教授(博士(農学))。

あとがきには「本書の執筆を決意したきっかけは大江正章さんが亡くなられたこと。本書は大江さんの遺志を引き継ぎたいという決意表明」と記されています。学生時代から可愛がられ、一緒によく飲み、議論したとのこと。本書に掲載されている事例の多くは、大江さんと一緒に歩いた「現場」だそうです。

本書の問題意識は、現在の日本の食と農は、グローバル・フードシステムの下で「食の海外依存」「国内農業の荒廃」という二重の脆弱性を抱えていることにあります。… 続きを読む

【ほんのさわり No.230】ナオミ・クライン『地球が燃えている』

−ナオミ・クライン『地球が燃えている−気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』(2020.11、大月書店)
 http://www.otsukishoten.co.jp/book/b532892.html

『ショック・ドクトリン』で戦争や天災など大惨事に便乗する多国籍企業等の実態を暴いたジャーナリストが、本書では、略奪型資本主義から脱炭素社会へ転換するビジョン(グリーン・ニューディール)を示しています。

気候危機が深刻化するなか、著者はよく「気候変動を止めるために個人として何ができるか」という質問を受けるそうです。それに対して著者は「何もないというのが事実。あなたひとりでは何もできないのです」と答えるとのこと。
 気候変動問題は、個人がライフスタイルを変えるだけでは解決できないと断言しているのです。… 続きを読む