豊かな食の実現と市場経済

 勤労感謝の日の朝、冷たい雨が残るなか銀座へ向かいました。実は銀座は、これからの日本の食と農業にとって重要な役割を果たすことが期待されている場所です。

 銀座3丁目の紙パルプ会館では、恒例のファーム・エイド銀座2010が開催されました。そのキャッチフレーズは「あなたのおいしい!が日本の地域と食を元気にします!」。銀座の屋上でのミツバチ見学会(ご存知「銀パチ」)、全国各地から美味しいものが集まるプチマルシェ等と併せ、いくつかのフォーラムが開催されました。

 私が参加したのは、「いま、なぜ赤肉か!? ~短角和牛から考える食文化の創造~」。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」の山本謙治氏を司会に、岩手県岩泉町の生産者・合砂哲夫氏、フレンチ・銀座KANSEIシェフの坂田幹靖氏、スローフードジャパン会長の若生裕俊氏、銀座社交料飲協会理事の白坂亜紀氏、そして農水省からは食料安全保障課・西経子補佐がパネリストとして参加。
 
  短角牛とは、岩手県を中心に細々と(失礼)飼育されている牛の品種ですが、脂肪交雑(サシ)が少ないため市場では高く評価されません。つまり、一般的な流通に任せているだけでは広がらず、農家の所得は保証されません。しかし、放牧中心で飼うことができ(つまり輸入飼料を必要とせず、食料自給率の向上にも貢献)、赤肉のため健康面でも注目されているのです。
 その短角牛を、それぞれの立場でどう考え普及していくかをテーマにしたセミナーにおいては、消費者である私たち自身の将来の豊かな食をどう実現していくか、という課題と手法が明らかになってきました。岩手の生産者と銀座の飲食店の間での連携が発展しそうです。そして私たち自身ができることとしては、スーパーやレストランに行って、短角牛はありますか、短角牛を食べたいのですが、と声をあげること。
 印象的だったのは、短角牛を林間放牧することによって、その地域の森林や野草、生物多様性が確保されているという話(DVDもありました)。このような環境保全の便益は、短角牛の肉の価格には反映されていません。つまり、市場メカニズムだけでは実現できない大事な価値が、たくさんあるということです。
 さらに、私たち消費者が短角牛を買うことは、地域の環境を守ることにもつながるだけではなく、食料自給率の向上、フード・マイレージの削減(食料輸送に伴う環境負荷の削減)にも貢献することになるのです。
 プチ・マルシェには岩泉町も出展されており、この日の昼食は短角牛のカレー丼。生産者の方はじめセミナーの話を伺った後で美味しさも格別でした。ちなみに龍泉洞の水のペットボトルつき。
 午後は松戸市に移動し、千葉大学で開催された日本フードシステム学会の秋季大会に参加しました。ちなみに千葉大学園芸学部のキャンパスは、水戸徳川家の別邸・戸定邸の旧敷地内にあります。雨上がりの石畳は、銀杏や紅葉の葉に彩られていました。
 さこちらの学会のテーマは「食の信頼の復興-フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)の意義と展望」。FCPとは、食の信頼を回復するための事業者の取組を消費者に伝えるための取組です。
 パネリストは、大手のメーカー、商社、コンビニ、自治体の担当者等。こちらは午前中のセミナーとは対照的に、正に市場経済の担い手(すなわち日本の食品流通の中心)の皆さんです。
 日本の消費者が多様化し、経済のグローバル化が進む中、事業者の皆さんと消費者が連携・協働して、日本全体、トータルとして食に対する信頼を回復し確保していくための取組が不可欠であり、そのため手段であるFCPは始まったばかりです。
 農水省では、ホームページを開設して様々な情報発信などプラットフォームづくりに取り組んでいます。豊かな食を実現していくための主体は、生産者、事業者、そして消費者です。消費者の方を含め、多くの方々の参加を期待したいところです。
 FCPは、将来の豊かな食の実現に向けての1つの方策になることが期待されます。